附属校の強みを活かしたゆとりある教育環境で
豊かな人間性を育んでいく
駒澤大学高等学校
禅の精神を礎とした人間教育と、全国レベルで活躍する数々の部活動で知られる駒澤大学高等学校。駒澤大学の附属校として毎年多くの内部進学者を送り出す一方で、ここ数年、国公立大学や難関私立大学への進学者数も増えている。教頭を務める井上誠二先生に、同校が掲げる「心の教育」や大学附属の強みを活かした進路指導について、お話をうかがった。
―駒澤大学高等学校の教育について教えてください。
本校は禅の教えを礎とする曹洞宗の流れをくむ学校です。全学年を通じて、週に1回「仏教」の時間があり、仏教を身近な話題として取り上げて、心の優しさやコミュニケーション能力、人間関係の大切さを教えています。また、12月はじめに「臘八摂心」という自由参加の坐禅実習(1週間)があります。これは早朝7時30分から30分間、坐禅を行うものです。「只管打坐」とは、ただひたすらに坐るという意味なのですが、今子どもたちは何かをする時に「何でするのか」とか「何でしないといけないのか」とか、何かをする時に見返りを求めます。子どもたちだけではなくて私たちも何か見返り求めて行動してしまいます。しかし、坐禅は、何か見返りを求めるのではなく、「ただひたすらに坐る」ことなのです。そして、坐禅が終わってからいろいろなことに気づくのではないかと思います。また、坐禅は誰かが邪魔をするというわけではありません。一番邪魔をするのは、『我』です。「俺が」「私が」という『我』が強いと苛々します。その『我』を取り除かなくてはいけません。この『我』があまりに強いと、教室で「あいつだ」「こいつだ」と言いたくなるのです。私たちもそうですが、我慢ができないと人に矢印を向けてしまいます。自分に矢印を向けずに、すぐに「あいつだ」「こいつだ」と言いたくなります。学校なので、嫌なことや面白くないことなど、いろいろなことがあると思いますが、この坐禅によって大きな問題にならないのではないかと考えています。それが禅を通じた教えなのです。
生徒を磨き育てる「心の教育」は一生の財産に
―教育に取り組みとして挙げられている、「心の教育」とはどういったものですか?
心の教育というと、優しさとか思いやりを教えるものというイメージがあるかもしれません。もちろん、それも大切ですが、私が考える心の教育とは、最初にお話した「行学一如」のように「文武両道に励むこと」や、「周囲の人の心を打つような行動ができること」、また、注意を受けた時に嫌々従うのではなく、「心から変わっていけること」です。心をともなった行動ができることですね。
そして私が一番大切にしているのは、「子どもたちの心に火をつけること」です。仏教には「啐啄同時」と言葉があります。卵から雛が孵る時、殻の外側から親鳥がつつき、殻の内側から雛がつつくことで殻が割れて雛が誕生します。私たち教員も、生徒の成長に合わせた適切な働きかけをすることで、生徒が「よしやるぞ」という気持ちを持ってくれるようになる。授業であれば、生徒たちが「なるほど」「おもしろい」と思うような気づきを与えることでしょうか。つまり、心の教育とは、生徒たちが主体性を伸ばすことでもあるといえます。
―お寺での校外学習などもあるそうですね。
はい。高校2年次の6月に、1泊で永平寺に拝登します。永平寺ではお坊さんの法話をいただいたり、坐禅をしたり普段の日常とは違う生活をします。お寺では夜9時に就寝し、夜明け前の3時に起床します。起床後は掃除、坐禅をして、精進料理をいただくというようなお坊さんの生活を実践します。精進料理は肉や魚が一切ない一汁五菜(いちじゅうごさい)です。子どもたちは、普段、家ではご飯をおなかいっぱいに食べ、お肉や魚を食べ、もしかしたら自分の服もたたんでタンスに置いてあるのかなと思います。そのようなことが「当たり前」ではなく、「恵まれている」のだということに気づき、感謝する心を育んでもらいたいと思っています。
