独自のカリキュラム「言語技術教育」が
一人ひとりの思考力や表現力を伸ばしていく

麗澤中学・高等学校

高度な学力に裏打ちされた「本物の叡智」の獲得を教育目標に掲げる麗澤中学・高等学校。その学びの中核となっているのが、独自のカリキュラムである「言語技術教育」だ。言語技術教育の内容と意義について、教科担当であり、自身も麗澤で言語技術教育を受けてきた長谷川みか先生と関根吏理先生に聞いた。また、社会や大学などで、言語技術教育がどのように生きているのかを、現在ハウスメーカーに勤務する佐坂俊樹さん(2015年度卒業)と、立教大学コミュニティ福祉学部3年生の平岩明也さん(2020年度卒業)に語ってもらった。


―まずは「言語技術教育」とはどのようなカリキュラムなのかを教えてください。

長谷川 本校の言語技術教育は、欧米のような「聞く・読む・話す・書く」4技能を鍛える言語教育を、日本語で行うことを目的として、2003年度に当時の校長であった竹政幸雄先生によって導入されました。英語の教員であった竹政先生が、生徒がネイティブスピーカーのように英語でのコミュニケーションがうまくできない理由は、英語力ではなく、もととなる文章を構成する力や発信する力が不足しているのではないかと気づいたことがきっかけです。カリキュラムづくりには、つくば言語技術教育研究所の三森ゆりか所長に全面的なご協力をいただきました。

現在は、1年生(中1)から4年生(高1)まで週1時間の授業を行なっています。「聞く・読む・話す・書く」の4技能を体系的に高めるために、取り組むテーマや内容は学年によってレベルアップしていきますが、授業形式は1年次から基本的に生徒同士の話し合いが中心です。

関根 最初のうちは、授業形式に慣れるため、「問答ゲーム」という生徒がお互いに質問に対して根拠を示しつつ答える論証のトレーニングから始めていきます。続いて、教員が読み上げる物語を生徒がメモし、原稿用紙に再現する「再話」や絵の細部に注目して本質に迫る「絵の分析」、本を1冊読み解き、自分の考えを話し合う「丸本」など、取り組むプログラムも広がっていきます。学年が上がると「ソクラティック・セミナー」という、文学作品を対象にして生徒が自分たちで一つの大きな問いを立てて、それをクラス全員で議論していくプログラムを行います。本質的な問いを考え、根拠を示しながらの議論は、かなり難しいものですが、学年が上がるにつれて、高度な議論ができるようになっていきます。

―授業の際に、大事にしていることや工夫をしていることはありますか?

関根 生徒同士の話し合いが中心ですから、意見を言いやすい雰囲気をつくることを心がけています。自分自身にも経験がありますが、何を言っても許されるという安心感がなければ、自由な発言はできませんからね。

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長谷川 みか 先生
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関根 吏理 先生

長谷川 生徒への問いかけを大事にしています。同じテーマであってもそれに対する意見は生徒によってまったくことなります。議論が活発になり、深まっていくような言葉の掛け方を、クラスや生徒の様子をしっかりと見て、臨機応変に変えていきます。特に初期段階では、生徒が考えるきっかけづくりを工夫していますね。

聞く力や分析する力は学びにも仕事にも欠かせない

―卒業生のお二人は、言語技術教育の授業で、印象に残っていることはありますか?

平岩 最初の「問答ゲーム」は印象的でした。生徒の話し合いが中心の授業というのが、小学校の時には経験がなかったので驚くと同時に、とても楽しかったです。

佐坂 絵などを見てそれがどんなものか言葉で説明する「描写」の授業が一番印象に残っています。国旗や絵画というビジュアルを言語化して伝えるという作業そのものが興味深かったですし、重要なスキルだと思いました。難しくて印象的なのは「再話」ですね。学年が上がると先生が話す文章量が増えていくので、起承転結や登場人物を把握してメモを取るのに苦労しました。人の話を聞くのも書くのもあまり得意ではなかったので、鍛えられたと思います。

平岩 先生のお話にもあった通り、「ソクラティック・セミナー」は、難しくてずっと悩み抜きました。題材は『アルケミスト』という本でしたが、考えたことを言語化し、アウトプットする作業を通して、今まで本を読んでも漠然としか理解していなかったのだなと実感しました。

―言語技術教育でどのようなスキルが身についたと思いますか?社会や大学で今、役立っていることがあれば教えてください。

佐坂 ハウスメーカーの仕事は、お客様の希望をしっかりと汲み取るヒアリングの力がとても大切です。また、自分の書いた間取りや図面といったビジュアルに関しての意図を、相手に的確に伝える必要があるので、言葉で表現する力も非常に役に立っていると思います。

平岩 私は総合型選抜入試で大学を受けたので、志望理由書と面接が必要でした。どちらも、「この大学で学びたい」という気持ちを、きちんと根拠を出しながら伝えることができたため、合格につながったのではないかと思っています。大学入学後もレポートなどを作成する機会は多いので、その度に言語技術教育で学んだことが役立っていることを実感します。

佐坂 大学時代のこととしては、建築学科の卒業論文と卒業設計でプレゼンテーションを行った際に、自分の作品の設計意図やデザインの意味、そこに至る思考を論理立てて伝えることができ、優秀賞を受賞できたのは嬉しかったですね。

平岩 ほかに、言語技術の手法を活かして、クラスやグループでの話し合いをたくさん経験したおかげで、議論をうまく進めるための自分の役割を考えることができました。活発な議論のためには、私のように話すことが好きな人だけでなく、いろんな人に話してもらう必要があります。全体に目を配るバランス感覚は、言語技術教育の授業のおかげで得られたものです。

長谷川 私たち教員の発信だけでは、生徒たちになかなか言語技術教育の有用性を伝えられないので、卒業生のお二人からこうした具体的なエピソードが聞けるのはとても嬉しいですね。

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佐坂 俊樹さん
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平岩 明也さん

国際社会で活躍できるコミュニケーション力を

―言語技術教育を、今後どのように発展させていきたいですか?

関根 他教科と連携をしていきたいと思っています。言語技術を高めることはすべての教科に関わってきますから、私自身も国語はもちろん、理科や社会での論述の力がつくことや数学の証明にも活かせることを、生徒が実感できる授業をしていきたいと思っています。

長谷川 最初にお話ししたように、言語技術教育は、英語教育をもとに始まったものですから、英語とは特に連携していきたいですね。日本語でも、最初に結論があり、全体から部分に展開し、根拠を必ず述べるといった論理的な論述方法を身につければ、あとは使う言語が違っても同様に言葉を運用できます。英語教育とあわせ、国際社会で通用する議論やコミュニケーションができる力を生徒たちには身につけていってほしいと思います。

取材日:2023.9.12