21世紀型の学びを体現する
コミュニケーション・ディベート

日出学園中学校・高等学校

21世紀型の学びを体現するコミュニケーション・ディベート

日出学園では、生徒と教員、卒業生、外部の人などを交えた独自の講座「コミュニケーション・ディベート」を月1回程度実施している。今回はライフイズテック株式会社の取締役・讃井康智氏をアドバイザーに迎えて開催された。コミュニケーション・ディベートとはどのような講座なのか。立ち上げた数学科の佐久間究教諭と社会科の能見太一郎教諭、今回、参加した生徒と卒業生に話を聞いた。


毎回テーマを設定し、コミュニケーションを通じて、それぞれの意識を深めていく。毎回10~15人程が参加し、テーマは参加者が考えたいテーマを選ぶ。今回は佐久間教諭が選んだ「ポストシンギュラリティ(技術特異点)」についてだ。

情報・科学技術が飛躍的な進歩を遂げた現代、その一端を担っているのが人工知能(AI)だ。2045年にはAIの能力が人間を上回るシンギュラリティを迎えるとの予測もある。その時、現在ある仕事の多くをAIが行うようになり、世界の有り様が大きく変わる。

今回のコミュニケーション・ディベートでは、シンギュラリティや技術の進歩についてのイメージを明らかにし、今の学び・教育がどう変化していくのか話し合った。多数の人が「AIに人間が支配されるようになる」など、マイナスイメージを持っている。また、具体的に何が消え、何が残るのかという問いについては、「人によって感じ方が異なるものや、原始的なものは残る」「先生はいなくなるかもしれないが、先生の個性が表われているような授業は残るかもしれない」などの意見があった。

コミュニケーション・ディベートでは、一般的なディベートのように相手を打ち負かしていくような議論は見られない。能見教諭が言う。

「コミュニティ・ディベートはディベートのテクニックを身につける場ではなく、議論を積み重ねて相手の話に共感することに重きを置いています。議論と会話の間で、コミュニケーションしていくイメージです。そのため、勝敗や結論を出すなどのゴールを定めていません」

参加者は話が上手な生徒ばかりではない。むしろ苦手意識を持っている生徒も多いという。参加者の中には、ほとんど発言しないで他の人の話を聞いている生徒もいる。発言が少なかった人でも、講座後の感想文で、自分の想いを表現する生徒もいるという。講座に参加した卒業生が言う。

「最初は、自分の考えをアウトプットするのが苦手でしたが、他人の意見を聞くことで自分の意見が深まり、まとまっていきます。発言することは、自分の考えを客観的に知ることにもつながります。ここでの経験が、大学のESSサークルでの英語のディスカッションに生かせています」

また、早稲田大学や明治大学などの大学生や大学院生、教授とのコミュニケーション・ディベートも年に2、3回実施している。学内で行われるものより、専門的な話が聞けると好評だ。

夏には2泊3日の合宿がある。そこでは、各自がテーマを持ち寄り、その内容を自分の言葉で伝え、最終的に作文にまとめていく。

「合宿で、小論文やレポートの書き方につながる実践的な勉強ができたと思う」と卒業生。作文は大学などのコンクールや新聞に投稿。コンクールなどで受賞する生徒もいると言う。

コミュニケーション・ディベート以外の機会でも、日出学園には気軽に学校を訪れる卒業生が多い。生徒の一人がいう。

「日出学園にはにぎやかな人も、おとなしい人もいますが、みんなが居心地のよさを感じられる学校だと思います」

居心地の良さが一番なのが職員室だという。職員室には教員に質問したり、雑談できるコーナーがある。アットホームな雰囲気で、担任の先生でなくても質問しやすい環境だ。佐久間教諭が言う。

「本校は少人数の私塾的な学校から始まり、80年以上が経ちました。創始者の思いを受け継ぎ、少人数だからこそ生徒全員の顔が見えるアットホームな教育を実現しています。それが日出学園全体の『ファミリー感』に表われています」

ライフズテック株式会社 取締役 讃井 康智

Life is Techでは、中高生向けのITプログラミングを学ぶキャンプやスクールを運営しています。イベントを通して子どもたちのやる気を引き出し、アプリやゲーム、アニメーション、映像などのオリジナル作品づくりをサポートしています。これまでの学校教育は、何年生はここまで、というように制限されたカリキュラムが中心でした。しかし、学ぶといろんな疑問が出てきますし、それを深めるとまた新しい課題が生まれていきます。子どものやる気を損なわずに能力を伸ばしていくためには、制限された学びではなく、“青天井”の学びが必要です。それが21世紀型の教育だと考えています。今回のコミュニケーション・ディベートでは、シンギュラリティの先にある教育について考えていきました。答えがない最先端のテーマでも臆せず、みんなが自分の意見を発表し合っていましたし、そこから新しい観点が生まれ、議論が発展していったのが印象的でした。21世紀型の教育の特徴が表われていたように思います。こうした学びを実現できる雰囲気や価値観は日出学園が伝統的に積み重ねてきたものでしょう。それが学校の文化を形づくっているように感じました。

取材日:2016.7.9