舞台は素の自分を出して、すべてをさらけ出せる場所。
一生涯の仲間と出会い、人生に彩を与えてくれた演劇部

獨協中学・高等学校

30年以上の歴史がある獨協の演劇部は、これまでに数々の演劇の大会やコンクールに出場している獨協の名物クラブのひとつだ。韓国の全国高校演劇祭にも日本代表として出演経験を持つ。演劇部OBで俳優の友部康志さん、同じくOBで産婦人科医の井関隼さん、演劇部の立ち上げから現在も顧問を務める柳本博教諭(国語科)に話を聞いた。


―演劇部に入部したきっかけや、思い出について教えてください。

友部 演劇部の前身となる「文化演劇委員会」という団体に所属していました。文化演劇委員会は、文化祭で演劇を上演するために発足した委員会です。元々、柔道部に入っていましたが、なんとなくやってみようと思い、文化演劇委員会に参加したのがきっかけです。

井関 新入生歓迎会で見た演劇部の演劇にひとめぼれして入部しました。先輩方がはつらつと熱演されている様子を見て、自分の居場所はここだと感じました。

友部 柳本先生は“兄貴”のような存在で、いつも一緒にいてくれました。当時の演劇業界や、私の後の師匠となる、つかこうへいとのつながりを作ってくれたのも柳本先生です。

井関 演劇をたくさん見せに連れていってもらいました。自分たちの舞台の上演が終わったあとには、近くのラーメン屋やファミレスに行ってご飯を食べたりして、まるで大家族のような空気感で楽しかったです。

柳本 博 教諭

友部 柳本先生が音響設備などを整えてくれて、プロさながらの音響を使っていました。

井関 効果音を出すためのサンプラーといった機材の使い方も丁寧に教えてもらいました。衣装や舞台美術も基本的には自分たちの手で作っていました。

―演劇部の活動で特に印象に残っていることは何ですか。

友部 高2のときに、初めて演劇の全国大会に出たことです。前年に地区大会で負けて、非常に悔しい思いをしましたが、「誰もが認めるような芝居をすれば、勝ち残る。それを信じてやっていこう」という仲間の言葉に励まされ、試行錯誤を重ねながら猛練習をした結果、全国大会に進むことができました。

井関 日本の伝統芸能も上演されるような劇場の「国立劇場」の舞台に立てたことが一番の思い出です。観客が笑うと地響きがするような大きな舞台で、そのときの快感は今でも忘れられないですね。

―演劇部に入って良かったことは何ですか。

友部 今も俳優として、ずっと演劇を続けられていることです。当時は、まさかここまで演劇の世界にのめり込むとは思いませんでした。また、柔道部が堅苦しい雰囲気だった一方で、演劇部はとてもゆるやかところだったので、演劇に自由を見出せました。こんなに楽しいものがあるのかと、人生が鮮やかになりましたね。

井関 現在、医師として患者さんやそのご家族にお話ししたりする際に、相手の心を考えたり、相手がどんなことを思って感じているのかというのを、あらかじめ考えるようになりました。また、医師会のイベントなどでも、物おじすることがなくなりました。演劇部で人を楽しませることの気持ちよさを知ったので、積極的に司会を担当したりしています。

友部 康志さん

―部活動の指導において心がけていることは何ですか。

柳本 舞台の上では、演技をしていても、実はその人の素の姿がよく見えます。その人が本当はどんな人なのかというのが想像できるのです。そういう魅力が演劇にはあります。素の部分が見えるというのは、演劇においてとても大切なことです。生徒にはまず、心の殻を脱ぎ去ることから始めてみようと伝えています。格好つけたり取り繕ったりしても仕方がないので、1行の台詞を言うにしても、まずはあれこれ考えずに本心で言ってみなさいと指導しています。

何かの役を演じるというのは、誰か違う人の気持ちを考えることでもあります。また、芝居をするときは単に自分の台詞を言えばいいわけではなく、相手の台詞を聞いてから言うなど、他者との関係にも気を配る必要があります。演劇を通じて自分を客観視したり、相手をおもんぱかるというのは、中高生にとって非常に大切なことだと思います。

―獨協の良さとは何でしょうか。

友部 演劇に限らず映画や音楽など、知らないものをたくさん教えてもらいました。自分の趣味や嗜好は獨協で培われたと断言できます。

井関 素朴な生徒の良いところや個性をうまく伸ばして育ててくれるところだと思います。

柳本 教員も生徒もひたむきなところです。趣味でも何でも、やろうとすることに対して真面目に取り組んでいますね。上から押さえつけたり、強引に引っ張ろうとしたりしないので、そうした姿勢が学校全体のおおらかな雰囲気を作っていて、伸び伸びと活動できているのだと思います。

井関 隼さん

―最後に、受験生へのメッセージをお願いします。

友部 中学受験だからといって肩肘を張る必要はありませんが、人生を変えるような思わぬ出会いが待っているかもしれないので、恐れずに前に進んでもらいたいです。

井関 受験や学校生活、部活動、趣味、何でもいいのですが、後悔しないような選択を心がけて、とにかく今を一生懸命やり切ってほしいと思います。勢いで進むことが大切なときもあるので、タイミングを間違えないようにしてほしいです。

柳本 中学入試は最初に訪れる試練だと思います。自分のやりたいことも我慢して一生懸命頑張らないといけない。そうして取り組むことに大きな意味があります。ただなんとなく中学に行くのではなくて、せっかく受験をするのだから、プロセスを大事にしてもらいたいです。入学後は、新しい素敵な出会いがあると思いますので、そうした機会をぜひ人生の早い時期から持ってほしいと思います。

取材日:2022.9.25