生徒の知的好奇心を刺激する
学園の新しい「顔」としての新理科館

海城中学高等学校

主体的に行動し、ベストなプランを考えるグローバル部の挑戦

2019年から進められてきた新理科館の建設工事が完了し、今年9月から利用されている。探究型の学びを取り入れやすく、環境にも配慮した校舎になったようだ。新理科館の特徴や海城の理科教育について、理科副主任の山田直樹先生に話を聞いた。


海城では、1992年を改革元年と位置付け、約30年に亘って数多くの改革を実施してきた。知識偏重の授業から探究的な学びを重視したカリキュラムへの移行もその一つだ。理科では実験や実習、野外巡検の機会を増やし、独自の実験書を取り入れるなどの改革を行った。理科副主任で地学専門の山田直樹先生がこう話す。

「今の生徒たちは、AIが加速度的に進化し、社会構造や職業が大きく変化していく時代を生きています。これまでのように受け身で知識を得ていくだけでは、そうした時代を生きていくのは難しいでしょう。そこで必要になるのが、自分自身が体験したことや、自分で手を動かして得た知識を生かした柔軟な思考力です。海城の理科教育には、生徒のとがった知的好奇心を刺激しながらその力を養っていくカリキュラムがあります」

今年誕生した新理科館

海城では、理科の実験・実習の多くが中学1、2年で行われているが、「高学年でも授業の内容に即した高度な実験・実習を取り入れたい思いがあった」と山田先生。しかし、これまで実験を担ってきた理科館は実験室が少なく、設備が不十分だったこともあり、思うように実現させられていなかった。理科館の老朽化にともない、19年から新理科館の建設がスタート。全理科教員の思いを叶える校舎が完成した。

新理科館では、科学的思考力を備えた「新しい紳士」の育成を目指した教育を実践するという。山田先生がこう説明する。

「世の中には情報があふれていますが、それをうのみにせず科学的に正しいかどうかを判断する力が求められます。科学的思考力はその基礎となるもので、将来理系に進む人だけでなく、すべての生徒にとって必要な力です。これを養うには、自分で考えなければ解けない多くの課題に触れていくことが大切です。6年間の理科教育を通して、そういう機会を数多く提供していきたいと考えています」

新理科館のメーンとなる実験室は、物理・生物・化学が各2室、地学が1室あり、共同実験室も2つ設置している。実験室は各分野の特徴を生かしたつくりになっている。壁面には生徒の好奇心を刺激する展示品が並ぶ。例えば、地学実験室には新理科館ボーリング工事で採取した土砂をポール状にして、地層が一目でわかるようにしたものや、化石、鉱物、地層の剥ぎ取り標本など、地学にまつわる品々がおかれている。地学実験室の横には岩石処理室も併設された。岩石を加工して標本にし、その由来を調べるなどの探究学習がしやすくなったという。水流で地形を作る、日本ではほとんどみられない大がかりな実験装置も設置した。

計9つの実験室の他、200インチのスクリーンを備えた階段教室もある。また、屋上も気象や天体観測に利用できるようになった。

以前は分野ごとに分かれていた理科の職員室は一つに集約された。各教員の活動状況が見える「見通しの良い」環境で、情報共有がしやすく、物理・化学・生物・地学の4分野横断の学びも取り入れやすくなったという。

また、新理科館には環境に配慮した多彩な仕組みがある。屋上には太陽光パネルと風力発電装置を設置。トイレには、水を流すときに発電できるボタンを取り入れた。校内の冷暖房には、地下の地熱を利用している。こうした取り組みにより、従来の校舎と比べて約5割のエネルギー削減効果がある。

校舎全体を教材化したことも、コンセプトの一つだ。様々な環境配慮手法を導入するだけでなく、その内容や仕組み、効果をいたるところに「見える化」し、生徒が実体験に応じて理解できるよう工夫されている。この校舎で過ごすだけで、エネルギーについて考える機会になる。

建設工事中には、生徒向けの見学ツアーも実施したという。その狙いについて、山田先生がこう話す。

「生徒の中には将来、建設などの現場で働くようになる人もいるはずなので、いい勉強になったと思います。また、工事で出てきた火山灰中の複数の鉱物について、その割合を調べて外部の研究発表会で発表した生徒もいます。大きな建物がどのように作られているのか間近でみることで、生徒の興味の幅が広がったようです」

新理科館は、課外活動にも活用される。海城には理科の4分野すべてのクラブがあり、いずれも生徒たちが主体的に活動している。探究しやすい環境が整ったことで、部員たちの意欲はさらに高まっていくはずだ。山田先生がこう続ける。

「海城には、KSプロジェクトをはじめ、学習指導要領の枠に収まらない学びの機会が多く、教員を凌駕するような高い能力を持つ生徒も大勢います。新理科館が完成し、環境は整ったので、彼らの多彩な力がより発揮できるように、教員として多くの機会を提供していきたいです」

生徒の知的好奇心を刺激するKSプロジェクト

各教科のカリキュラムを超えて、生徒が主体的に学ぶプロジェクト。複数の教科を融合したプロジェクトも多い。「生徒の多様な興味・関心を掘り起こすプログラムですが、生徒の知的好奇心が教員の刺激になることも。生徒と教員が、互いに刺激し合って学べる場になっています」(山田先生)

取材日:2021.9.6