駒場東邦の生物部だから
好きなものを突き詰めながら成長できる
駒場東邦中学校・高等学校
駒場東邦中学校・高等学校では、生徒が学校生活の主役。なかでも多種多様なクラブと同好会は、生徒が自らの好きなものをとことん突き詰めつつ、成長をしていく場にもなっている。今回は人気の科学系クラブの中から「生物部」を紹介する。部長の永田遼一郎さん(高2)、合宿責任者の岡本悠佑さん(高1)と山田寛人さん(高1)に活動の様子を聞いた。
―生物部の普段の活動について教えてください。
永田 生物部は中学1年生から高校2年生まで、約100名の部員がいます。ここ2年くらい急に新入部員が増えたため中学生が多く、全体で6対3対1くらいの割合で魚班、昆虫班、鳥班に分かれています。平日は週2回活動日があり、魚班と昆虫班は飼育している生物の世話や標本づくりを行なっています。鳥班は定期的な野鳥観察会をしています。また、全体として目黒区の駒場野公園での生物相調査を筑波大学附属駒場高校と共同で実施しています。ほかの部と兼部をしている部員も多いので、毎週の活動や採集に参加している部員は限られていますが、文化祭や夏の採集合宿はたくさんの部員が参加しています。
固有種との出会いに感動し保全活動にも取り組んだ合宿
―生物部は夏の採集合宿に力を入れていると聞きました。今年の合宿について教えてください。
山田 今年は部員数が多いため中高で分かれて、高校生約20名は長崎県の対馬で3泊4日の合宿を行いました。対馬にした理由は固有の昆虫が多く、魚類の採集もできるからです。対馬博物館の自然史担当の学芸員に本校生物部のOBの方がいらしたので、現地での活動をサポートしていただきました。
岡本 対馬では本州では見られない昆虫が非常に多く、僕はオサムシ科のツシマカブリモドキという固有種を採集することができました。頭部がメタリックな赤色で、標本は文化祭にも展示しました。
永田 博物館の方や市役所の方の力をお借りして、絶滅危惧1A類に指定されているツシマウラボシシジミというチョウの餌になる植物を植える保全活動を行ったのですが、その際にツシマウラボシシジミが飛んでいる姿も見ることができました。僕はチョウやガが好きなのですが、人生でツシマウラボシシジミの生態を観察できる機会があるとは思っていなかったので本当に感動しました。文化祭では保全活動もふくめてポスター発表を行いました。
山田 僕はチョウセングンバイトンボという数年前に対馬で、日本で初めて発見されたトンボを見ることができて嬉しかったです。また同じく対馬だけに生息している、フサオシャチホコという腹部にフサのついたガも観察することができました。撮影した写真はポストカードにして文化祭で来場者の方に配布しました。
―中学生の合宿も、高校生の皆さんが企画やサポートをされたのですか?
岡本 中学生の合宿も僕たち高校生の合宿責任者が中心となって実施しました。千葉県の鴨川で2泊3日の合宿をしたのですが、約60名の参加者を引率するのはかなり大変で、移動の際にはぐれたり、電車に乗り遅れたりしないかと冷や冷やする場面もたくさんありました。
山田 こちらも現地では生物部のOBの方にお世話になりました。ライトトラップ(夜間に照明を使って集まってきた昆虫を採集する方法)で飛んできたクワガタムシに大喜びしたり、セミの羽化に驚いたりと参加した中学生たちに楽しんでもらえてよかったです。
永田 ほかにも、集団行動のルールやマナーなども、合宿や普段の採集活動を通して、後輩にきちんと伝えていきたいと思っています。
生物との触れ合いを通して見える世界が大きく広がった
―生物部の活動を通して、成長したと思えることはどんなことですか? また今後、学びたいことや進みたい仕事が決まっていたら教えてください。
永田 成長というか変化なのですが、入部する前は、もっぱら昆虫好きだったのでとにかく採集したいという気持ちが強かったのですが、今は鳥の観察などもするようになり、採集ではなく生態観察を大切にしたいと思うようになりました。標本もいいけれど、写真や映像で記録していきたいです。今後はより範囲を広げて、大学では海洋系の生物を学びたいと思っています。
山田 小学生の時は昆虫好きでしたが、カブトムシを飼育するくらいしかやったことがありませんでした。生物部に入って、生物との関わり方の奥深さを知ることができたのが、成長できたことだと思います。将来の仕事については、生物部の活動ではないのですが、模擬国連というイベントに参加したことをきっかけに、外交の仕事をやりたいと思っています。
岡本 採集に関してだけでなく、合宿などの後輩の指導を通じて、その難しさややりがいなどを実感し、成長することができたと思います。
将来についてはまだ決まっていないのですが、生物の観察や撮影、採集といった活動は趣味として続けていきたいと思っています。海外には日本にいない昆虫がたくさんいるので、ぜひ海外で採集活動をしたいと思っています。また、OBとして生物部に貢献できたら嬉しいです。
―最後に、受験を考えている小学生や保護者の方へ、駒東のよさを伝えてください。
岡本 いい意味で、先生も生徒も「変わり者」が多い学校だと思います。僕たちのように、何か大好きなものを持っている生徒がたくさんいて、みんな好きな活動に没頭しているので、学校生活が本当に楽しいです。
山田 自分たちが一から考えて企画し、実施した対馬合宿のように、自分たちがやりたいと思ったことをやれる学校です。大変なこともありますが、やりがいも達成感もあります。自由で寛大な学校で、本当に入学してよかったと思っています。
永田 周りに合わせて自分を変えたりしなくていい、ありのままの自分でいられる場所なので、忘れられない大事な思い出がいっぱいできると思います。生物部も個性的な場所の一つです。授業では世の中の社会的なしくみなどを学ぶことができますが、生物部に入ると、自然という軸から世の中を見ることができるようになります。ぜひ、生物部で世の中への視点を一つ増やしてください。
生物部顧問のコメント
「本校ではさまざまな学校での生徒活動に関して教員は一歩離れて見守る姿勢を大切にしています。好きなことに打ち込む生徒を、教員は全力で応援する立場です。生物部も同様で、合宿などもすべて生徒が自分たちで行き先や日程なども決定します。そんなふうに生徒たちに任せられるのも、彼らが自分たちできちんと考えて行動できているからです。もちろん、最初からできているわけではありません。中学1、2年生の間は、自分が楽しむために活動している生徒がほとんどですが、先輩から教えられて、少しずつ自然環境への配慮や集団行動のマナーを覚えていきます。3年生になると先輩として1、2年生に気を遣ってあげることもできるようになります。部活動を通して、みんな感動するほど成長してくれます。今後は、駒場の生物多様性プロジェクトをはじめ、生物の保全活動や小学生へのレクチャーといった学外との関わりがもっと増えると嬉しいですね」
取材日:2024.9.16