生徒が自由に話し合い
多面的な思考に触れる情報センターの取り組み

獨協中学・高等学校

獨協中学・高等学校は136年の歴史を誇る屈指の伝統校だ。創立以来、医学界、法曹界、教育界をはじめとする多彩な業界に優れた人材を数多く輩出してきた。その教育の土台となっているのが「人間教育」だ。昨年から新たな取り組みを開始した情報センターの特色から、その教育に迫った。


獨協中学・高等学校の情報センターは、生徒の主体的な活動を支える組織だ。8万冊もの蔵書数を誇る図書館をはじめ、PC室やミーティングルームなどで構成されている。情報センターの役割について、鳥山靖弥部長がこう話す。

「本校の情報センターは、図書館の本を貸し出したり、紹介するという役割にとどまりません。生徒が興味を持ったことを調べ、考え、まとめるなど、発展的な学習を支える施設として多くの生徒に活用してほしいと考えています。そこで、さまざまな取り組みを始めました」

昨年からスタートした読書会もその一つだ。各専門分野の入門となる本を題材に、生徒同士が自由に意見交換させる取り組みだ。

第一回の題材は『源氏物語』だった。源氏物語は高1、2年の古典の授業で扱っているものの、授業では文法的な学びが中心となる。

読書会では物語の情感や登場人物の心の変化などを丁寧に読み解いていく。一つひとつの言葉の背後にあるものについて各自が考え、話し合うことで、多面的な解釈に触れる機会になった。

また、最近の読書会では現代社会や倫理の授業で学ぶプラトンの『ソクラテスの弁明』、ヴィクトール・フランクルの『夜の霧』を選定。これらの本の重要な部分を紹介した上で、どう解釈していくのかを各自が考え、議論を進めていった。鳥山教諭がこう話す。

「これらの本は、自分で手にとって読むことがあまりない本ですが、読書会で扱うことで、授業での学びをさらに深められたと思います。人間がさまざまな状況の中で、いろんなことへの悩みを抱えつつ、いかに自分の人生を生き抜いてきたかを感じてもらえたようです」

また、獨協談話室も昨年からスタートした企画だ。その発端となったのが、毎年中3〜高2生までの希望者を対象に実施しているドイツ研修旅行だ。夏休みの12日間、獨協ゆかりのドイツの地で現地の学生とともに環境や歴史、文化について学んでいる。この研修で最も重視されているのが、現地の人たちとの交流だ。コミュニケーションをとりながら自分一人では気づけないものを発見し、互いを深く理解していく。

そうした体験を、普段の学校の中でも取り入れたいという声から始まったのが獨協談話室だ。週1回行われている。生徒が日頃から感じている疑問や哲学的な問い、学校生活で気づいたことなどを自由に話し合う。誰もが持つ、“自分が考えていることを人に伝えたい”“他人がどういう風に思っているのかを知りたい”という気持ちを、満たす機会にもなっている。

「“なぜ、外国語を学ぶ必要があるのか”など、説明するのが難しい話題になったこともあります。下級生が発したこの疑問について、上級生がドイツ研修旅行での体験によって新たな視野が広がったことを話していました。教員が説明する以上に下級生が素直に受け止めていたのが印象的でした。こういう学年横断的な取り組みは、後輩を育て、獨協の伝統を受け継いでいくことにもつながっていくと思います」

今後、獨協談話室では本格的なディベートや、他校と交流する取り組みも行っていきたいという。

また、年2、3回開催される文学散歩では、学校周辺を散策する。獨協の周辺地域には、古くからさまざまな作家が居住しており、舞台になっている文学作品も多い。そういった歴史的価値がある場所を実際に歩き、周辺環境の豊かさに目を向けていく。

こうした多彩な取り組みには、普段から図書館を利用している生徒より、いろいろなことに関心を持って、アクティブに語り合いたいという意欲あふれる生徒の参加が多いという。

この他にも、図書館の利用率を上げていくために、図書館の本を使った朝読書や、高2生の進路選択の時期に、関連する本を教室に置く出張図書館など、さまざまに工夫されている。

一方、情報センターでは今夏、PC室の改修工事が完了。9月から、英語のオンライン英会話のほか、数学や理科、国語など様々な授業での活用がスタートした。情報センターの今後の可能性についてについて、鳥山教諭がこう話す。

「生徒自身がいろいろなものに関心を持つことは、すべての学びの出発点になります。普段の授業とは異なるアプローチを通して、ものを知ることの楽しさや、物事に一歩踏み込んでみることで、見えてくる世界の素晴らしさに気づくことがあります。そういうきっかけ作りを担っていきたいと考えています」

136年前に、哲学者西周を初代校長として創設され、戦後13代校長天野貞祐が示した教育理念「学問を通じての人間形成」の下、有為な人材を数多く輩出してきた獨協中高。受験生に向けて、鳥山教諭がこうメッセージを送る。

「しっかりと物事を見て、自分の頭で考える土台があってこそ、人間としての人格が形成されていく。そういう創立者の教えを意識しながら教育に取り組んでいます。また、本校には生徒一人ひとりの興味・関心に寄り添うさまざまなサポートがあります。いろいろなことに興味を持ち、やる気がある人であれば、本校で一層の成長が期待できると思います」

取材日:2019.9.13