社会の中で、「自分だからこそできること」を見つける
生徒一人ひとりが“主人公”として取り組む、探究の授業

女子聖学院中学校・高等学校

人と答えが違うことに不安ではなく、自信と喜びを感じる心を養う美術教育

学習指導要領の改訂に伴い2022年度から高等学校で「総合的な探究の時間」が始まるなか、多くの中高一貫私立校では、それに先立つかたちで中学から「探究」の学びを取り入れている。女子聖学院中学校・高等学校では、昨年度から「マイ・コンパスプロジェクト」と題した独自の探究学習カリキュラムをスタート。中学1年から6年かけて、学びと社会をつなぎ、生徒の人生の指針を立てる取り組みについて、担当の川村明子先生に話を聞いた。


―「マイ・コンパスプロジェクト」とは、どのようなカリキュラムですか?

川村 「コンパス(方位磁針)」の名の通り、生徒が人生の指針を立てるための探究学習のカリキュラムです。生徒一人ひとりが自分と社会に向き合い、自らを社会でどう生かすかを考え、さらにそのための研究にも着手します。中学から高校まで学年ごとの目標を設定し、まずは自分を見つめ直し、少しずつ社会へと視野を広げていく流れになっています。ロールモデルとして、すでに社会のさまざまな分野で活躍している卒業生から話を聞く機会なども設けています。

―学年ごとにどのような目標が設定されていますか?

川村 まず、大きく中学と高校で分け、中学では「探究の進め方を身につける」、高校では「専門性を高めた研究手法を学び、質の高い文章力を身につける」という目標があります。その中で、さらに中1で「学びとは?」、中2で「本物に触れ、視野を広げる」、中3で「未来社会を創る視点に立つ」という目標があります。高校では高1で「研究テーマの設定」、高2で「研究論文の執筆」を行います。

川村 明子 先生

―中1の取り組みについて具体的に教えてください。

川村 中1では、まず中学受験の際の受け身の学習から脱却します。学びへの好奇心を大切に「学びのしくみ」を考え、次に「どのように学べばよいのか」を生徒自身が考えます。具体的には、各自の苦手教科を克服するため、どんな学習方法が効果的なのかを検証する「探究」を行います。

―生徒が実際に苦手教科克服に取り組む試みはユニークですね。

川村 自らの学習観を再評価する姿勢を身につけることは、中2以降の探究学習の土台づくりになりますし、昨年はこの探究を通して、飛躍的に思考力が高まった生徒もいました。何より生徒が楽しそうに自分の「探究」を語る姿に、確かな手応えを感じました。

生徒一人ひとりが自分と社会に向き合う

―中2からは探究のテーマが社会に向かいますね。

川村 中2からはグループワークがメインとなり、自らの考えをグループ内で発表し、話し合い、共有する作業をくり返し行います。「環境問題」や「ジェンダー」などの社会課題に取り組みますが、最初に「なぜ自分はそのテーマに取り組みたいと思うのか」という動機づけを丁寧に行います。

中3では、さまざまな社会課題を踏まえ、自分たちが目指す未来を発表してもらいます。発表方法は自由で、文章やポスターはもちろん、歌やダンス、演劇や映像でも構いません。とにかく生徒にわくわくしながら取り組んでもらいたいと思っています。

―探究の授業の中で、大切にしていることはなんですか?

川村 生徒が考える時間をしっかりととることです。正直、中学生が取り組むにはやや背伸びしたカリキュラムとなっています。けれど、大人から見て難しいかなと思える課題に、多くの生徒たちは、時間はかかりますが自分なりの答えを見つけ出します。すぐに見つけられない生徒も、グループやクラスで意見を共有する中で、友達の意見をもとに気づきを得るなどと、生徒それぞれのペースで、自分なりの答えに辿り着くことができるのです。

生徒をうまく導く授業を組み立てるため、教員側も研修や話し合いといった準備に全力で取り組んでいます。

同校の教育の強みが「探究」という形に結実

―独自の探究学習を含めた、女子聖学院の良さを教えてください。

川村 生徒がのびのびと学び、成長できる環境が、本校の一番の良さだと思います。教員が生徒を尊重することはもちろん、生徒同士もお互いを思いやり、異なる意見や考えなどを認め合うことができる土壌があります。その根底にあるのが、「人間すべてが、神からかけがえのない賜物(良きもの)を与えられている」というキリスト教教育です。「あなたはあなたのままでいい」と周囲から受け入れられることで、生徒は安心して自分の個性を伸ばしています。

もともと行事の中で、生徒が主体的に学ぶ、探究的な取り組みは実施していました。昨年度から新たに「探究の授業」という明確な枠組みが完成し、中高6年間を通じて計画的に、段階的に取り組むことで、生徒のより大きな成長につながるのではないかと期待しています。一人ひとりの生徒が、社会の中で「自分だからこそできる」ことを見つけていってほしいですね。

中学2年生の探究の授業より

等身大の「自分」から、社会に疑問を投げかけることができる生徒たち

この日の授業の目標は、「平和」や「ジェンダー」など、クラスごとに浮かび上がってきた生徒たちが関心を寄せるテーマについて、質の高い問いを立てること。そのためにテーマに関連した社会問題を参考に、「なぜ」「どうして」という疑問をマインドマップ方式で書き出す作業が、グループワークの中心となった。配布された参考資料を読む生徒、とにかく手を動かして思い浮かんだ言葉を書き連ねていく生徒、黙って思索にふける生徒、グループ内で意見を交わす生徒など、課題への取り組みかたは十人十色だ。

そうして生徒がそれぞれのやり方で見つけた問いの多くは、「自分の親がこんな話をしていた」、「海外に住んでいた時にこんな経験をした」といった、生徒たち自身の経験をもとに生まれていた。生徒たちの日常生活とのつながりが見えにくい、大きな社会課題であっても、中学2年生という等身大の立場からしっかりと見つめ、自分を当事者に置いて考えるという姿勢が、生徒の中に育っている証拠だろう。今後、中3、高校とこの探究の授業が進んでいく中、この生徒たち各々がどのような社会課題をテーマに選び、その解決のためにどのような研究に取り組むのかが楽しみになる授業風景だ。

取材日:2022.9.11