キャリア教育の集大成!「ありたい自分」に向かう道のりを
生徒自身が考え、決意し、発表する「プレゼン型三者面談」

桐蔭学園中等教育学校

キャリア教育の集大成!「ありたい自分」に向かう道のりを生徒自身が考え、決意し、発表する「プレゼン型三者面談」

生徒が夢中になれる学びで学力や人間性を伸ばし、その学びが社会での活躍につながる「新しい進学校のカタチ」を目指す桐蔭学園中等教育学校。取り組みの一つが、6年間を通じて少しずつステップアップしていくキャリア教育だ(※)。生徒がなりたい自分の未来像を定め、そのための進路を保護者と担任教員の前で発表する、5年次(高校2年生)の「プレゼン型三者面談」は、その集大成ともいえる。「プレゼン型三者面談」を行うことで、生徒や保護者はどのように進路に向き合うことができるのか。昨年、5年次の担任として「プレゼン型三者面談」に立ち会った賀永麻美先生と、プレゼンをした生徒2名に話を聞いた。


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—「プレゼン型三者面談」とはどのような取り組みですか?

賀永 本校の「プレゼン型三者面談」は、5年次の秋から冬に行われる生徒・保護者・担任との三者面談で、生徒が将来の自分の目指す姿である「ありたい自分」と、そのために学びたいことと社会をどのようにつなげていくかについて、自分で考え、自分の言葉で話すという取り組みです。

生徒が10分から15分程度かけてプレゼンをし、保護者と担任は生徒の意思を受け止めたうえで、聞きたいことやアドバイスがあれば、話し合っていくといった流れになります。

—5年生(高校2年生)で自分のやりたいことと、そこに至る進路を結びつけ、しっかりと話せるのはすごいですね。「プレゼン型三者面談」に向けて、どのようにキャリア教育をステップアップさせているのですか?

賀永 もちろん、一朝一夕でできることではなく、そのための準備として、1年次から朝のホームルームの時間などに「将来の夢」や「自分が夢中になっていること」といったテーマの「1分間スピーチ」実施しています。それによって、生徒が自分の将来や自分の興味・関心のありかを常に意識し、問い続けていくことができる環境がつくられていきます。

さらに3年次には「学問調べ」として世の中にはどんな分野の学問があるのかを調べ、4年次には「学部調べ」として大学の学部とそこでの学びが活かせる仕事を調べ、「キャリアアンカー」という「自分が人生の選択をする際に最も大切にしたい価値観」についても考えます。

5年次の夏休みは「大学調べ」です。オープンキャンパスに行ったり、遠方の大学であれば動画やサイトを使ったりして、興味のある大学について調べます。こうして、一歩ずつ積み重ね、考えを深めていくことができるようになっていきます。

そして、最終的に「自分は社会でどのように貢献したいか」「そのために学びたい大学の学部・学科はどこか」「そこで学ぶために今の自分に必要なことは何か」といった項目のワークシートを作成し、自分の考えを整理できるようにしています。

重要なのは、大学や学部からではなく、将来の「ありたい自分」から逆算して、今の自分がやるべきことを決めることです。目標がはっきりしているから、学ぶ意欲も高まりますし、もし第一志望の大学や学部に合格できなかったとしても、別ルートから目標に向かうこともできます。

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賀永 麻美先生

プレゼンを経て受験への意識が高まる

—「プレゼン型三者面談」は、生徒や保護者にはどのように受け止められていますか?

賀永 本校では10年以上前から、進路の三者面談では「生徒が主役で話そう」という意識を持ってやってきました。そして、現在のように6年間のキャリア教育を整えたうえで「プレゼン型三者面談」を明確に打ち出したことで、生徒も保護者も早くから進路について意識してくれるようになりました。以前は、面談の場で保護者が「子どもに入ってほしい大学や学部」について話すこともありましたが、去年はそういったことはなく、よかったと思います。希望する進路について事前に共有している家庭が多いようでした。

もちろん、事前の保護者会でも「『プレゼン型三者面談』は生徒が主役なので、何か言いたいことがあっても、まずは受け入れてください」ということを、大人側の約束として周知しています。保護者や教員に肯定されているという安心があるからこそ、生徒は自分の意見を正直に口にすることができると感じています。

—生徒の進路への向き合い方への変化などはありますか?

賀永 進路への向き合い方については、アンケート等の具体的なデータに基づいたものではないので、体感ではありますが、生徒は「プレゼン型三者面談」を経ることで受験に対するモチベーションが高まるのか、休み時間などにも自習に励むようになっていますね。

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—「プレゼン型三者面談」に立ち会って、先生自身はどのような印象を受けましたか?

賀永 生徒たちが予想以上に真剣に将来について考えているということに驚きました。普段のホームルームでは1対多数で、生徒一人ひとりが自分の将来についてどのように考えているかを知る機会がないので、これは嬉しい驚きでした。生徒自身も、今まで深く考えてこなかった自分のキャリアアンカーに気づくことができたと思います。

プレゼンをきっかけに、おすすめの講習や問題集など、生徒の志望に合わせた声かけもしやくなりました。

—最後に先生から見た桐蔭学園のよさを教えてください。

賀永 授業に熱心で、手厚く愛情を持って生徒に接することができる教員が多いことが一番のよさだと思います。中学受験のためにやや詰め込みで勉強してきた生徒もいますが、そうした生徒にも楽しく学んでもらえるように取り組んでいます。

また、生徒も6年一貫でともに学ぶので、とてもアットホームな雰囲気があります。本校では「1分間スピーチ」や全教科でのアクティブラーニング型授業など、ホームルームや授業中に生徒がスピーチをしたり発表したりする機会が数多くありますが、そうした場では、聞き手は話者の方を見る、話の終わりには拍手をする、という文化が定着しています。この「傾聴」と「承認」の姿勢が生徒にしっかりと根付いていて、お互いに認め合う寛容さと、臆せずに自分の意見を発表できる表現力が育まれていることを感じます。

STUDENTS VOICE
僕の・私の「プレゼン型三者面談」

大津 翔平さん(6年生)
渡辺 杏奈さん(6年生)

Q 桐蔭学園中等教育学校を受験した理由は?

