「キャリア教育」×「探究活動」
受験の先にある、人生に役立つ力を育む『みらい科』
麴町学園女子中学校・高等学校
1905(明治38)年に設立された麴町学園女子中学校高等学校。多様化する社会に「しなやかに、たくましく」対応する「みらい型学力」を身につけることを目標に教育を展開している。その柱の一つ『みらい科』が、独自のキャリア教育に探究活動を組み込んで進化した。そこで育まれる大切な力とは?探究特別顧問の難波俊樹先生に話を聞いた。
―『みらい科』のブラッシュアップした点について教えてください。
最初にお伝えしたいのは、キャリア教育の深化という点です。もともと、『みらい科』は本校独自のキャリア教育プログラムとして誕生し、長年にわたって生徒たちの進路形成の根幹を担ってきました。キャリアというと個人の経歴や職務経験と捉えられることも多いのですが、本来はそれだけにとどまりません。キャリアの本質は「今とこれからをどう生きるか」ということで、『みらい科』におけるキャリア教育とは、生徒一人ひとりが自分らしい仕事や人生のあり方を描くことができる力、生きる力を育むことだと考えています。
そのためには、大学進学という〝点"だけでなく、その先に続く学びや仕事という〝線"や〝面"まで見据えた支援が欠かせません。生徒の人生のピークを18歳に設定するような教育ではなく、社会に出て20代、30代、40代、50代と年齢を重ねていったときにも役に立つ力、その人が輝き続けることのできる力を育む教育です。そのためのプログラムを『みらい科』ではより一層充実させていきます。
―具体的にはどのようなプログラムがありますか。
25年度からの『みらい科』は週1回2コマの授業として実施します。中1・中2、中3・高1と、2学年が縦割りグループで協働することも特色の一つです。クラスや学年が異なるメンバーとグループワークを継続的に行うことには、他者の考えにふれて発想力を豊かにする、上級生に教わる・下級生に教えるという両方の体験を通じて学びをより深める、主体性や協調性を高めるといったねらいもあります。
授業はPBL(プロジェクト学習)が中心で、その代表的なものが前期に取り組むコンテストです。中1・中2グループは内閣府の「地方創生☆政策アイデアコンテスト」、中3・高1グループは日本政策金融公庫の「高校生ビジネスプラン・グランプリ」に挑戦します。他校の生徒も参加し、優秀者には賞も付与されますが、ここで『みらい科』が重視するのは成果ではありません。思考する、ブレインストーミングで意見を言う、出てきた意見について話し合う、まとめる、といったアイデアを生むまでのプロセスに重きを置いて、そのプロセスを通じて成長することを大切にしています。
入学当初はPBLやグループワークに慣れていない生徒が大半ですから、生徒が自分の考えや気持ちを安心して発言できる環境づくりも教員の重要な務めです。「どんな意見を言っても大丈夫なんだ」と思えると、生徒たちは驚くほど伸びていきます。
―オフィス街の麹町という立地を活かして、企業と連携した授業もあるそうですね。
以前から、『みらい科』では「本気の大人との出会いを増やす」をコンセプトに、本校周辺にオフィスを構える企業にご協力いただいて、生徒が商品開発の案を考えるなどの「企業コラボ」を行っています。2022年から2023年にかけては、昭文社と連携して防災マップ作りに取り組みました。社会課題の現場に身を置いて、その解決に心血を注ぐ大人の姿は生徒の心を大きく動かします。自分たちの取り組みと社会課題の関わりを実感することで、学ぶ意欲も大いに引き出されるようです。
こうした実践的学習も『みらい科』の特色です。「企業コラボ」以外でも、たとえばビジネスプランを考える際、複数の条件の比較検討に数学の連立方程式を用いるなど、学校の教科で学んでいる知識は社会のどんな場面で役に立つのか、実社会の文脈に合わせて伝えています。「この知識は人生で使える」とわかれば、生徒の各教科への向き合い方も変化して、より積極的に学習に取り組めるようになります。
―後期はどのような授業が行われるのですか。
自然科学、人文科学、社会科学、情報系、国際系など、さまざまな分野にまたがるテーマから自分の興味に応じて一つを探究していきます。発酵やプログラミング、歴史などテーマは実に多彩で、前期に取り組む地方創生やビジネスプランと併せると、中1~高1の4年間で1人の生徒が8つのテーマに取り組むことになります。何がきっかけでどのような才能が開花するのか、生徒の可能性は無限大です。この探究活動を通して新しい世界にふれ、知識や経験を広げていくことで、自分の興味はどこにあるのか、得意や好きなことは何なのか、自己理解を深めて可能性を伸ばしてほしいと思います。
高2になると、それまでに取り組んだ探究活動の中から自分が最も興味あるテーマを見つけて個人研究に取り組みます。その成果は論文やプレゼンテーションとして形にします。
―高2の個人研究を活用し、総合型選抜で大学入試に挑戦する生徒もいるそうですね。
自分が本当に好きなこと、心から探究したいことを、もっと深く学ぶためにこの大学に行きたいという思いは、受験でもその後の学びにおいても、目標を達成するための強いモチベーションになるでしょう。また、自分で課題を設定する力を高めることにもつながります。あらゆる物事が急激に変化する現代にあって、過去の事例にとらわれず、顕在化していない本質的な課題を見抜く力は、課題解決力と同じくらい社会で必要とされています。そうした力も身につけて、10年後、20年後、30年後、「人生で大事なことはすべて『みらい科』で学んだ」と生徒たちが思えるように、今後も時代に即したプログラムを実践していきます。
取材日:2024.9.24