環境を通じて地域とつながる「緑のネットワーク委員会」
未来を見据えたエコロジーの精神を養う

獨協中学・高等学校

獨協中学・高等学校では、未来を見据え、環境への取り組みを教育の一環として実践している。2006年に設置されたビオトープは環境教育のシンボルとなっており、その管理を行っているのは「緑のネットワーク委員会」だ。屋上緑化、地域とつながる活動など、生徒主体で行う活動内容について、顧問の塩瀬治教諭と委員会の生徒に話を聞いた。


緑のネットワーク委員会は、委員会活動の一つだ。中1から高2で構成され、部活動の合間を縫って、週2回活動している。主な活動内容は、屋上緑化、ビオトープの管理、環境ファシリテーター活動、文化祭での発表、ボランティア・アワードへの参加など。生徒同士でアイデアを出し合い、自ら活動している。委員会は04年に発足し、06年に校内にビオトープを設置したが、もともとは、前校長が環境教育に力を入れる目的で始めたものだった。当時は、岡山大学と提携して研究していた「簡易作物栽培法」を、教員主導のもと、生徒と一緒に行っていた。顧問の塩瀬教諭がこう説明する。

「当初は、鶏糞土を利用した土の再生による作物栽培と、ゴーヤの緑のカーテン作りを行っていました。ですが、生徒にとってはやらされているようで、楽しいものではありませんでした。そこで、『もっと生徒が参加できて、地域に貢献できる活動にしよう』と当時の委員会のメンバーに提案したところ、とても関心を示してくれました。その後はメンバーが、ビオトープのデザインや、小学校訪問など、どんどんアイデアを出してくれて、現在のような生徒が主体的に活動する形ができました」

屋上では季節ごとに、ナス、トマト、スイカ、ゴーヤなどの野菜を、少ない土で育てられる栽培法によって栽培している。ただ育てるだけではなく、日当たりや水撒きの調整による発育の違いなどの実験も兼ねており、生物学の実験の方法についても学べる。この屋上緑化は海外からも注目されており、ノルウェー・リレハンメルのNGO団体や、ドイツのエコスクールの高校生などが見学に訪れた。

屋上でできた野菜は、近隣の小学生を招いて収穫体験をしてもらう。

「小学生と作物を収穫していると、ナスに花が咲くことに初めて気づく子どももいました。おいしかった、というお礼の手紙をくれることもあります。委員会のメンバーは、『野菜を育てるのは大変だけど、小学生が食べて、喜んでくれることが一番嬉しい』と話していました。地域の人に喜んでもらえたり、コミュニケーションをとれることが、この活動の魅力です」(塩瀬教諭)

地域とつながる環境ファシリテーター活動

もう一つ、活動の柱となっているのは、16年から始まった環境ファシリテーター活動だ。持ち運ぶことができる「箱ビオトープ」を、近隣の小学校や障がい者施設に設置し、メダカの放流などを行った。さらに、小学校に出向いて、環境教育の出前授業を行っている。この環境ファシリテーター活動を開始した当時、中心的役割を果たした卒業生は、在学中のことをこう話す。

「委員会活動には中1から参加しましたが、もともと、勉強としての生物は苦手でした。同級生の呼びかけで積極的に活動に参加するようになり、また、直接生物と触れ合ううちに、科目としての生物にも興味が湧きました。おかげで、今は学習院大学理工学部生命科学科で生物を専攻しており、来年は研究室に入ります。小学校での出前授業を経験したことで、人とのつながりや教えることの面白さを感じ、教員を目指しています。委員会の活動が、現在の進路に進むきっかけになりました」

今年は、コロナ禍の影響により、例年のような活動は行えなかった。今後の展望について、高校2年生の委員長はこう話す。

「今年は、残念ながら地域の人とつながる活動ができなかったので、今後は地域の野菜である江戸野菜を育てて、後輩につなげたいと思います。また以前は、ゴーヤの緑のカーテンがきれいに育っていたのですが、急に不作になってしまいました。いろいろと条件を変えたりしながら模索中で、カーテンを復活させることが目標です。ほかには、定点カメラの設置も考えています。委員会では、地域交流や活動発表など、他の学校ではできないような体験の機会がたくさんあります。いろいろチャレンジしたい、という人に入って欲しいと思います」

塩瀬教諭が、委員会活動についてこう総括する。

「ビオトープは、20年ほど前に流行しましたが、その後、管理が行き届かず、廃れている学校がほとんどです。本校は学校全体で環境教育を掲げていることもあり、生徒が主体となったことで活気が出て、残すことができました。この委員会では、土を運んで苗を植えたり、生き物に触れたりして五感が刺激される体験、人に喜ばれる体験など、教科教育ではできない体験ができます。ボランティア活動によって自分の存在意義を確認することもできます。また、環境問題を社会へ伝えるためのプレゼンテーションの方法やアプローチの方法も生徒が自ら考えており、社会性も養われています。さまざまな経験ができ、メンバー一人ひとりが、自分の思いを発揮し、成長できる場になっています」

新入生への説明会

例年、春に行われる新入生のための説明会。今年はコロナ禍による休校のため、夏の終わり、ようやく開催された。委員長による活動内容の説明があり、卒業生からは、「活動では、いろいろなつながりを大切にしていた」という話があった。同級生や、先輩と後輩、地域など、多様なつながりを持てることが委員会の魅力だという。最後は、メンバーが制作した委員会の紹介動画を上映。新入生は真剣に見入り、これからの活動に期待を寄せていたようだ。

緑のネットワーク委員会 メンバーの声

●委員会の雰囲気は?

先輩と後輩の距離が近い。後輩からも意見が言いやすい環境です。

●委員会に入ったきっかけは?

文化祭で見て、おもしろそうだったので試しに入りました。

先生や先輩に出会って、興味が湧いてきて、続けています。

●委員会に入って変わったこと

環境破壊や森林伐採などに興味を持つようになり、考える機会も増えました。

●今年やりたいことは?

コロナで休校になったこともあり、ビオトープが荒れてしまいました。

今年は、ビオトープの再建をしたいと思います。

取材日:2020.9.5