夢の実現を目指すため生徒が納得できる進路選択
―夢の実現を目指すため生徒が納得できる進路選択―附属校のメリットを活かした、御校の進路指導について教えてください。
本校は大学の附属校なので、他の附属校と同様に高大連携の取り組みがあります。たとえば、大学のゼミに参加したり、大学の教授が模擬授業をしてくれたり、将来の教育について早めに学ぶ機会があります。しかし、私が重要だと感じるのは、最近の感染症を通じて、リモート教育が普及したことです。これにより、学校教育のあり方について考えさせられました。学校は、単に文部科学省のカリキュラムを学ぶ場所だけではなく、もっと多様な学びの場であるべきです。私は、文科省のカリキュラムに加えて、学校生活の中にある「隠れたカリキュラム」が多く存在すると思っています。リモート授業では文科省のカリキュラムを学ぶことはできるかもしれませんが、学校でのコミュニケーション、修学旅行、部活動、文化祭などの活動が「非認知能力」を育む大切な要素だと考えています。附属校だからこそ、こうした教育に多くの時間を使えるのではないでしょうか。大学に入ると、教授たちから「本校の卒業生は就職率が良い」と言われることがよくあります。これは、非認知能力やコミュニケーション能力、チャレンジ精神が育まれているからだと思います。自ら主体的に行動する姿勢も、その一因かもしれません。
―クラブ活動をしながら、一般選抜で難関大学に合格する生徒さんもいるそうですね。
今年度は柔道部のキャプテンが現役で医学部に合格しました。部活動で培った集中力を切らすことなく、受験勉強に取り組んだ成果だと思います。部活動をやりながら大学受験に取り組む生徒は、例えば通学時間を有効活用して勉強するなど、時間の使い方も工夫しているようです。
―御校で学ばれた生徒さんに、将来どのような社会人になってほしいと思われていますか。
今、生徒を見ていると、いろいろなことに一生懸命取り組んでいる姿が印象的です。特に、勉強に、部活動に、まさに文武両道なのですが、単に文武両道ではなく、「文武両道当たり前」なのです。文武両道も言葉で言えば簡単なのですが、「できるかどうかではなく、やるかやらないかが大事」なのだと考えています。できるかどうかではなく、『人事を尽くして天命を待つ』という言葉の通り、やる気があれば誰でもやれると思いますし、まずはやってみることが大事だと思います。結果には能力も関係しますが、重要なのは「やるかやらないか」です。失敗を恐れずチャレンジする姿勢を持った生徒たちになってほしいと思っています。
―受験生と保護者へのメッセージをお願いします。
高校受験でどこに合格したかも大事ですが、最後まで諦めなかったことが最も重要だと考えています。なぜなら、受験で諦めることや妥協を覚えないでほしいからです。志望校合格に向けて、最後まで絶対に諦めずに努力し、受験をやり抜いてほしい。「この辺でいいや」と妥協し受験をしても、次の3年間を大切にできません。最後まで頑張って努力すれば、どの学校に行っても次の3年間を大切に過ごせると思います。最後まで諦めずに頑張ってください。
特色ある駒澤大学高等学校の教育
駒澤大学附属高校では、2年生で「受験コース」と「進学コース」に分かれますが、内部推薦はどちらのコースでも可能です。推薦後に他大学を受験できる制度も整備されており、生徒のチャレンジ志向を高めています。一日24時間の限られた中でも通学時間や帰宅後から就寝までの時間など、探せば空白の時間がたくさんあります。部活動で培った集中力を活かし、気迫をもって、この空白の時間を有効に活用し、勉強に取り組む姿勢が受験成功につながっています。柔道部キャプテンはその結果、医学部に現役合格しました。本校では約34%の生徒が外部受験に挑戦しています。
取材日:2024.9.3