自然科学のなぞを探究する楽しさに触れ、
将来の選択肢を大きく広げる麴町学園女子の理科教育

麴町学園女子中学校・高等学校

麴町学園女子中学・高等学校では「アクティブサイエンス」という実験や観察をベースにした思考型の理科の授業をスタートするなど、理科教育に力を入れている。さらに2024年度からはより探究的な理科の学びを深めたい生徒のために、中学2年、3年生を対象にした「サイエンス探究クラス」も新設予定だ。2022年の校長就任以来、自らも生徒と触れ合いながら麴町学園女子の理科教育の刷新を進める堀口千秋先生に、女子校での理科教育の重要性と可能性を聞いた。


本校では高校2年生から大学受験に備えた文系理系のコースに分かれるのですが、理系を選択する生徒の数が文系に比べると少ない傾向です。本校独自の「アクティブイングリッシュ」など国際社会で通用する英語教育に力を入れていることから、英語を積極的に学びたい生徒が多いのですが、なかには「理系科目が苦手だから」という消極的な理由で文系を選んでいる生徒もいます。でも、理数ができないから文系という考え方では、もったいない。文系理系どちらも好きな立場から、自分が将来やりたいことに向けたポジティブな進路選択をしてほしいのです。実際の社会では、文系とされている仕事でもデータを読み取ったりAIを活用したりする必要がありますし、理系とされている仕事でも英語力や歴史や文化をふくむ国際理解が欠かせないなど、文理融合の知識や能力、考え方が求められています。

そのために、まず中学3年間で理科に対する苦手意識をなくし、理科のおもしろさを知ってもらおうという取り組みが、アクティブサイエンスをはじめとする本校の理科教育の取り組みです。

来年度からスタートする中学2、3年次のサイエンス探究クラスは、理科に興味を持った生徒たちにさらに学びを深めてもらうためのコースで、授業数などは同じですが、実験を増やし、高校での理科の学びを一部先取りするカリキュラムを予定しています。

堀口 千秋 先生

自分たちで考えるから理科はおもしろい

「理科のおもしろさは何か」。それは身の回りのものの性質や現象のしくみについて、自分たちで知りたいと思い、そのなぞを解く過程を経験することにあると思います。

私自身、長年理科の教員を務めていたこともあり、生徒たちに理科への興味をもってもらうため、月に2時間ほど、中学1年生とのチームティーチングを実施しています。そこでは事前に生徒たちから集めた「理科に関する素朴な疑問」、例えば「なぜ雲は白いの?」、「なぜ葉っぱは緑色なの?」というような疑問に私がヒントを与えて、生徒たちに答えを調べてもらっています。

ほかにも、教科書では「この液体が酸性であることを調べましょう」という予めわかっている結果を確認する実験が紹介されていますが、それとは逆にAからEの5種類の白い粉を用意し、「それぞれ塩、砂糖、クエン酸、重曹、でんぷんのうちのどれかを調べるための実験方法を考えてみましょう」という提案もします。教科書の知識だけではなく、普段の生活で料理に使っていたり、掃除に使っていたりすれば、見た目や酸性・アルカリ性といった性質からどんな実験をすればいいかがわかるんです。生徒たちはすごく楽しそうに取り組んでくれますね。アクティブイングリッシュの授業でも同様ですが、生徒同士で話し合ったり協力したりしながら、のびのびと探究を進められる点は、女子校の理科教育ならではのメリットといえるかもしれません。

また、私は学校説明会でも「理科ちゃんラボ」と称して、キッチン用品などを使った公開実験をしています。例えば、ナスを煮出した溶液は、皮にふくまれる紫色の色素アントシアニンの色の変化で、BTB溶液のように酸性・中性・アルカリ性を調べることができます。参加した小学生の皆さんが、家でも自分たちでできる実験を紹介することで、理科への興味関心を持つきっかけになってほしいと思っています。身近な事象に疑問を持って探究する姿勢を身につけることが、理科教育の本質だと思います。

こうした姿勢は、将来、食品や薬品など身の回りのさまざまな製品が、どのように作られているのか、どのような性質を持つものなのかを正しく知り、判断する科学リテラシーにもつながります。本校の校訓に「聡明」という言葉がありますが、生徒たちには理科教育をもとに、聡明な人に育ってほしいと願っています。

女子理系志望者への門戸が広がる大学受験

ここ最近の傾向として、大学でも企業でも女性の理工系研究者へのニーズが高まっています。2024年度にはお茶の水女子大に共創工学部、日本女子大に建築デザイン学部が新設されるなど女子大に工学系の学部が誕生するほか、東工大や東京理科大などで女子だけの総合型選抜が始まります。

一方企業では、もともと多くの女性研究者が活躍していた食品や化粧品業界のほか、幅広い商品の研究開発の現場で女性研究者のニーズが広がっています。建築・設計などこれまで男性中心の業界でも、理工系の女性の活躍が増えていくでしょう。

理系に対する苦手意識を払拭すれば、大学での学びや将来の職業への選択肢が大きく広がります。本校の生徒に人気のデザイン系の学びでも、工学やデジタルなど理系の要素が欠かせません。生徒が100人いれば100人それぞれにやりたいことがあるはずです。文系理系の枠を超えて、生徒みんなの夢を叶えられるように、理科が好きになる、理科をきっかけに探究する姿勢を身につけられる、そんな本校独自の理科教育を進めていきたいですね。

取材日:2023.8.3