教育改革で、新しい進学校へ!
生徒の多様な進路を実現する教育とは
桐蔭学園中等教育学校

2015年からアクティブ・ラーニング(AL)型授業を導入したことを皮切りに、教育改革を積極的に進めてきた桐蔭学園中等教育学校。19年の共学化以降、AL型授業と探究、キャリア教育の3本柱のもと、新しい時代を生きる力を伸ばす教育を積み重ねてきた。今年「共学1期生」が卒業し、東京大5人、東京科学大2人、北海道大5人など国公立大に45人が合格。生徒一人ひとりの個性が光る進路を実現したようだ。改革による学校の変化や多様な進路を実現した教育について、玉田裕之校長に話を聞いた。
―2019年から共学化し、今年「共学1期生」が卒業しました。学校改革を進める中で、進路指導の方針を変えたようですね。
玉田 「共学1期生」が6年次になったときに重視したのが、AL型授業や探究、キャリア教育を行ってきた5年間を生かした受験指導をすることです。これまで、進学校として大学受験のノウハウを蓄積してきましたが、旧来の受験指導ではなく、それまでの5年間が無駄にならないような指導を心がけました。また、大学受験を意識した講習などはあえて先取りせず、放課後の講習も5年次の2学期からに変更しました。その分、息切れせずに新鮮な気持ちで受験の本番を迎えられたようです。
また、大学受験を自分事として捉え、当事者意識をしっかり持って受験に臨めるように、5年次の3学期に「プレゼン型三者面談」を実施しました。この面談では、生徒が「実現したい将来像」や「そのために学びたいこと」などについて、自分で考え、自分の言葉で保護者と担任にプレゼンします。大学受験に対する当事者意識を高めることで、生徒が目指す進路も多様になりました。

―パイロットや医師、量子コンピュータ開発、スポーツ医療など、多彩な進路を踏まえた大学合格実績が目を引きます。
玉田 大学のレベルは重視していませんが、結果的に共学化前より難関大の実績が上がりました。卒業生の約半数がGMARCH以上の大学に合格しています。それぞれが自分に合う入試方式を選択し、納得できる多様な進路を実現しました。
現役進学率は約80%です。医学部志望者など、もう1年頑張ることを選択した生徒もいます。志望大学が残念な結果でも、やりたいことを早く進めるために浪人を選ばず第二志望の大学に進学した生徒もいます。生徒それぞれの決断を笑顔で送り出すことができました。
毎年発行している生徒の大学受験体験記の内容も変わりました。これまでは大学に受かる方法などが中心でしたが、今年は生徒自身のターニングポイントや、本校で何を学び、自分がどう変化したのかを紹介した生徒が多く、改革の成果を実感しています。
―学校改革では、生徒も主体的に学校づくりに取り組んだようですね。
玉田 生徒が主役になる学校づくりをするなかで、最初に変わったのが生徒会です。6年生に進級する際、大学受験に向けて勉強しやすい環境を実現するために、生徒会が積極的に活動し、生徒が設計デザインを描いたラーニングコモンズを設置しました。生徒会規約についても、生徒たちの提案をもとに刷新し、新しいスタイルに生まれ変わりました。AL型授業を積み重ねてきたことで、自分の意見を発言しやすい雰囲気が校内全体に広がっています。
―教育の特色を教えてください。
玉田 AL型授業、探究、キャリア教育を3本柱とする「6年間のロードマップ」に沿って、新しい時代に必要な6つの力「協働力」「エージェンシー(自分事にする力)」「チャレンジ力」「キャリアデザイン力」「思考力」「探究力」を養うカリキュラムです。
学習の土台になるAL型授業では、学びの主体性、当事者意識を養います。講義で学んだ知識を蓄えつつ、グループワークやペアワークを通して学ぶことを自分事として捉え、主体的に学ぶ力を養います。
キャリア教育では「1分間スピーチ」を1年次から毎朝実施しています。人前で発表するのは度胸がいりますが、この取り組みを通して話しながら考える訓練ができ、思考力も深まります。この経験を積み重ねて、最終的に「プレゼン型三者面談」につなげていきます。
探究(授業名:未来への扉)では1年次から5年次まで、週1回の授業を実施しています。各自がテーマを設定して探究学習を進め、毎年11月に実施する「みらとび発表会」で発表します。最終的に5年次で論文を作成します。通常の教科学習では、教員が知る正解に近づくための思考プロセスを身につけていくのが基本ですが、探究では今の自分を起点に、ゴールや進む方向を自分で決めていくための思考力が求められます。どちらも社会で必要な力で、その両方を育てていきます。

―生徒の主体的な学びを実現する多彩な取り組みがあります。
玉田 広い視野を養い、多角的な視点を身につけていく最も重要な時期が3、4年次です。3年次では模擬国連をベースとしたグローバル探究や韓国への海外語学研修など、全員参加のプログラムを実施しています。本校の場合、小学校を日本で過ごした海外経験のない生徒がほとんどで、そういう生徒たちが社会に出て英語を使うシーンは、英語以外の言語を母語としている人々との交流が多い。ですから、3年次の海外語学研修では韓国の中学生と交流しながら、実用的な英語力を伸ばしていきます。
その上で、4年次には希望者対象の多彩なプログラムを用意しています。アカデミックキャンプでは、大学の研究室を体験します。文系・理系に分かれる前の高1の段階で大学を体験できるのは一貫校のメリットで、毎年60~70人が参加します。また、海外での研修にはニュージーランドやシンガポール、マレーシア、アメリカへの希望制のプログラムがあります。帰国生など高い英語力がある生徒をはじめ、多くの生徒が参加しています。夏休み期間だけでも4年生の約7割がこれらのプログラムに参加しており、それが進路決定にも生かされています。
―桐蔭学園を目指す受験生や保護者にメッセージをお願いします。
玉田 18歳の成人となって卒業する生徒には、表面的な目に見える知識や技能だけでなく、人間的な資質や能力についても、学校生活の中で伸ばしてほしいと考えています。6年間で新しい時代に必要な力を伸ばしたい方にはぜひ入学してほしいです。「新しい進学校」として、みなさんをお迎えしたいと思います。
取材日:2025.5.2