生徒の興味・関心に沿った「選択授業」で、
学ぶ楽しさを掘り起こす

青山学院中等部

生徒の一人ひとりの自主性を大切にし、個性を伸ばす学びを教育目標に掲げる青山学院中等部では、取り組みのひとつとして1971年から先駆的な「選択授業」を実施している。現在は3年次に週2時間、スポーツや外国語、プログラミングなど、25前後の講座が設けられている。2020年度からスタートした「美文字」の授業を担当する達富悠介先生に話を聞いた。


―「美文字」の授業の概要を教えてください。

達富 最近は手書きで文字を書く機会が減っていますが、手書きだからこそ表現できることや伝えられることも多くあります。整った美しい文字を書く手法を学ぶことはもちろん、文字を書く楽しさや奥深さを生徒たちに知ってもらうことを目ざしています。

―どのようなカリキュラムを組んでいますか?

達富 おおまかには1学期はフェルトペンなどを使った硬筆の学習、2学期は筆ペンを使った楷書と行書の学習、3学期はてんこく篆刻などの文字文化の豊かさに触れたり、硬筆書写技能検定に向けて練習したりという流れです。文字の成り立ちを学んだり、生活の中での文字の使われ方に目を向けたりと、多面的にアプローチをしています。

―具体的にはどんなアプローチをされていますか?

達富 たとえば、最初の授業では、生徒たちにカッターナイフで濃さの異なる6種類の鉛筆を削って、書き心地を試してもらいました。「文字を書くことは鉛筆と紙の面の摩擦である」ということを実感してもらうためです。字形を理解するために、毛糸や粘土で文字をつくることもあります。夏休みの宿題には、お気に入りの筆記具を動画で紹介する課題を出しました。

―1年間の授業を通して、生徒たちの成長はいかがですか?

達富 昨年度の生徒からは、「文字がはやくきれいに書けるようになった」という感想が多くありました。授業をきっかけに、高校の芸術で書道を選んだ生徒もいて、文字を書くことへの興味を深めてくれたのだなとうれしく思っています。3学期に受けた硬筆書写技能検定では4級には全員合格、3級にも多くの生徒が合格しました。また理事長賞という賞を受賞した生徒もいました。

ハイレベルな授業だからこそ生徒が夢中になれる

―生徒たちにとって、「選択授業」のよさはどんな点ですか?

達富 生徒の得意なこと、興味関心のあることを高いレベルで発展させていける点です。好きなことを夢中で突き詰めていく楽しさなど、学びの本質にふれることができます。校外学習などさまざまな経験を通して生徒の視野を広げるためにも役立っています。

―教員側では、選択授業はどのように受け止めていますか?

達富 大学や大学院で学んだ専門領域を生かした授業を担当できることは、非常に楽しいですしやりがいがあります。生徒たちに興味を持ってもらえる教材づくりや最新の知識へのアップデートなど、我々教員も生徒とともに学び続けていける授業ですね。

好きなことに思い切り打ち込める環境がある

―そのほかに、生徒の個性を伸ばす取り組みはありますか?

達富 生徒が授業ごとに専用教室に移動する「教科センター方式」です。教科ごとの専用教室や資料・教材を備えたメディアスペースを使った学習は、授業の理解を深めるだけでなく、「もっと学びたい」という生徒の意欲を刺激します。

また、これはキリスト教教育がベースにあると思うのですが、生徒一人ひとりが他者を思いやり受け入れる心を持っていると感じています。なんであれ打ち込めるものを持つ友達を認め、応援する土壌がある。現在、多数の卒業生が政治経済や芸術芸能などさまざまな分野で活躍していることは、個性を伸ばす教育の裏付けになっていると思います。

―(生徒さんへ)「美文字」の授業はいかがですか?

男子生徒 僕は看板文字などフォントに興味があり授業を選択しました。書き方だけでなく文字について多角的に学べる点が興味深いです。

女子生徒 私はきれいな文字が書きたいと思い選びました。授業はいろいろな経験ができて毎時間とても楽しいです。

教科センター方式とは

教科ごとに専用教室や担当教員の研究室などをひとまとめのゾーンに配置し、生徒が時間割に従って目的の教室に移動する授業方式のこと。各クラスのホームルームとして併用する教室には、隣接してロッカースペースがあり、鞄や教科書といった生徒個人の持ち物は各自がロッカーで管理する。青山学院中等部では、フロアごとに「メディアスペース」と呼ばれるオープンスペースを設け、教科に関する本や図鑑などの図書資料を集め、生徒の学習発表やグループワークの場として活用している。

美文字の授業「暑中見舞いを書こう」

夏休みを前にした1学期最後の授業の課題は「暑中見舞い」。生徒が各自購入した絵葉書を使い、祖父母や親戚に宛てて1人1枚書き上げる。授業では、正しい宛名や差出人の書式、読みやすい文字の書き方だけでなく、暑中見舞いの意味や季節の挨拶文も学ぶ。「文字は読む相手に気持ちを伝える手段です。送る相手に相応しい文字や文面を意識することで、メールとはちがった思いが伝えられることを、生徒たちに知ってほしい」と、達富先生はねらいを語った。完成した葉書は授業後に提出し、暑中見舞いの時期に合わせて学校から投函される。「おばあちゃんのところに届いたら喜んでもらえるかな」、「葉書なんてびっくりされるかも」、「おばさんにきれいな字だとほめてもらえたらうれしい」と、生徒たちはそれぞれの相手へ暑中見舞いが届く日を楽しみに待つ。

取材日:2021.6.30