「聡明・端正」の軸を大切にしながら120周年を機に
次代を見据えた新たな教育を展開

麴町学園女子中学校・高等学校

麴町学園女子中学校高等学校は、1905(明治38)年の設立以来「聡明・端正」を教育目標に掲げ、独立した社会人、職業人、家庭人である女性の育成に尽力。英語でのコミュニケーション力を伸ばす「アクティブイングリッシュ」をはじめ、実験や観察によって科学的なものの見方や考え方を身につける「アクティブサイエンス」、生徒の進路形成と社会人基礎力育成のための「みらい科」など、生徒の学びと成長をうながす多くの教育プログラムを実践している。創立120周年の節目となる今年度、新たに校長に就任した大久保靖先生に、麴町学園の魅力と今後の取り組みついて伺った。


―大久保先生は長年共学校で教員、校長を務められ、今回初めて女子校に来られたということですが、麴町学園女子の第一印象を教えてください。

真面目でルールを守る、しっかりとした生徒が多いと感じました。春の防災訓練では約800人の生徒が私語をすることもなく静かに迅速に行動しており、長年教員をやっていてこんなに整然とした防災訓練を見たのは初めてで驚きました。全校集会でも多少ざわざわしていても始まる前には静かになって教員の話を聞く姿勢になっていて、感心するとともに少しおとなしすぎるかなと心配したほどです。

けれど、体育祭では一転、大きな声を上げて仲間を応援する姿に、こんなにエネルギーを持っていたんだなと認識を改めました。授業中もたとえば本校の「アクティブイングリッシュ」のような生徒からの発信が多い授業だと、とても積極的かつ楽しそうに、身振り手振りも交えながら大きな声で英語でのコミュニケーションをこなしていて、やる時はやる。メリハリを持って学校生活を謳歌しているのだなと嬉しく頼もしく思いました。

知的好奇心に基づく自分ごととしての探究へ

―大久保先生は教育の中でどのようなことを大切にしたいと考えていらっしゃいますか。

生徒たちの知的好奇心をいかに引き出し、伸ばしていくかということです。

好奇心をもとに自ら仮説を伴った問いを立て、その答えを知るために必要な手法を筋道立てて考え、行動に移す。そして、わかったことをまとめて言語化し、そこからさらなる問いを見つけて、次の探究サイクルにつなげていく。これが探究的な学びの根本です。

さらに私は、この「問い」をいかに「自分ごとの問い」にできるかということが非常に大切だと思っています。誰かに与えられた問いではなく、自分で見つけ、なぜなのか、どうしてなのかという答えを心から知りたいと願う問いです。そのために必要なことは、多様な「経験」ではないかと考えています。

たとえば、世界の貧困問題を考えることは大切ですが、中学生がいきなり取り組むには遠大すぎて、実感を持って探究していくことは難しい。けれど、地域のこども食堂のボランティアに参加すると、ご飯を食べに来ている人たちやご飯を準備する人たちのこと、食堂の運営費用や食材のことを自ら考えるきっかけとなり、そもそもなぜこども食堂が必要なのかという社会問題へ目を向けることができます。本校であれば、家庭で食事が用意されていることは「当たり前」な生徒がほとんどだと思いますが、「自分の当たり前」は「世の中の当たり前」ではありません。そういう気づきを得て考えることが「自分ごとの問い」になっていくのです。

大久保 靖 校長

120周年を機にさまざまな教育改革を実施

―2026年度から中学校でコース制度が変更となります。その内容と狙いを教えてください。

これまでは中学校では、中1で英語選抜グローバルコースとスタンダードコースがあり、中2、3でサイエンス探究クラスが加わる実質3つのコースがありましたが、来年度からはこれらの枠組みをなくします。各コースやクラスで培った英語や理科の取り組みを全体化し、すべての生徒が特色ある授業で学んでいくことができます。

帰国生や英語が得意な生徒も理科が得意な生徒もともに学ぶことで、より幅広い分野に興味関心を持ち、挑戦していくきっかけとなってほしいと思っています。英語に関しては「取り出し授業」を従来通り実施し、高い英語力をもつ生徒をさらに伸ばしていきます。

―探究活動を取り入れた「みらい科」も、来年度からカリキュラムが見直されるそうですね。

生徒たちが身の回りで見つけた素朴な疑問が、社会や自然科学の現象とどう結びつくのか。そういった探究的な学びの姿勢やノウハウを身につけていくことがみらい科の探究の授業です。来年度から発達段階に応じたテーマ設定をし、学年ごとに着実なステップアップができるカリキュラムに再編しています。大枠としては、約半年をかけて学年に応じた探究スキルを学び、残り半年はそれらを活用してゼミ形式での探究活動に取り組むというもので、学年が上がるごとに取り組みが高度になり、探究内容も深まっていきます。そして知的好奇心や困難に挑戦する姿勢、持続力を育んでいき、みらい科が掲げる探究活動を通じて総合的な行動能力「こうじまちコンピテンシー」と、予想外のものにも価値を見出せる力「こうじまちセレンディピティ」の獲得を、より明確に体得していきます。

―グローバル教育についてはいかがでしょうか。

世界にはさまざまな生活文化があり、自分とは異なる感じ方や考え方、価値観があるということを実際に体験し、そうした相手とどのようにコミュニケーションをしていくかを模索していくことが、グローバル教育の意義です。今後は、海外にこだわらず国内でもそうした多様性を学ぶ機会を増やしていきたいと思っています。これまでも高校1年生の長野県菅平での宿泊オリエンテーションで泥んこになって田植えをするなど、普段の生活とは異なる体験をしてきましたが、そうした場でもたとえば田んぼの世話をしてくれる農家の方は高齢者の方が多いのはなぜなのか。高齢者が半数を超える「限界集落」が生まれてしまうのはなぜなのか。気づき、考えていくきっかけはあります。東京とは異なる環境で生まれ、育ち、生活する他者について考えることも、グローバル教育の一環だと考えています。

また、欧米だけではなく英語を第二外国語として学ぶ同世代の若者と、英語を使ってコミュニケーションをしたり、プレゼンやディスカッションをするプログラムなどもつくっていきたいですね。

自ら学ぶ力を得て成長していってほしい

―今後の取り組みついて教えてください。

120周年を迎えた今年、これまで大切にしてきた「聡明・端正」の教育目標と、「豊かな人生を自らデザインできる自立した女性」を育成するという教育ビジョンは大切にしながら、これからの100年に向けて、さらに改革を続けていきます。

今、目指しているのは、生徒一人ひとりが自走する学びです。本校の生徒は学ぶことに対して、まだ少し受け身な部分があると感じています。自らの目標を定め、自分の現状をふまえて目標達成のために必要な学びや取り組みを取捨選択し、行動していく。そのためには自らを客観視するメタ認知が必要になります。探究活動などさまざまな取り組みを通して、教師がファシリテーターとなって伴走し、生徒一人ひとりが自らの可能性を最大限に発揮し得る学びを麴町学園に定着させていきたいですね。

取材日:2025.9.5