自らを治める「自治と自由の学校」
歴史ある自治活動で人間力を育成

日本女子大学附属中学校・高等学校

自らを治める「自治と自由の学校」歴史ある自治活動で人間力を育成

時代に先駆け、自治と自由を重んじる教育を行ってきた日本女子大学附属中学校・高等学校。自治活動を学校教育に導入した最初の学校と言われている。伝統ある自治活動の特徴について、椎野秀子中学校長と、薄由美高等学校長に話を聞いた。


日本女子大学は、120年前の創立当初から「自念自動(自ら考え、自ら学び、自ら行う)」を教育方針として掲げてきた。学園全体で自治と自由を重んじる校風が受け継がれている。

学習活動と並ぶ学校生活の柱となっているのは、自治活動だ。これは、学校生活を生徒自身の力で動かしていく活動で、自治会総務(中学は生徒会総務)を中心に、生徒全員が九部(中学は四部)のいずれかに所属し、学校生活の一端を担う。日常で起こる問題についても生徒たちで解決する。

たとえば課題の一つに通学時のマナー改善があった。道に広がって歩くなどの行為で地域住民に迷惑をかけている問題について、生徒たちは、まず自分たちの通学の様子を動画や写真で撮影し、客観的に見ることにした。その事実を全校生徒で共有して受け止め、直すべきところを話し合った。ファシリテーター役の生徒が中心になって綿密に事前会議をした後、代表の生徒たちで話し合ったり、クラス内や学年を超えた縦割りのグループなど、形態を変えて話し合いを重ねた。議論を深め、生徒同士で注意し合ったことにより、鞄の持ち方を工夫するなど、マナーへの意識が高まった。

薄由美高等学校長がこう話す。

「生徒たちの議論に教員は手を出し過ぎず、自分たちで答えを導き出すよう見守ります。教員のちょっとしたアドバイスによって違った視点の気づきが得られ、視野が広がることもあります。マナーについても、人から言われて直すのではなく、自分たちで気づいて、律していくことが自治です。自ら考えて行動できる人に育って欲しいと思います」

薄 由美 高等学校長

また、年1回、生徒自身で規約改正を行う。次年度に向け、自分たちの規約を読み返し、意義について見直す機会だ。ここでも教員は議論を見守る。

「教員は必要に応じて意見を投げかけます。生徒達は時間をかけて議論し、最終的により良い意見へ高められていきます。自治においては自分の主張を貫くだけではなく、相手の意見を尊重することが大切です。教員と生徒、また生徒同士がお互いを尊重して信頼関係が築かれているからこそ、相手の意見を受け入れることができるのです」(薄校長)

学校生活のあらゆる仕事を生徒が担っており、高等学校では、七夕やクリスマス等の準備をするのは文化部だ。クラブの予算は、希望に沿って経済部が予算案を作成する。園芸部は、花壇に花を植えたり、農作物を文化祭で販売する。中高でそれぞれ発達段階に応じて完結した教育を行っているため、自治活動も中高別となっている。中学校では全員が学芸部、生活部など四部のいずれかに入り、クラスの仕事を受け持つ。生徒会総務が企画する講演会では、人選から依頼、司会まですべてを生徒が担当する。著名人に対しても臆することなく、熱意を伝える依頼文を送り、講演を実現させた実績がある。

運動会、文化祭、音楽会などの学校行事は実行委員会が中心となり、生徒たちの手で企画・運営をする。昨年の文化祭はコロナ禍の影響で公開中止になったが、生徒たちは行動を起こし、新しいスタイルの文化祭を実現させた。高等学校では、研究グループの発表をDVDと冊子にまとめ、保護者に配布し、好評を得た。中学でも、生徒たちがアイデアを出し合った。椎野秀子中学校長がこう話す。

「昨年は、文化祭を受験生に公開するのは難しいと思っていました。ところが生徒たちは、受験生が来校できなくても、自分たちの活動を伝えたり、やりとりをすることを強く望みました。模索した結果、クラブ活動や授業の様子を動画で配信し、オンライン上で発表、質問などを受けました。教員の発想をはるかに超えてしなやかにオンライン交流を実現させました」

椎野 秀子 中学校長

自ら選択し、学びとる土曜特別講座「知の泉」

高等学校では、授業のない土曜日や長期休暇中に、特別講座「知の泉」を開講している。各自の学ぶ意欲や興味関心に合わせて自由に学べるこの講座は、まさに自念自動の精神を実践している。「現代社会を見つめる」という講座では、事前に講師が指定した課題図書を読み、レポートを提出。授業は講義を聞くだけではなく、ディスカッションの時間がある。受講後、希望者は小論文を書いて添削指導を受けるといった、能動的なスタイルだ。

さらに、高等学校では来年度より新カリキュラムを導入する。現在、3年生で行っている選択制度を拡充し、2年生から開始する。大学付属校ならではのゼミのような科目もあり、リベラルアーツに繋げることができる。一方で、多様な進路に対応した科目も増設する予定だ。このほか、日本女子大学との高大接続プログラムもあり、プラスαで学べる機会を多数設けている。

最後に、両校長が受験生にこうメッセージを送る。

「学習面でも、話し合いの場面でも、多種多様を共有する校風です。議論で論破することがあってもお互いを尊重しています。自分の『好きなこと』を極めて、20年先の自分をどう作っていくかを考えられる学校です」(椎野校長)

「学校生活での成果だけではなく、卒業後の長い人生も含めて、幸せになって欲しいと願っています。また、自分の幸せだけではなく、隣の人も幸せにし、ひいては、世界平和を考えられる人になって欲しいと思います。本校には、他者と共感して協働し、お互いに褒め合い高め合う雰囲気があります。自分の学校生活をデザインし、大事な中学・高校生活を過ごすことのできる学校です」(薄校長)

取材日:2021.7.12