「noblesse oblige」
理想の教育の根底にある道徳教育

東京都市大学 等々力中学校・高等学校

noblesse obligeの精神の下、グローバルリーダーを育成する最先端の取り組み

社会の変化に対応し、独自のジグソー法によるアクティブ・ラーニング授業を導入するなど、さまざまな改革を進めている都市大等々力。その教育の根底にあるのが道徳教育だという。ノブレス・オブリージュとグローバルリーダーの育成を教育の基本に置く、都市大等々力の道徳教育とは—


今年から、文科省では道徳を特別な教科として位置づけ、「考え、議論する道徳」を通して、「主体的・対話的で深い学び」を実現していく方針を打ち出した。道徳の必要性が高まる現代社会について、担当の樋口久仁教諭がこう話す。

「これまでは、既存の規範を守ってさえいれば人としての道を踏み外さないという道徳観がありましたが、グローバル化が進む中で、多様な価値観が複数存在し、その中から答えを見出していかなければならない時代を迎えています。そうした時代を生きるために必要な力、つまり、いろんな人の意見に耳を傾けて、その中から納得解を導いていく柔軟な思考力を中学・高校時代のうちに養ってほしいと思います」

私立校にはもともと、公立にはない建学の精神や教育理念があり、それが独自の教育につながっている。都市大等々力では、東急グループの創始者であり、学園の創立者・五島慶太の人物像を読み解いた「noblesse oblige」を教育理念として掲げている。誇り高く高潔な人間性を陶冶するというこの教育理念を道徳教育に具現化。週1回の道徳の授業のほか、総合的な学習の時間や特別活動と連動しながら実践している。樋口教諭が言う。

「道徳は週1回の授業で学びきれるものではないので、宿泊行事や学校活動を通して、繰り返し体験できる場を提供しています。そうして学んだ知識や技能によって、さまざまな問題を自分事として捉える意識を持ち、解決方法を模索する力を養っています」

このESDプログラムの柱となっているのが「環境学習」「道徳教育」「歴史文化」「国際理解」だ。各テーマに関わる、「感情」を揺さぶるような体験的な学習活動を通して「知性」の使い方を学ぶ。そして、議論や発表などの表現活動によって自分の「意志」を育み、道徳観を養っていくというのが一連の流れだ。

ESDプログラムの中心となっているのが中2、中3、高2で実施される宿泊行事だ。宿泊行事に向けた事前学習としての「調べ学習」と、現地での体験、事後学習としての「発表活動」を基本的な学習の枠組みとして設定している。

例えば、中1の1学期の道徳の授業は菜園づくりが中心だ。土に触れる作業を通して命を育み、自然の恵みについて考えていく。2学期からは東日本大震災の事例を交えながら、防災について学び、自然の脅威について考察する。1年次に自然のさまざまな面を学んだ上で、中2の福島旅行、中3の九州への修学旅行に参加し、現地での体験学習を深めている。

また、高校1年では自分でテーマを決めて5000字を超える研究論文を執筆。道徳教育の集大成となる高2のイギリス修学旅行では、高1で執筆した研究論文をもとに、オックスフォード大学で、英語によるプレゼンテーションを行う。

今年、このESDプログラムを体系化した中1の道徳の教科書が完成したという。

「教科書を作成する際、答えのない問いに対して、自分の頭でどう考え、どのように行動していくべきかを考えさせていく内容を重視しました。中1の教科書を皮切りに、中2、中3の教科書も順次制作を進めていきます」(樋口教諭)

社会性と論理的思考力を養うLiP

このESDプログラムを支えているのが、議論の手法として取り入れているLiPだ。これは、自分の考えを整理して、自分も相手も傷つけないコミュニケーションを実践していく手法だ。社会性や論理的思考力を育成し、コミュニケーションスキルを磨く仕組みとして、道徳の授業のほか、さまざまな授業で生かされている。

LiPの授業も週1回行われている。ここでは、生徒同士が自分の考えを話し、答えのない問題について自分たちなりの答えを出す機会を繰り返し設けている。論理のあり方を学び、話し合いながらコミュニケーションをとる中で、道徳的なあり方を身につけ、「人間力」も磨いていく。樋口教諭が言う。

「数年前、生徒から自分たちの手で文化祭を一からつくりたいという要望がありました。企画を立ち上げる際にも、LiPの手法を生かして議論を進め、生徒自身が自分たちで考えて文化祭を変えていきました。学んだことをさまざまな場面で活用する生徒たちの成長した姿があることも、このプログラムの成果だと感じています」

道徳教育は生徒が主体的に進路について考え、自分なりのキャリアデザインを形成していくことにもつながっているようだ。

最後に、受験生に向けて樋口教諭がこうメッセージを送る。

「本校には素直な生徒が多く、答えのない問いをぶつけても、果敢にチャレンジしていこうと、積極的に捉えていく生徒が大勢います。そういう生徒たちの意欲を高めていくために、さまざまな行事を設定するなど改革を進めています。いろんな学びのチャンスがあふれる本校で是非、成長してほしいと思います」

取材日:2019.9.11