地域に根ざした体験を通じて生徒が
自ら見つけた「問い」を起点に、社会課題の解決へとつなげていく
「自問自答」の探究活動

二松学舎大学附属柏中学校・高等学校

豊かな人間性を育む伝統の「論語教育」と、多彩な体験をもとに自ら学ぶ力と課題解決能力を身につける「探究学習」で注目を集める二松学舎大学附属柏中学校・高等学校。中学1年生が取り組む「田んぼの教室」や「沼の教室」は、身近な地域の自然や歴史・文化を体験することで、生徒の中に「知りたい」「学びたい」という気持ちを芽生えさせる探究学習の入り口となっている。今回の記事では、探究学習に取り組み始めた中学1年生の声を紹介。また、グローバル探究室長の森寿直先生と中学1年生の学年主任を務める坂井曜児先生に同校の探究学習の魅力や中学3年間でどのように展開していくのかを解説してもらった。


―中学校での探究活動の概要について教えてください。

 本校の探究学習は、日々の学習で基礎的な学力を育む「学習支援プログラム」と、校外教室などさまざまな体験を通じて生徒が自ら探究テーマを見つけ、考え、調査・実験、考察し、その結果を論文にまとめる「自問自答プログラム」によって支えられています。

坂井 中1では手賀沼を題材に地域の自然や歴史・文化など、生徒が気になるテーマでアプローチする「沼の教室」と田植えや稲刈りを体験する「田んぼの教室」を実施しています。地域を知るとともに、体験の中から、問いを立てるための小さな疑問や気づきと出会っていくことが狙いです。

―今年度の中学1年生の生徒さんの取り組みの様子はいかがでしょうか。

坂井 みんな楽しそうに参加してくれていると思います。生徒たちからのコメントにも「新鮮だった」「おもしろかった」との評価があり、とても嬉しいですね。

 田んぼが「ねちょねちょ」しているという生徒の言葉は、実際に体験したからこそ。本やインターネット等から得る情報だけでは決して得られない、大事な感覚です。きっと10年後、20年後も思い出に残るのではないでしょうか。

坂井 私たち教員が思いもよらない点に注目し、興味を持つのもこうした体験のすばらしさです。ゴミ拾いから環境に思いを馳せるだけでなく、そこからさらに、「どうしたらゴミをゴミ箱に入れてくれるようになるのか」と考え始めた生徒はまさにそのよい例です。ここから、社会課題として深めていき、ゴミ箱の設置などその解決のための実験につながるかも知れないと考えると楽しみです。

 生徒の主体となる学びだからこそ、体験からどんな気づきを得て、どんなふうに進んでいくのかは私たちにはわかりません。ただ、そのきっかけとなるテーマを幅広く用意できるのが、本校の探究学習の強みです。

学年主任|坂井 曜児 先生

生徒が自ら学び始めた瞬間が一つのゴールになる

―2学期以降、探究学習はどのように展開していきますか?

坂井 9月の文化祭で1学期の「沼の教室」の成果を発表します。10月にはリサーチクエッションとして探究のための具体的な問いを立て、調査をスタートします。11月にもう一度同じ場所を訪れるので、問いを立てることで生徒それぞれに現場の人に聞いてみたいことが出てくるでしょう。12月まで調査をし、その内容をまとめたものを2月にポスター発表します。中2から新たなテーマに取り組む生徒もいれば、中1からのテーマを継続する生徒もいます。校外教室は修学旅行で訪れる奈良・京都での「古都の教室」を実施します。中3になると、自らの探究テーマを設定して1年間をかけて調査・実験、考察を行い、論文にまとめ、集大成としてのプレゼンテーションも行います。

―探究学習を通して、生徒はどのように成長していきますか?

坂井 中1の生徒については、まずは「探究学習」という慣れない教科に、真面目に取り組んでくれること自体が一つの成長だと感じています。文化祭での中間発表はグループで行うため、お互いに協力しながら準備をし、発表することでさらに成長します。また、「文学」をテーマにした生徒が志賀直哉のゆかりの地を訪れたことで「作品を読んでみたい」と思うように、生徒の興味関心が広がり、次の行動に結びついたときに、何より大きな成長を感じます。

 生徒が自ら学び始めた瞬間ですね。沼の水質調査をした生徒から「旅行先でも水質調査がしたいので検査キットを分けてほしい」と声をかけられたり、野鳥の観察をした生徒が自ら探し回って鳥の巣を見つけて「先生見てください」と成果を見せてくれたりするとき。それが生徒の学びが自走する瞬間だと思います。私は、中学での教育は、この世界を読み解く「目次」のように先人たちが築き上げてきた学問の一部を見せることだと思っています。そこから生徒自身が突き詰めたいことを見つけ出せば、自然と走り出します。

グローバル探究室長|森 寿直 先生

折紙とのコラボなど新たなアプローチにも挑戦

―今後、探究学習をどのように発展させていきたいですか?