大津 仲のいい兄が桐蔭学園に通っていて、自分も憧れるようになりました。また、弟の目から見ても兄が桐蔭での6年間で人間的にとても成長したように感じられました。その理由の一つがハンドボール部の顧問の先生が素晴らしかったからだと母親から聞き、自分もハンドボール部に入りたいと思いました。

渡辺 私は小学校の間、一時期アメリカで暮らしていたので、その時に身につけた英語力を中学校でも維持したいと思っていました。桐蔭学園には帰国生入試があり、ネイティブの先生の授業もあるため、英語を話す機会も多いと考えて受験を決めました。実際、桐蔭学園の英語の授業でアメリカにいた時よりも英語力はアップしました。

Q 学園生活で一番楽しかった思い出は何ですか?

大津 一番というと難しいですが、意外と毎日の授業がとても楽しいということに最近気づきました。実は、大学見学の際に大学の授業も受講したのですが、内容は別として、授業の形式が先生の話を一方的に聞くだけで退屈でした。桐蔭学園の授業は全教科アクティブラーニング型なので、友達と話し合うなど、のびのびと学ぶことができて、僕はそれがとても気に入っています。

渡辺 楽しいことがありすぎて選べないのですが、修学旅行では仲の良い友達と一緒に観光ができてとても楽しかったです。私たちの学年は、新型コロナウイルス感染症による自粛期間があり、そのころはオンライン授業で学校行事もほとんどなかったため、みんなで一緒に学校で学び、体育祭や修学旅行といった学校行事に参加できることは、かけがえのない経験だなと実感しました。

Q プレゼン型三者面談ではどんな話をしましたか?

大津 僕は部活などをふくめた自分の学校生活を振り返り、自分を見つめ直すことで、自分がどんなことに興味があるのかを考え、そこから志望する学科や大学にいたるまでの話をしました。

具体的には、僕は1年から6年までハンドボール部で活動していたのですが、スポーツを通して、健康に興味を持つようになり、そこから医学部で予防医学という分野の研究をしたいという希望を持つようになりました。

大学については、北海道大学医学部を志望しています。兄が北大理学部に通っていて、自分も訪れた経験があるからです。広々としてとてもいい雰囲気で「ここで走ったら気持ちがいいだろうな」と想像するなど、自分がそこで大学生活を送る姿がイメージできたためです。

渡辺 私は音楽が好きなので音楽関係の仕事に就きたいと考えていました。ただ、科学技術などの理工系分野にも興味があったことや得意な英語も活かしたいという気持ちもあり迷っていました。いろいろな大学について調べていると、早稲田大学に、基幹理工学部表現工学科という、科学技術と芸術表現を融合させた学科があり、まさに自分にぴったりだと思いました。オープンキャンパスに行って、実際に大学の様子を知ると、「ここで学びたい」という気持ちがさらに大きくなりました。

Q プレゼン前後で自分や周囲に変化はありましたか?

大津 僕の場合は、プレゼンの場で初めて進路の希望を伝えたので、母親の変化が大きかったです。今までは母親によく誘われていたのですが、プレゼンの際に真剣に受験勉強に取り組みたいということを伝えたこともあり、受験を意識してくれるようになりました。僕自身も親にはっきり受験を宣言したことで、家でもだらだらせず勉強に励まないといけないなという意識が強くなりました。友達とは以前からオープンキャンパスの情報交換などをしていましたが、大学が決まるとより意識が高まりました。

渡辺 親とは以前から話し合っていたので変化はありませんでした。けれど、私自身はプレゼンまでは、大学調べをしていても、自分の進路のことなのに単に課題をやっているような気持ちがどこかにありました。それが、自分の言葉で話すことで、一気に自分ごととしての実感がわいてきました。「やらないといけない!」という気持ちでいっぱいです。

Q 桐蔭学園で成長できたことは?

大津 授業でもホームルームでもスピーチやプレゼンをする機会がたくさんあるので、自然と人前で話せるようになること。僕はもともと人前で話すのが苦手だったのですが、克服できました。

渡辺 私は小学生の時からテレビ番組などを通じて科学技術に対する漠然とした憧れを持っていたのですが、学校の授業を通して科学技術が世の中でどのように役立っているかなどを知り、将来やりたいことにまでつなげることができました。

Q 小学生のうちにやっておいた方がよいことは?

大津 兄の大学の研究室を見学した時、何の研究をしているのかわからないことがたくさんありました。世の中には、いろいろな分野の研究があって、それを好きな人がいて研究しているんだなと知りました。だから、小学生のうちから、いろんなことに興味を持って、自分の好きなものを探しておくのが大事だと思います。

渡辺 本をたくさん読んでおくとよいと思います。ひとつは、国語以外の、社会や英語はもちろん、数学など理系のテストであっても、問題文を読むには読解力が必要だからです。受験前になると本を読む時間がとれなくなるので、できるだけ早くから。あと、私は読書は人生を豊かにしてくれると思うので、おすすめしたいです。

取材日:2024.7.25