伝統と革新。
創立135年の私立男子校に吹く新たな風

成城中学校・高等学校

知的好奇心を刺激する探究型学習

1885年創立の文武講習館を起源とし、2020年に135周年を迎えた成城中学校・成城高等学校。2019年度から高校募集が停止され、中高完全一貫校への移行に伴いカリキュラム改革が進められたほか、近年は、海外研修を含めたグローバル教育や、卒業生によるチューター制度の導入など、伝統校に新たな風が吹き込まれています。こうした改革を進めてきたのは、東京都立高・中等教育学校で校長などを歴任した後、2013年4月に着任した栗原卯田子校長。伝統ある私立男子校における改革についてお話を聞きました。


社会を生き抜くために必要な人間力を磨く6年間

―まずは改革の背景や目的についてお聞かせください。

私は2013年4月に初めての私立、初めての男子校である本校に着任し、「将来構想プロジェクト」を立ち上げました。何が問題でどのような改革を進めるべきか、トップダウンではなく広く意見を集めて議論を重ね、本校の抱える課題と、改革すべき内容を模索しました。その中で、6年一貫での教育効果に、従来とは異なる可能性を見出したのです。

根底にあったのは、大学入学後や、さらにその先を見据え、社会を生き抜くために必要な人間力を身につけさせたいというスタンスです。そこで、6年間を2年ずつに区切った教育内容の中、新学習指導要領もにらみながら、中学の授業において独自色を打ち出しました。中1では数学で「数学統計」、中3の国語では「国語表現」、中学3年間の英語で「英会話」を、それぞれ「総合的な学習」の枠として配置し、オリジナリティーも持たせています。

―この3つの授業について具体的な内容をお聞かせください。

「数学統計」は、「数学」と「情報」の2つの教員免許を持つ教員が担当します。学び始めの段階で情報リテラシーを学び、タイピングテストによるキーボード練習でコンピュータに慣れ、統計学の基礎を学習します。中学段階ではパソコンの授業は「技術」の授業で習うものですが、本校では高校での「情報」や「数学」と関連させ、統計処理を学び、プログラミング能力の向上にもつながるプロセスを中1から構築しました。

「国語表現」では、主述・修飾関係の正確な理解力や、伝えたいことをしっかりと書き記せる力、プレゼンテーションスキルなど、母語である日本語の言語技術向上を重視しています。さらには実験的にですが、高校での国語の授業において、世界史の授業で扱うトピックを課題とし、その背景や意義などに関するディスカッションやレポート作成など、社会科教員とも連携しています。

「英会話」は中学3年間で毎週1コマあり、ネイティブ教員が担当します。高校では受験対策として読解の勉強にシフトしがちですが、高校でも中学での「英会話」を発展させた「英語表現」を週に1コマ設置しています。ネイティブ教員が英語のみの「オールイングリッシュ」で指導するこの授業の目的は、英作文でライティング力を磨くことです。授業を聞き、発言することで、リスニング力やスピーキング力も培われます。

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誇るべき伝統。後輩を支え、道筋を示す先輩の存在感

―歴史ある学校での改革は大きなチャレンジだったと思います。

伝統校では、長年にわたる慣習が実直に守られ、継承されてきています。それはすばらしいことですが、時代の変化に沿った柔軟性もまた大切です。6年一貫のカリキュラムも、作成したら終わりではありません。世の中の状況を見ながら、学習指導要領で定められた必修科目ではない部分、つまり学校設定科目の部分で、柔軟性をもって指導に当たっていくべきだと考えています。

その点、カリキュラム改革においても、コロナ禍においても、教員たちは自分たちで授業をつくりあげ、チーム力でやり切ろうとする気概に満ちあふれています。私立は上部組織に教育委員会があるわけでもなく、定期的な異動もない分、現場の教員の思いと行動力しだいで改革を進めることができると実感しています。コロナ禍では、全教員が懸命に動画教材づくりのスキルを高め、オンライン授業に生かしました。生徒からも「最初は先生も不慣れな感じがしたが、授業がおもしろく、わかりやすくなった」といった声が聞かれます。

思い返せば、教員の対応力があったからこそ、グローバル教育も軌道に乗せることができたのだと思います。その一つである「エンパワーメント・プログラム」では、語学力の向上自体を目的とせず、世界の若者と交流して多様な意見に触れ、ダイバーシティを肌で感じることを重視しました。その中で多様性尊重の意識を養い、自分の生き方を考えるきっかけにしてほしいと考えたのです。すると生徒たちは大きな刺激を受け、自分の将来を主体的に考え、海外の大学やグローバル系学部に進学する者や、大学入学後に本格的な留学をしたいという生徒も増えてきました。

なお、ここで忘れてならないのは、グローバル教育の仕組みを支えている教員の尽力に加え、先輩が後輩のロールモデルとなり、生徒間で成長が促進されている点です。

―縦のつながりが強いのですね。

本校で90年以上の伝統がある中1の臨海学校では、中1の海での修泳を高2がサポートします。表面的に類似のイベントはできても、根底にある“後輩思い”の精神は一夜にしてつくれるものではないと思います。コロナ禍においても、社会人となった卒業生がGoogleクラスルームに後輩を招待して“特別講義”を開くなど、とても意欲的に行動してくれています。まさに臨海学校や部活動などで育まれた縦のつながりが強いからであり、生徒の伸びしろを最大化するような目に見えない教育上のメリットがあると考えています。

伸びしろは、学校側の取り組みでも同じです。近年は、生徒がすき間時間を有効に活用して自学自習に励めるよう「自修館」(自習室)を新設し、現役で難関大学の一般受験に合格した卒業生が後輩の受験勉強をサポートする「チューター制度」も導入しました。

もちろん、同学年どうし、横のつながりが強いことは言うまでもありません。“女子の目”のないところで、男子がのびのびと縦と横のつながりを強固にしながら、学校生活を充実させていける環境づくりを今後も進め、新たな伝統を築いていく所存です。

取材日:2020.9.9