 今年は本校の第一期卒業生であり、折紙作家として活躍中の勝川東さんを講師に招き「沼の教室」での学びを折紙で表現するという試みを始めました。具体的には中1全員が参加して折紙で鳥をつくって飾る「鳥ビシャ」のアートを制作しました。折紙の鳥は基本形を勝川さんに教えてもらったあと、生徒一人ひとりが表現したいオリジナルの鳥を創意工夫しながら作り上げました。折紙には先を読む力や課題解決力、思考力、創造性、芸術性など様々な教育要素が含まれています。折紙を使ったゴミアートなども制作していますので、今後も連携して探究学習に取り入れていきたいと思っています。

坂井 昨年まで4つのテーマだった「沼の教室」が、今年は7つに増えたことは大きな意味がありました。幅が広がった分だけ、生徒の興味関心により刺さりやすくなったと思います。田んぼをお借りしたり、ガイドをしていただいたりと、地域のさまざまな個人や団体の方のご協力を得て成り立っているので、やみくも増やしていけるわけではありませんが、今後も、地域との結びつきをさらに広げていき、より多くの体験の機会をつくっていきたいですね。

―最後に、受験生やその保護者の方へのメッセージをお願いします。

 やりたいことを持っている子はもちろん、本校はやりたいことにまだ出会えていない子も歓迎します。小学校までの段階で子どもが見られる景色は限られています。本校であれば、豊富な体験を通して、その子だけの「やりたいこと」にきっと出会えます。

坂井 私自身、知りたいことがたくさんあるので、これからも生徒の探究学習に伴走しながら、学んでいきたいと思っています。ぜひ一緒に成長しましょう。

これが探究学習の一歩目!

「沼の教室」に参加した中学1年生の感想

O.Nさん

私は拾ったゴミで美術作品作品をつくる「ゴミアート」コースに参加しました。沼の周辺を歩いてゴミを拾うのは意外と楽しかったのですが、こうしたゴミが川や海に流れたりして環境を汚してしまうと考えると残念な気持ちになりました。吸い殻やびん、ペットボトルなど明らかにポイ捨てされたゴミが多く、なぜゴミ箱に捨てないのかが気になったので、どうしたらゴミをゴミ箱に入れてくれるようになるのかを考えてみたいと思いました。「沼の教室」以外にもいろいろな校外学習があり、知らないことをたくさん知ることができるので、これからの活動も楽しみです。

T.Aさん

事前学習で興味を持った「歴史と文化」をテーマにしました。活動では、あびこガイドクラブという我孫子の自然や文化の案内をする地元の人たちの案内で、文学者や文化人のゆかりの地を歩きました。鷲野谷集落を訪れたときには、「鳥ビシャ」という鳥を供養する行事に使われる鳥のかたちのお餅の飾りをつくりました。難しかったけれど、私が住んでいるところではこういった古い行事をすることがないので新鮮でした。うちの学校は近くに沼や田んぼがあるから、たくさん校外学習ができます。今後は海外研修もあるので、もっといろいろな体験をしてみたいです。

T.Rくん

祖父とよく虫取りをしていて生き物に興味があったので、手賀沼の生き物を調査する「生き物観察」に参加しました。小さい魚などはすばやく逃げるので捕まえるのが難しかったです。みんなで手分けして、追い込んだりして無事に何種類か捕まえることができました。うっかりザリガニのハサミに指をはさまれてしまったときは、かなり痛かったですが、手をブンブン振ってなんとか助かりました。捕まえた生き物をきちんと観察するのはおもしろかったので、今後は手賀沼だけでなく、旅行に行った海や川などいろいろなところで生き物を観察してみたいと思います。

S.Mさん

活動が楽しそうだと思ったので「野鳥」に参加しました。たくさんの鳥がいて、木の上だけではなく水辺でもいろいろな鳥が観察できることに驚きました。きれいな声で鳴く鳥など気になる鳥がいましたが、見つけてもすぐに逃げてしまうので、自分ではなんという鳥かなかなかわかりませんでした。知らない鳥ばかりなので、野鳥の研究を続けたいと思っています。「沼の教室」以外の探究学習では、田植えをしたのが印象的です。田んぼの中はねちょねちょしていて、足を踏み入れた瞬間は「うわっ」と思いましたが、慣れるとそんなに気持ち悪くなかったです。

取材日:2025.9.18