鉄道を通して社会に目を向けていく
鉄道研究部の活動

成城中学校・高等学校

知的好奇心を刺激する探究型学習

成城中学校・成城高等学校には45種類のクラブがある。その一つ、鉄道研究部は創部から今年で70周年を迎えた伝統あるクラブだ。現在、中1〜高2の約30人が活動している。鉄道研究部があるから成城を受験したという部員もいるほど、中身が充実している。その活動とはどのようなものなのか—。


鉄道研究部は、鉄道に関する各種イベントや文化祭などのスケジュールに沿って活動している。主な内容は、ジオラマ制作とプレゼンテーションの2種類だ。それぞれの大会に向けて、日々準備を進めている。顧問の松原圭太教諭が言う。

「鉄道好きが集まる部ですが、卒業するまでにできるだけ視野を広げてほしいと思います。また、生徒が成長していくには、自分で考えて試行錯誤する姿勢が大切です。そのため、顧問である我々は活動に口を挟まず、生徒の自主性を尊重しています」

活動の一つであるジオラマ制作では、テーマと構図を決めてから、建物や道路、橋などのミニチュアを作っていく。既成品の建物や材料を一切使わないのがポリシーだ。完成するまで約4ヵ月もかかるという。部長の豊田武甫さんがこう話す。

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「ジオラマ制作の要となるのが構図決めです。テーマをもとに、どこに何を設置するのかをみんなで決めていくので、意見が分かれることもあります。それをまとめるのは大変ですが、話し合いを繰り返すとどんどん完成度は上がっていきます。完成したときはかなりの達成感があります」

ジオラマを出展する機会は毎年3、4回ある。今年行われた全国高校生鉄道模型コンテスト2019では、豊田さんたちが制作した作品“時代を渡す橋”が、ベストプレゼンテーション賞を受賞した。この作品では、学校近くのJR飯田橋駅周辺の現在の姿と江戸時代の様子を表現。それらを当時から同じ場所にあった牛込橋でつないだ。今回の受賞について、顧問の遠藤護教諭が言う。

「現実にある風景をそのままジオラマにあらわしていく作品が多い中、今回の作品は、一つのジオラマの中に二つの時代を表現し、それらを橋でつないでいくというほかでは見られない独創的なものでした。その発想が評価を受けたのだと思います」

大会当日、部員たちは見学にきた人に対し、自分たちがつくったジオラマについて説明する役割もこなしている。また、他校のジオラマも見学して、気に入ったものについて、どんな意図で制作されたのかなどを取材。レポートにもまとめていく。

一方、プレゼンテーションを競う大会にも毎年2、3回出場している。大会への出場について、副部長の村上寛明さんがこう話す。

「与えられたテーマについて、みんなで企画案を決めて、時間内に効率よくプレゼンテーションできるように構成を練り、パワーポイントで資料を作成します。プレゼン大会で自分たちが発表した企画案は実際に採用されるケースも多く、それがモチベーションにもつながっています」

その一つが、全国高校生地方鉄道交流会(鉄輪ピック)だ。今年はJR北海道の花咲線の活性化をテーマに実施された。事前に花咲線について調べ、改善点や新たな活用方法を考えて大会に挑んだ。大会は3日間にわたり、納沙布岬や花咲線沿線各地で調査・研究や写真撮影を行った。成城は企画部門・写真部門での受賞を果たした。

縦のつながりにより、磨かれるコミュニケーション力

夏休みに行う合宿も鉄道研究部のイベントの一つだ。合宿に向けて、部員全員が各自で旅程案をつくり、プレゼンテーションを行う。優れていたものをまとめて、上級生が旅程を決定する。

今年の夏は、関西で2泊3日の合宿を行った。行き帰りの乗車券や宿泊費を含め、2万円の予算に収めていくため、在来線を乗り継いだり、団体割引を利用するなど、工夫を凝らしたものとなった。当日は分単位のスケジュールなので、電車が遅れると予定が変わってしまう。そういう不測の事態にも上級生が随時対応し、部員を先導している。

この他、文化祭では見学者に向けて、日々の活動報告を行ったり、4m×3mの大きなジオラマを制作している。鉄道に関するクイズをつくるなど、来校者に楽しんでもらえる企画も満載だ。

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また、年に1、2回発行している部誌「連結器」には、合宿のリレールポやジオラマの制作記などを掲載。自由研究のコーナーでは、2、3人の部員が好きな路線について調べ、現在の状況や10年、20年後にどうなっていくのかを分析。原稿を執筆している。

鉄道研究部には、OBも頻繁に手伝いに来るという。年代を超えた縦のつながりは、部員たちにとって大人とのコミュニケーションを学ぶ場にもなっているようだ。最後に、30年間顧問を務めている大溝貫之教諭がこう話す。

「顧問として、さまざまな仕組みを考え実行していく中で、生徒たちが自分の頭で考えて行動し、少しずつ成長していく姿を目の当たりにしてきました。部活動で、好きなことを追究していく楽しさを知ることはもちろんですが、特に鉄道研究部では鉄道にまつわる社会のさまざまなものについて、興味を持ってもらいたいと考えています。そのきっかけになる部として、今後も部員たちに寄り添っていきたいと思います」

鉄道研究部のさまざまな活動で
身についたことについて

右:部長 豊田 武甫さん/左:副部長 村上 寛明さん

豊田 鉄道研究部ではありますが、携わっていることは鉄道に直接関係することだけでなく、ジオラマ制作では建物の構造などの知識も必要ですし、プレゼン大会では、その地域の地理的な知識が不可欠です。

村上 プレゼンテーションを通して相手に自分の考えを伝える力を磨きました。また、大会に来る人の多くが大人なので、年齢が離れた人に自分たちの作品を説明する機会も多いです。

取材日:2019.8.22