生徒一人ひとりが、学ぶ楽しさを見つけることを第一に
実験や観察を通して自然科学の魅力に触れる、
普連土学園の理科教育
普連土学園中学校・高等学校

近年、私立女子校で医学部や難関理系進学コースを設置するなど、理系分野への進学を後押しする試みが増えている。一方、こうした動きが進む以前から、完全中高一貫の女子校の普連土学園では、理系進学者が平均約4割と比較的高い水準が続いている。「得意・不得意のみで進路を決めない」という同校の進路指導の背景にある、「苦手意識をつくらない理科教育」について、理科主任の相澤真凜先生に話を聞いた。また、理科やものづくりが好きな生徒が多数活躍する同校の理科部について、部員の声とともに紹介する。
普連土学園は、日本唯一のキリスト教フレンド派(クエーカー)の学校として、140年近い歴史と伝統を持つ学校だ。中高ともに進路別のコース制度は設けず、1学年3クラスの少人数制で、対話を重視し、体験を掘り下げる教育に長年取り組んでいる。理科教育においても、実験・観察といった体験を通じた学びが大切にされており、中学1年生から高校3年生(選択理系)まで、さまざまな実験・観察の機会が設けられている。とりわけ、中学1年生では年間40回以上のテーマで実験・観察を行う。
「苦手」から「楽しい」へ意識を変えていく授業
実験・観察を重視する理科教育の狙いについて、主に中学校の理科の授業を担当する相澤真凜先生は、「生徒に理科の楽しさを知ってもらうこと」だと語る。
「受験のために理科を勉強してきた生徒たちは、たくさんの知識を詰め込んだ結果、理科を暗記科目のように捉えがちです。また、テストの点数が伸び悩んだ生徒は理科に苦手意識を持ってしまっています。本校でも入学時点では7割近い生徒が理科について『難しい』『苦手』という印象を持っています。ですから、まずは実験・観察で自然現象に触れ、それに対して感動する心や、自然科学に親しむ心を育てていってほしいと思っています」
たとえば中1では、校内の各所で育つ植物を観察し、スケッチの仕方を学んだあと、花を解剖してつくりを調べ、顕微鏡で茎や葉の断面を観察するなど身近な題材を教科書の学びへと丁寧につなげていく。
どの実験や観察も生徒たちは楽しそうに取り組んでいるが、特に人気が高いのは炎の色が変化し、見た目もきれいな「炎色反応」。中1だけでなく、中2以降でも同じ実験を行う。この繰り返しの実験も同校の理科教育の工夫の一つだ。
「理科の難しさの一つに、元素のように目に見えない現象を理解する点があります。そこで、炎色反応の実験では、中1では物質によって炎の色が異なることを確認し、中2では元素と炎色の関係を把握し、中3では大学レベルの原理に触れます。中1で感動したきれいな炎の色の理由が中3になると理解できるため、自然現象のしくみを解明するという理科のおもしろさを生徒も実感しやすいようです」
得意・不得意ではない目的意識をもった進路選択
ただ、同校では決して「理系進学」のみを後押ししているわけではない。重視するのは、教科の得意・不得意に左右されない幅広い進路選択だ。医療や環境、建築といった仕事に興味を持つ生徒が、理科や数学が苦手だからと文理選択の際に進路を狭めてしまうことがないように、理科だけでなくすべての授業で学ぶ楽しさを大切にしている。
また、生徒の進路選択の幅を広げるために、同校では高大連携も進めている。2023年に学校インターンシップに関する協定を結んだ東京理科大学とは、キャンパスツアーを通した実験設備の見学や講義への参加、学生との交流などを実施。同年に教育連携協定を結んだ東京女子大学とは、キャンパスツアーのほか講師を招いて女性学の講演などを行なっている。
「やってみたい!」が実現できる理科部の活動
普連土学園の理科部には、現在中1から高2まで57名の生徒が所属する。部活動では、班ごとにさまざまなものづくりに取り組んでおり、現在は、紙や木材を材料として専用の火薬エンジンを用いて打ち上げる模型ロケットをつくる「モデルロケット班」、「鉄道模型班」、「鉄道模型5inchゲージ班」、「ガラス細工班」の4つの班で活動している。班は希望するテーマを持った部員が集まれば結成されるため、かつては「植物班」や「EVカー班」、生徒1人で立ち上げた「数学班」などもあったという。大会やコンテストにも積極的に出場し、これまでモデルロケット班が「ロケット甲子園」や「国際モデルロケット大会」で優勝した実績を持つほか、鉄道模型班も「鉄道模型コンテスト」での入賞経験を持っており、理科部に憧れて普連土に入学する生徒もいる名物クラブだ。
鉄道模型班・中2 「入学前から理科部に入ろうと思っていましたが、中1の部活見学での楽しそうな活動の様子を見て入部を決めました。普段の活動では鉄道模型班で、大会や学園祭に向けて模型を作っています。友達と一緒に部品を作っているときや完成が近づき最後の仕上げをしているときが特に楽しいです。本が好きなので将来は図書館司書か、編集など本作りに携わる仕事がしたいと思っています」
モデルロケット班・高1 「私は理科部でモデルロケットを作りたいと思い、普連土の受験を決めました。高校1年生4人のチームで、東京タワーを模したロケットや、プロペラで機体を回収する再使用型ロケットを制作しています。ロケットの打ち上げ成功を目指して性格も考え方も全く違う4人で話し合い、最善策を模索する作業はとても楽しいです。将来の夢は宇宙論や量子力学の研究者で、普段の生活からは想像もできないような現象を扱うという点に心惹かれています」
取材日:2025.9.9
