地域の自然や歴史、文化への興味関心が
グローバルな課題解決への入り口になる!

二松学舎大学附属柏中学校・高等学校

社会に貢献できる人材の育成を目指す二松学舎大学附属柏中学校・高等学校では、2022年度から中学校でグローバル探究コースと総合探究コースの2コース制がスタート。どちらも同校の教育の基本である論語教育と探究プログラムへの取り組みはより深めつつ、グローバル探究コースではオールイングリッシュの集中講座や国内・海外研修などをカリキュラムに組み込んでいる。副校長の島田達彦先生とグローバル探究委員会委員長の森寿直先生に、2コース制導入の背景と両コースの中心となる探究教育の意義についてうかがった。


2コース制で魅力を増す、二松柏の探究プログラム

―昨年度より2コース制を導入された背景を教えていただけますか?

島田 少し遠回りになりますが、まずは、二松学舎の創立者である三島中洲先生による建学の理念からお話します。三島先生は「真の国際人の養成」として、明治のころからすでにグローバル人材を育てることを志していました。グローバルな人材に必要なことは、自国の文化を正しく理解し、表現する力、異なる文化や歴史を理解し、多様な価値観を認める視点です。また、社会のために自ら考え行動できる人間であることも欠かせません。その理想の実現のために、本校が2011年の中学開校時から取り組んできたのが、論語教育と探究プログラムなのです。

現在、日本は、Society 5.0といわれるAIなどの情報技術を最大限に活用し、グローバルな視点で課題解決に取り組んでいく社会に向けて、急速に移行しています。Society 5.0において、人間に求められる力とは、思考力、表現力、判断力、コミュニケーション力などです。まさに本校が創立者のDNAのもと、取り組んできた人材育成です。そうした教育姿勢を明確に打ち出していくこと。また、12年間の経験をもとにカリキュラムを体系的に整えるにあたり、生徒が希望する将来像に沿ったコースを設置しようという流れで、グローバル探究コースと総合探究コースという2コース制がスタートしたのです。

島田 達彦 先生

より深く探究していくための継続的な取り組みがスタート

―コース制導入にともない、新たに始まった取り組みを教えてください。

 両コース共同で取り組んでいる校外プログラム(「沼の教室」、「田んぼの教室」など6教室)を進化させ、中学3年間継続して取り組むテーマを設定しました。そのひとつが「手賀沼と文学」です。「沼の教室」で訪れている手賀沼の付近には、志賀直哉など日本近代文学の一派である白樺派の作家が住んでいました。そこで、直哉が1918年ごろに流行したスペイン風邪について綴った『流行感冒』という作品をテーマに据えました。中1では作品内の風景描写と当時の地図を照らし合わせて、直哉が歩いた道を推測し、中2では実際に現地を歩いて史跡を辿るといった学習を行っています。文学作品と自分たちの身近な土地を結びつける試みは楽しいようで、生徒たちは宝探しをするかのように、熱心に文章と地図を読み解いていました。また、ちょうど100年ほどの時間の隔たりがあるスペイン風邪と新型コロナウイルス感染症を比較した調査学習にも着手しています。昨年度は新聞検索システムを使い、班ごとに範囲を決めて1918年の新聞記事からスペイン風邪に関する記事を収集しました。今後は調べた内容をもとに、考察を進めていきます。最終的には学習の成果を論文集としてまとめる予定です。

―探究プログラムというと理科や社会がメインになりがちですが、国語を切り口にすることもできるのですね。

 白樺派の作家にゆかりのあるこの土地だからこそ取り組める題材だと思います。地図から地理や地形、新聞記事から歴史や社会、感染症から医療など、総合的な学習となっていますから、生徒には身近な地域をさまざまな角度から探究していってほしいですね。

森 寿直 先生

グローバルな課題解決を身近な事象の探究につなげる

―グローバル探究コースでは、オールイングリッシュでの講座や国内外での研修など英語で行うプログラムだけでなく、日本語で行うプレゼンテーションプログラムが中心に置かれている点が特徴的ですね。

島田 グローバル探究コースでは、“Be a change-maker!”(変革者たれ)をスローガンに掲げています。世界を変えていく力と気概を持った、真のグローバルリーダーになってほしいという願いを込めています。最初にお話したように本校の考える国際人とは、自国の文化を正しく理解し、表現する力、異なる文化や歴史を理解し、多様な価値観を認める視点を持つ人、社会のために自ら考え、行動できる人です。語学力はもちろん必要ですが、英語ができればグローバルに活躍できるわけではありません。むしろ、学年全体で取り組む探究教育が重要で、グローバル探究コースでは、さらにSDGsを軸に国際社会について学んでいきます。

 昨年度は、高校2年生の英字新聞プロジェクトで制作した『NGK TIMES』が、第6回英字新聞甲子園(グローバル教育情報センター主催)で準優勝という快挙を成し遂げました。記事の内容は、ウクライナの原発がロシアに攻撃を受けたことをきっかけに、周辺地域の放射線を計測して調査したり、食糧問題解決の鍵になるといわれている昆虫食について知るために、実際に昆虫採集を行なったりと、柏でできる探究活動を通してグローバルな課題に取り組んだものです。審査員の先生方からはまさにその点が評価され「地に足のついた非常に完成度が高い作品」という講評をいただきました。これは本校の探究プログラムが、グローバルな課題につながることの証左ではないかと思っています。

―最後に、受験生やその保護者の方へのメッセージをお願いします。

 本校の一番の特色は、机上の勉強だけではなく、さまざまな体験を積み上げて世の中のことを学んでいくことです。数多くの経験から、自分のやりたいことを見つけ、生き方を決めていってほしいと思っています。

島田 何かに挑戦したい、自分を変えてみたい、好奇心がある、そんな子どもさんの思いに応えるプログラムをたくさん用意しています。都心からは少し離れていますが、自然豊かで史跡も多い柏のこの土地だからこそ、五感をフルに使って体験できること、学べることが数多くあります。ぜひ一度、足を運んでみてください。

地の利を活かした数々の体験は、
生徒の一生の財産になる

同校では、開校時から「総合的な学習」として、現在の探究教育にあたる数々の学外教室を実施してきた。手賀沼の水質を継続的に調査する「沼の教室」、田植えと稲刈りを体験する「田んぼの教室」、国際都市東京の歴史や文化を歩いて学ぶ「都市の教室」、奈良と京都の研修旅行「古都の教室」、マレーシアやシンガポールの修学旅行「世界の教室」、スキー研修旅行「雪の教室」などがある。「昨年は3年ぶりに『田んぼの教室』での田植えを実施しました。当日は雨天で中止の判断もありえたのですが、安全面などに配慮しつつ決行することにしました。中1の生徒たちは、小学生の時にコロナ禍の行動制限のため、さまざまな学校行事を諦めてきた生徒たちです。だからこそ、『できない』で終わるのではなく、状況に応じて、できる方法を考え、工夫してやっていこうと生徒たちに伝え、納得して参加してもらいました。みんな泥まみれになりながらも、本当に楽しそうに田植えに取り組んでくれて、やってよかったなと実感しました」(森先生)

取材日:2023.9.12