自然と歴史文化に恵まれた土地だからこそできる
豊かな体験を伴った探究学習がおもしろい!
二松学舎大学附属柏中学校・高等学校
二松学舎の創立者である明治の漢学者・三島中洲の建学の理念に基づき、世界で活躍できる人材の育成を目指す二松学舎大学附属柏中学校・高等学校。長年、体験を重視する探究学習に取り組み、2022年度からは中学校のカリキュラム変更にともない、より生徒の興味関心に沿った独自プログラムを発展させてきた。同校の探究学習の魅力と今後の展開について、副校長の島田達彦先生とグローバル探究室長の森寿直先生に話を聞いた。
―中学校の探究学習について、今年度はどのような取り組みをされていますか?
森 2022年度に総合探究コースとグローバル探究コースの2コース制となり、探究学習もリニューアルしました。当時の1年生が今年3年生となり、現在、これまでの学びの集大成となる論文作成に向けた探究学習に取り組んでいます。探究論文は3通りあり、「学問探究」では教科書や先行研究、作品など既存の学問領域で自由なテーマの探究、「総合探究」では今まで探究学習で取り組んできたテーマをさらに深める探究、加えてグローバルコースでは同コースで取り組んできたグローバルな社会課題や企業課題などを探究しています。
―具体的にはどのようなテーマに取り組まれていますか?
森 例えば「南極を花畑にするにはどうすればいいか?」「冷蔵庫を使って植物を育てることはできるのか?」「透明な木材の利用方法」「より使いやすい防災マップづくり」など、非常に自由な発想のテーマがたくさんあります。一見、「中学生には手に負えないのでは?」と思うテーマもありますが、生徒はそれぞれ先行研究などをもとにして、時間をかけて研究のビジョンを描いています。教員側からはダメ出しをするのではなく、単なる調べ学習にならないように調査や研究方法を考えるように勧めたり、想定していた結果が得られなかった場合に成果をどう分析するかをアドバイスしたりといったアプローチをします。生徒は自分の好きなことや得意なことをテーマに選んでいるので、私たち教員が思いもかけない成果に辿り着きそうで、わくわくしています。
島田 例えばスマートフォンのアプリ開発などは、教員よりも詳しい生徒がいます。探究学習のテーマではないのですが、生徒から「スクールバスが今どこにいるかわかるシステムがつくりたい」という要望が学校に出されたことがあります。最初は無理だと思ったのですが、生徒のプレゼンを聞くと費用的にも可能な範囲で、今、バス会社も交えて実用化に向けて動いています。
探究学習で培われた力が社会を変えていく力になる
―御校では長年探究学習に非常に力を入れてこられましたが、その意義はどのような点にありますか?
森 通常の教科学習はそれぞれ単独で学ぶことが多いですが、探究学習は教科横断で総合的に学べる点に大きな意味があります。「手賀沼と文学」では「文学」ですが、「歴史」や流行感冒という「医療・保健」の知識も必要ですし、適切にデータを検索分析する「データサイエンス」のスキルも必要になります。さらに、自分たちの生活や社会と学問のつながりに気づくきっかけにもなっています。
また、教員が教えるのではなく、生徒が主体的に学ぶ姿勢が自然と身につく点も重要です。今年、新たに中学の「沼の教室」に加わった「手賀沼と鳥」は、もともと高校で鳥に関する探究をしていた生徒が主体となっています。探究学習プログラムとして自走できる状態を目指してはいましたが、想定以上に早く実現できました。今後は生徒間でうまく引き継ぐことを目指していきたいですね。
島田 本校の探究学習は、そもそも建学の精神である、社会が必要とする人材の育成のために発展してきました。社会が必要とする能力は刻々と変化していますが、探究学習によって養われる、思考力、判断力、表現力、コミュニケーション力は、今後より必要とされる能力であることは間違いありません。総合型選抜は、大学がそうした社会のニーズに答える能力を持つ生徒を評価するもので、本校の探究学習の成果が結果として高く評価されるようになったということなのです。
