学校周辺の地形から、自然地理学を学ぶ
城北中学校・高等学校

城北の地理教育は、授業とフィールドワークをバランスよく配置したカリキュラムが特徴だ。学校周辺の地形が絶好の学びの場になっているという。その特色について、社会科教諭の村田祐介先生に話を聞いた。


学習指導要領の改訂により、来年度から高校で地理総合が必修科目になる。地理の必修化を想定し、城北では2年前から地理学習に力を入れてきた。その特色の一つが、中1の2時間連続の授業だ。教室での学習と、外に出て体験するフィールドワークを組み合わせやすいカリキュラムになっている。

城北では中1から、一般的には高校の地理で学習する自然地理学の基礎を学ぶ。その題材となるのが、学校周辺の地形だ。

城北は荒川と多摩川に挟まれた武蔵野台地にある。学校の敷地内が台地の縁辺にあたり、周辺には石神井川が流れる平野部が広がっている。フィールドワークでは、そういう学校周辺の地形を見て回る。自然が作り出した地形を体感しながら学べる絶好の環境がある。社会科教諭の村田祐介先生がこう話す。

「城北の多くの生徒は受験で地理を学んでいますが、地理は暗記するだけの科目だと誤解している生徒が少なからずいます。地理の面白さをわかってもらえるように、授業で学んだことを自分の目で確認するフィールドワークの機会を数多く用意し、地理学の基本である、『自分の目で見て、自分の足で歩く』ことを体感できるカリキュラムになっています」

中1の3学期のフィールドワークでは、1、2学期に学んだことをベースに、学校周辺の地図から自分たちでルートを設定し、地図記号が描かれている場所に足を運ぶ。スタンプラリーの代わりに、その場所で写真を撮り、教員にロイロノートを使って送信。フィールドワーク後の授業で実際に歩いたルートが正しかったかを確認する。

授業やフィールドワークで基本的な知識を身に付けた上で、自分自身で考えて取り組む課題も多い。世界各国の特徴をまとめる課題では、よりわかりやすく伝わるように白地図に色を塗り、コメントをつけるなど、自分で工夫しながら課題を完成させていく。村田先生が言う。

「課題では、自分なりに考えて手を動かすことを重視しています。教員は大まかな枠組みを提示するだけで、それ以外はすべて生徒に任せています。中1の最初の頃は慣れない作業に大変そうですが、中2にもなると各自が工夫して課題を完成させ、個性豊かな作品になります」

中2の冬休みには、お雑煮について調査する、城北の伝統的な課題がある。家で正月に食べるお雑煮の写真を撮り、作り方や誰が作ったものか、その人はどこの出身か、どんな味付けなのか、気づいたことなどを自由に書いて提出する。3学期のグループワークでは各自が提出した課題をもとに統計をとり、データベース化する。村田先生がこう説明する。

「青森・八戸市ではお雑煮にいくらやアワビを入れたり、香川の辺りでは大福を入れるなど、お雑煮は地域によって大きく異なります。それを、生徒自身の家のお雑煮から調査していきます。課題を行う中2は思春期の真っただ中で、反抗期の生徒も多くいます。両親とあまり話をしない時期に当たりますが、こういう課題があると家族と話しをせざるを得ません。話して初めて知ることも多いので、この課題を家族と交流するきっかけにして、自分の家庭のライフヒストリーを聞いてほしいと考えています」

一方、防災関連の内容も地理の授業で扱うテーマだ。中2の2学期から防災関連の授業を行っており、来年の高1からスタートする地理総合でも取り入れていく予定だという。

「本校のカリキュラムでは、災害が起こっても生徒たちが被害にあわないように、地形や防災関連についてかなり詳しく学べるようにしています。それが地理教育の根本であり、地理の教員として与えられた使命でもあります」(村田先生)

城北の地理教員は4人。専門とする分野はそれぞれ異なっており、授業に多彩な内容を取り入れやすいことも魅力の一つだという。村田先生の専門は歴史地理学で、防災士としての顔も持つ。最後に、受験生に向けて村田先生がこうメッセージを送る。

「城北の地理教育を通して、基本的な知識を養った上で、現地を歩き、自分の目で見ることの大切さに気付いてください。また、身近な場所に大切なものが落ちていることも多いので、身近な世界への好奇心や想像力も磨いてほしいです」

フィールドワークが好きな生徒が集まる伝統ある地理部

城北の地理部は創部65年。中1から高3まで、約20人の部員が週2回活動している。活動はフィールドワークが中心。部員たちは様々な場所を訪れている。最近は、川越や渋谷、下北沢などで、お店での聞き取り調査などを実施。このほか、春や夏の長期休暇中も合宿などを行う。東日本大震災で被害を受けた地域にも行き、語り部の人々と交流した。1年間のフィールドワークの成果と活動内容をまとめた機関紙「ちりレポ」を毎年刊行。

取材日:2021.8.2