俳句甲子園にチャレンジ
言葉で表現する醍醐味を味わう

海城中学校・高等学校

俳句甲子園にチャレンジ 言葉で表現する醍醐味を味わう

海城では今年度から、各教科の枠組みを超えて生徒の主体的な学びを実現していくKSプロジェクトを開始。そのプログラムの一つ、高校1〜3年生対象の「言葉系外部コンテストにチャレンジ」では俳句甲子園の全国大会出場を目指して、俳句づくりに取り組んだ。


「言葉系外部コンテストにチャレンジ」では、愛媛県松山市で毎年開催されている高校生のための俳句大会・俳句甲子園の全国大会出場を1学期の目標とした。このプロジェクトについて、担当の本間純一教諭が次のように説明する。「KSプロジェクトは双方向性の学び合いをキーワードに、各教科の枠組みを超えて生徒が主体的に学ぶ場を提供する講座です。本校は知的好奇心豊かな生徒が多く、そういう場があるとおもしろがって積極的に参加してくれる土壌があります。このプロジェクトも彼らの興味、関心をさらに深めていく場にしたいと考え、スタートさせました」

俳句甲子園は、6月に全国各地で地方大会が開催され、その優勝チームが全国大会に出場する。それに加え投句審査での出場もある。事前に発表された兼題をもとに俳句を詠み投句する。大会当日に各チームが投句した俳句を一句ずつ披露。お互いの句に対する質疑応答やディスカッションを行う。判定は俳句の出来をみる“作品点”と、各チームの句に対する議論の内容で判断する“鑑賞点”の合計で決まる。作品点のほうが配点が高いため、良い句を詠むことが不可欠だ。

海城では、3年前から有志で俳句甲子園に挑戦してきた。昨年3年間チャレンジしつづけたメンバー6人がついに念願の全国大会出場を果たした。本間教諭がこう話す。

「昨年、初めて全国大会に出場した生徒は3年間、表現することの楽しさと難しさを身をもって体験してきました。後輩に言葉で表現する醍醐味を伝えたいと、卒業後後輩のため頻繁に指導に来てくれました。彼らが3年間かけて開拓してきた下地やサポートがあったからこそ、俳句を始めてわずか2ヵ月の生徒たちが全国大会に出場できたのだと思います」

今年、俳句甲子園に挑んだのは、野球部や水泳部、吹奏楽部、古典芸能部など、それぞれバックグラウンドが異なる生徒たちだ。活動時間が限られる中、それを乗り越えるツールとなったのがSNSだ。LINE上で句を詠んで講評し合ったり、OBに指南を仰ぐなど、ネット上で頻繁にコミュニケーションをとることで、集まりづらい面を解消した。

6月の東京地区大会で、海城はABCの3チームで参戦。全国大会を目指して、他校の精鋭としのぎを削る戦いを繰り広げた。B・Cチームはともに初勝利を上げたものの惜しくも敗退。一方、Aチームは次々と勝利を収め、全国大会常連で、昨年決勝で敗れた開成戦を迎えた。3戦のうち、先鋒戦・次鋒戦をとり、2対1で地方大会初優勝。2年連続の全国大会出場が決まった。

8月に行われた全国大会。予選は4チーム総当たり戦で行われた。海城は2勝1敗でリーグ2位、決勝リーグには進めなかった。予選で敗退したものの、野球部に所属している高校1年の青木さんの一句が優秀賞に選ばれた。
“敗北の砂混じりたる髪洗ふ”
現役野球部員である作者ならではの実感に根ざした良句である。

生徒たちの活躍について、本間教諭がこう話す。
「国語科では中学1年から言葉で表現する機会を定期的に用意しています。授業で積み重ねてきたものが、俳句という表現方法で花開いたのだと思います。また、彼らは俳句と向き合う中で、表現することの喜びだけでなく、表現しきれない悔しさや、初めの頃は感覚的に作れていたものが、俳句の奥深さにふれることで段々作れなくなっていく恐ろしさも感じることになりました。言葉で表現する醍醐味を味わえたことは大きな財産になったのではないでしょうか」

俳句甲子園の戦いを終えて

「言葉系外部コンテストにチャレンジ」では俳句の初心者18人が俳句甲子園の全国大会出場を目指した。講座では90秒で一人一句詠む「袋回し」や、句についてのディベートを行い、相手チームに突かれそうなところや句の改善点について話し合った。昨年、全国大会に出場したOBも後輩にアドバイスをしたり、句を競い合わせるなど、実戦的なサポートを行った。

俳句を始めてたった2ヵ月で地方大会に出場することになったが、本番はリラックスして臨めたという。地方大会での兼題は、石鹸玉(しゃぼんだま)、蟷螂(かまきり)、立夏の三つ。イメージを膨らませてひたすら句作に励み、心に残った一句を出し合った。ある生徒が詠んだ句“あのしゃぼんだまは草食系男子”は、その強烈なインパクトが会場を沸かせた。

地方大会の優勝について、「初心者特有の初々しさが、功を奏したのだと思います」と、ある生徒が分析する。

各地方大会を優勝した精鋭が集まる全国大会は、地方大会とは全く異なる緊張感があったようだ。大会を振り返って、ある生徒がこう話す。

「俳句を作り続けていると、表現したいことがあっても、直接的に詠んだのではいい句にならないことが次第にわかってきます。また、自分が伝えたいことを17音で表現できても、他の人は違う解釈をするというもどかしさも感じました。そういった初心者だから直面する壁に全国大会でぶつかってしまいました。決勝には進めませんでしたが、俳句を通して自分と違う価値観に触れ、あらためて自分を見つめ直す体験ができたことは、とても良かったと思います」

取材日:2017.8.29