また、近年の企業の採用担当者は、自ら課題を見出し、解決のために挑戦できる人材を求めています。グローバルコースで取り組んでいる企業課題や社会課題の探究は、まさにそうした社会ニーズに直結しています。社会に貢献し、よりよく変えていく力を、探究学習を通して身につけてほしいですね。
地の利を生かした総合探究「沼の教室」とは
同校では、開校時から「総合的な学習」として、体験を重視した数々の学外教室を実施してきた。地元の手賀沼を教材にした「沼の教室」、田植えと稲刈りを体験する「田んぼの教室」、国際都市東京の歴史や文化を歩いて学ぶ「都市の教室」、奈良と京都の研修旅行「古都の教室」、マレーシアやシンガポールの修学旅行「世界の教室」、スキー研修旅行「雪の教室」などだ。なかでも「沼の教室」は、2022年度から中学3年間を通して継続的な探究課題にリニューアル。理学探究である「手賀沼と水」では定期的に数箇所から採取した水のCOD(化学的酸素要求量)を測定し、過去の記録や他の湖沼の数値と比較し、分析を行う。文学探究である「手賀沼と文学」では手賀沼付近を舞台とした志賀直哉の小説『流行感冒』をもとに、中1で作品内の描写から現在の場所を推測し、中2で実際の史跡を巡り文学作品と身近な土地を結びつける。
さらに、100年前のスペイン風と新型コロナウイルス感染症を比較する調査研究として、当時の新聞記事を検索し記事を収集。2方向から文学作品にアプローチする。24年から新たに加わった「手賀沼と鳥」は、同様の探究に取り組んでいる高校生が主体となり校内での野鳥観察や巣箱設置を実施。学校の自然環境を調査するとともに、人間活動が野鳥に与える影響を考察する。
地域や社会との連携を深め双方向の学びを目指す
―今後、探究学習をどのように発展させていきたいですか
森 地域の方々と協力して、生徒を育てる機会を増やしていきたいと思っています。
本校の校庭の裏に古墳群があるのですが、その古墳を守る活動をされているグループの方から、古墳をテーマに授業をしませんかと声をかけてもらい、「古墳探究」プログラムづくりに動き出しているところです。また、その活動の中で地元のお寺の方とご縁ができ、お寺で手賀沼の歴史を学ぶ講座を開く話も出ています。我々教員だけでなく、地域のいろいろな方から学ぶことは、生徒にとっても非常に刺激になると思います。
島田 探究学習に限らず、開かれた学校にしていきたいという思いがあります。今、キャリア教育の一環で、「プロフェッショナルに学ぶ」という各業界の第一線で活躍する方を招いての講座を開いています。講師には卒業生や保護者はもちろん、それぞれの方のご縁で非常に幅広い方に来ていただいているのですが、この輪をさらに広げたいですね。
―最後に、受験生やその保護者の方へのメッセージをお願いします。
森 学ぶことはとても楽しいことです。新しいことを知るのが好きだったり、外で活動することに興味があったり、今までにない経験をしてみたいというお子さんは、ぜひ本校に来てほしいと思います。特に、今まであまり身のまわりに自然がなかったお子さんは、本校で初めて体験できることに目を輝かせてくれます。
いろいろな経験をすることのよさは、その子にとっての世界が広がることです。やりたいことが見つかったり、新たな興味関心が湧いてきたり、生き方が変わります。やりたいことを持っていればそれを存分に突き詰められる環境があり、やりたいことを探していればたくさんの中から見つけられる。本校はそんな学校です。
島田 卒業生と話をすると、中高生活を振り返って「毎日、とても楽しかった」「一生の友達と出会えた」と言ってくれる。それが本当に嬉しいんです。それに加えて、本校の卒業生は多くの企業から高い評価を受けています。理解力があり、周囲と協働することができ、新しいものをつくりだすため一生懸命に取り組む姿勢が素晴らしいと。探究学習をはじめ、本校での学校生活を通して身につけた力が、社会できちんと認められていることは、私たち教員にとっても自信になっています。
取材日:2024.9.7