自分を活かし、他者と共に歩む力
その確かな土台を築き、未来へつなぐ6年間

女子聖学院中学校・高等学校

人と答えが違うことに不安ではなく、自信と喜びを感じる心を養う美術教育

キリスト教教育を柱に、「自らの賜物を用いて他者と共に歩むことのできる女性」を育てることを教育目標とする女子聖学院。中高6年間を通してこれを実現するための土台を築くとともに、各行事などにおいて生徒の主体性を重んじる校風も特色だ。その中で育まれる力とは?卒業生の大岩桜子さんと教頭の塚原隆行先生が語り合った。


違いを越え、みんなの運動会をつくる困難を乗り越えた経験が力に

塚原 本日はようこそお越しくださいました。大岩さんは在学中、さまざまな活動に積極的に取り組んでおられましたね。

大岩 はい。そのなかで自分の原点ともいえるのが運動会です。高校2、3年と紅組の主将を務めました。

塚原 女子聖学院の運動会は運営のほとんどを生徒たちが担いますから、主将を務めることには困難もあったでしょう。

大岩 一致団結することの難しさに直面しました。一学年120数名の生徒の中には、体育が嫌いな人もいます。運動会の練習は放課後に行いますが、その時間を勉強に使いたい人もいます。適性も考え方も一人ひとり異なる中、全員に主体的に関わってもらうためには何が必要か、試行錯誤する日々でした。

塚原 どんなことを試みたのですか。

大岩 一人ひとりにひたすら向き合いました。その人の得意分野や、体育が嫌いならなぜ嫌いなのか話を聴いて、それぞれが自分の強みを活かせるような役割分担を心がけました。

塚原 ご自身も勉強などがある中で、120人と向き合うのは並大抵のことではありません。運動会をみんなで楽しむ場にするのだという、強い信念があったからこそできたのですね。社会に出ると、異なる価値観を持つ人たちとチームで仕事をする場が多くあります。そのとき運動会での経験は必ず活きるでしょう。

大岩 ありがとうございます。高校2年の夏、ターム留学でオーストラリアに行ったことも私にとって大きな経験です。それまでは人のために何かするとき、「ねばならない」と半ば義務感で行動していました。でも、留学先で現地の人たちが、ごく自然に楽しそうに人を手助けしている姿を見て、もっと人と接する喜びを味わおうと思えるようになったのです。さまざまな体験を通して、学校の授業だけでは得られない学びができることも女子聖学院の良さだと感じています。

塚原 隆行 教頭

塚原 留学先での経験が、「みんなで楽しむ」運動会にも活きたのですね。

私ではなく「私たち」のために豊かな人間性を育むキリスト教の教え

大岩 私は幼い頃からスポーツが好きでしたが、以前は、スポーツは自分がするものという認識でした。それが主将を経験してから、スポーツは共に創りあげるものという考え方に変わりました。それぞれの強みを活かしてみんなで一つのものを創りあげた瞬間の喜びは、自分一人が結果を出したときとは比較にならないほど大きくて、私ではなく「私たち」のために力を尽くすことが自分にとって生きる喜びだと気づいたのです。

塚原 ご自身の持ち味を活かして誰かの役に立つ喜びを実感されたのですね。

大岩 はい。その根底には、女子聖学院で出会ったキリスト教の教えがあります。朝の礼拝で聞く聖書の言葉も、女子聖学院の建学の精神である「神を仰ぎ 人に仕う」も、入学当初は理解が及びませんでした。でも、どんなときも真摯に向き合ってくださる先生方の姿を通して、人に仕えるとはどういう生き方なのかを自然と学んだ気がします。

塚原 十字架の横棒は私と他者との関係を、縦棒は私と神との関係を表しています。横棒だけで物事を捉えていると、自分と誰かを比較する生き方になってしまいがちです。けれども縦棒、私たちと神様との関係では、一人ひとりがかけがえのない存在です。信仰の有無に関わらず、こうした視点を持つことは、物事の見方・考え方を、ひいては人生を豊かにしてくれると思います。

大岩 どんな時でも前を向けるのは、横棒だけでなく縦棒も自分の中にあるからだと、今のお話を聞いて実感しました。

大岩 桜子さん

高校時代の経験から今につながる思いすべての人にスポーツの力を届ける

塚原 大岩さんは高校時代、女子聖学院中高と聖学院中高が合同で取り組んでいる「パラスポーツ応援プロジェクト」にも参加されていましたね。

大岩 はい。パラアスリートの方々が泳いでいる姿を見て、その力強さに心を奪われました。同時に、今の社会には障がいのある方が気軽にスポーツを行える環境が少ないという問題意識が芽生えて、それを追究するために立教大学のスポーツウエルネス学部に進学したのです。自由選抜入試で受験したので面接対策が必要でしたが、本当に多くの先生方が突然のお願いにもかかわらず快く時間を割いてくださって、20回以上も練習をサポートしていただきました。

塚原 生徒と向き合ってくれる先生が多いのは女子聖学院の特徴ですね。

大岩 当時の面接ノートは今も大切に持っていて、就職活動にも役立ちました。JSGラーニングセンターで受験勉強をしたことも懐かしい思い出です。校内にあるので、仲間と励まし合いながら勉強できて心強かったことを覚えています。

塚原 現在は大学院で学ばれていますね。どのような研究を行っているのですか。

大岩 重度障がい者のスポーツにフォーカスした研究を行っています。保護者の方々にお話を伺うと、スポーツをしているとき、普段は表れない情動がお子さんに表れて、表情も全然違ってくるそうです。ボールを投げたり、点を取ったり、自分の役割を果たす中で感情表現が豊かになると。これこそがスポーツの力なのですが、スポーツを行う場もそこにアクセスするための社会的支援もまだまだ足りていません。

塚原 卒業後はJOCに就職されるそうですが、そうした障がい者スポーツの環境改善に貢献したいという思いもJOCを選ばれた理由にあるのでしょうか。

大岩 はい。スポーツに関わる組織はほかにもありますが、オリンピックは単に強さや速さを競うものではなく、スポーツを通した相互理解と平和な世界の実現をめざす特別なものです。その組織の中に入って、自分が架け橋となって外側に働きかけていくことで、スポーツの力を誰もが享受できる仕組みづくりに貢献したいと考えています。

塚原 しなやかな心と行動力を持つ大岩さんならきっと実現できます。頑張ってくださいね。

取材日:2023.9.13