2023年、学校創立100周年
ICT環境の整備で実現した多彩な取り組み

保善高等学校

探究学習を通じて、社会を生き抜く力を養う未来考動塾

保善高等学校は、2023年に学校創立100周年を迎える伝統校だ。勉強や課外活動に打ち込みながら、「新しい自分」や「自分が望む自分」へと成長できる環境がある。近年はICT化に向けた改革を実行してきた。その取り組みについて、校内のICT化を推進する国語科の三保谷遼先生に話を聞いた。


高校では、来年から新たな学習指導要領がスタートする。新学習指導要領では、情報活用能力が学習の基盤となる重要な資質として位置付けられており、これを実現していくためにICT環境を整備し、ICTを活用した学習活動を取り入れる学校も少なくない。

保善高校ではこれまで、個々の教員が試験的にICT技術を授業に生かしていくケースが多かった。「来年の1年生から始まる学習指導要領の改訂と、個々の教員が行ってきた取り組みが、組織としてICT化に向き合うきっかけになりました」と、国語科の三保谷遼先生が話す。

昨年には電子黒板を全教室に整備し、全教員にiPadを配付。今年から高1全員が一人一台iPadを所持するようになった。約2年間かけてハード面の整備を終え、本格的なICT化に向けて舵を切ったという。三保谷先生がこう続ける。

「昨年はコロナ禍で休校になりましたが、教員全員がiPadを持っていたので、休校中でもZOOMを使った職員会議ができました。また、授業もオンラインで配信することで、問題なく進められました。ただ、対面の授業では、生徒たちがいろんな反応を見せてくれますが、オンラインではその点が難しかったです。普段の授業で見られる生徒の姿が、私たち教員にとっていかに大切なものなのかを気づかされました」

各教科で進められるICTの多彩な活用方法

英語の授業では、録音機能を使って発音をチェックしたり、数学ではグラフを描画するなど、iPadはさまざまな授業で活用され始めている。

三保谷先生が担当する現代文では、文学作品について調査や探究、考察を行うときに使用しているという。また、スライドやレポートづくりなどにもタブレットが使用されている。クラウド上で作業ができるため、他の生徒たちが作っているものも見ることができる。それを見て刺激を受け、自身のスライドをブラッシュアップしていく生徒も多いという。

また、特進クラスで実施している未来考動塾では、総合的な探究の時間を活用して、教科の枠組みを超えたさまざまな授業を行っている。探究活動をした上で、自分の考えを発表するなど、プレゼンテーションの機会も多い。その一連の作業にもiPadが使われている。プレゼンテーションの前には各自がリハーサルを行い、それを動画で撮影。本番に向けて改善点を洗い出すなど、それぞれが柔軟に活用しているという。

「学校の施設紹介の動画をつくる活動では、字幕やナレーション、BGMをつけるなど、さまざまな工夫が見られました。iPadを使うことで直感的に作業を進められますし、動画編集なども学びながら気軽にできるのが魅力のようです。引っ込み思案でみんなの前で話すのが苦手な生徒も、文字を入力して送るだけなので、意見も言いやすい。自分を表現していくことへの壁が低くなったと思います」

一方、部活動や委員会などの課外活動でも、ICTを生かした取り組みが増えてきた。運動部では、各自のフォームを動画で撮影することで、改善点を客観的に把握できるようになった。図書委員会でも、来年からICTを使っていくという。また、生徒会が実施していた近隣の小学校との交流も、オンラインで行われている。

「今後、職場体験やインターンシップなど、さまざまな人とつながり、世の中とつながっていく体験をオンラインで取り入れていきたい」と三保谷先生。全生徒に端末がいきわたる2年後には、ICTの活用はさらに広がっていくだろう。

ICT化が進む一方で、アナログの大切さを実感することもあるという。三保谷先生がこう話す。

「1学期は投影したスライドをタブレットで撮影する生徒が多かったのですが、2学期になると、ノートに手で書く生徒が増えてきました。教員が指示をしたわけではないのですが、結局、大事なことは自分の手を動かして紙に書いたほうが理解しやすいことに気づき始めたのだと思います。また、授業の内容とは別に、ためになるサイトや記事、動画の紹介など、情報として共有しておきたいことはタブレットに任せられるようになったので、今後は生徒との双方向のやり取りが授業の要になってくると思います」(三保谷先生)

一方、新学習指導要領では探究的な学習の質を高めるために、他者と協働して主体的に学習に取り組んでいく『協働的な学び』も重視されている。探究型の学習については、未来考動塾で行っている“沖縄学”をはじめ、さまざまなテーマに取り組んできた。さらに、三保谷先生が言う。

「今後は、コミュニケーションの部分にも焦点を当て、生徒同士がオンライン上で学び合い、高め合っていけるような取り組みについても考えていきたいと思います。保善生にとって最適なカリキュラムとはどのようなものなのか、長い時間かけて蓄積してきたノウハウを生かしながら、新学習指導要領に則った保善生としての学びをさらに探究していきます」

取材日:2021.9.13