「本が子どもたちの世界を広げる!」
昭和学院秀英の読書教育

昭和学院秀英中学校・高等学校

あらゆることに挑戦できる環境を整え、一人ひとりの才能を開花させる

毎日の生活の中で得る情報の多くがデジタルデバイスを介したものに変化していく中、子どもたちが本を読む機会の減少が危惧されている。創立以来、読書教育に力を入れる昭和秀英では、図書館司書と教科担当教諭と連携し、生徒たちがより読書に親しむための取り組みを展開している。司書の斉藤真奈美教諭、英語科の鵜澤菜摘子教諭、国語科の染谷智恵子教諭に、それぞれの取り組みを聞いた。


5万冊を超える蔵書を備える昭和秀英の図書館は、2階建の独立した立派な建物。1階は話題の本や文庫・新書、雑誌などを揃える、ゆったりとした閲覧フロア、2階は分野ごとの専門書や参考書が数多く並ぶ学習のためのフロアとなっている。

この充実した施設を活用し、同校ではさまざまな読書教育を進めている。

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2016年から始まった英語科との連携では、図書館内に英語科の教諭が選定した英語図書コーナーを設置し、コーナーにある英語の本を読むことを授業の課題とした。用意された本は、「Graded Readers(GR)」と呼ばれる英語学習者レベル別に区分された英語教材を中心に、絵本や写真集、ガイドブック、理数系の雑誌など幅広い。

鵜澤教諭は、英語図書コーナー設置の狙いについてこう語る。

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「英語の力をつけるには、多くの英語にふれることが必須です。英語を読む量を増やすには、生徒たちに英語の本を読む習慣をつけてもらうことが一番だと考えました。コーナーをつくり、習熟レベル別の読み物や、幅広い分野の本や雑誌を数多く揃えることで、生徒が英語の本を手に取りやすい環境をつくりました」

教科書以外の英語の本を読むのが初めての生徒も多く、課題に対して「自分の英語力で読めるか不安だ」という声もあったという。しかし、絵本や初級のGRなど、簡単な内容のものでも1冊を読み終えることが自信につながり、次第に自発的に英語の本を読むように変化した。

司書の斉藤教諭は、この取り組みによって図書館の本の貸し出し数が大きく増えたと指摘する。

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「課題の対象となる本の貸し出し数が爆発的に伸びただけでなく、課題終了後も引き続き英語の本を借りる生徒や、日本語の本を併せて借りる生徒も増えたことは嬉しい効果でした」

問題と結びつけて作品理解を深める試み

国語科では、2020年度から、中学1年生を対象に、朝の授業前の約20分間を利用して、近代日本文学を読む取り組みを始めた。

染谷教諭は、近代日本文学を選んだ理由をこう語る。

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「ここ数年、国語の授業で、生徒たちが『知らないこと』が非常に増えていると感じるようになりました。たとえば、普通列車を『鈍行』と言い表すことを知らないなど、少し前の時代の日常生活に登場する言葉が、知識として蓄積されていないのです。大人世代とのボキャブラリーの乖離を埋め、明治から昭和の生活文化などを知るために、課題には日本近代文学を選んだのです」

生徒たちと作品をつなぐのが、添えられた問題だ。たとえば、起承転結が明確な芥川龍之介の『魔術』であれば、「起承転結に分けて4コマ漫画を描こう」というように、生徒たちが自然と作品世界を読み込み、情景をイメージするように仕向けられている。

「生徒が少しでも文学作品に親しめるように、より一層工夫を凝らしていきたいですね」と、染谷教諭は今後への期待を述べた。

中高時代の読書は人生の財産になる

司書・斉藤教諭

「卒業生から、『中学や高校の間にもっと図書館の本を読んでおけばよかった』という話をよく聞きます。同じ本を読んで友人と共通の話題で盛り上がるなど、中高時代ならではの読書の楽しみ方もありますね。今後、デジタル化が進み、図書館のあり方は変化するかもしれませんが、図書館を利用する技術は、社会人になっても役立ちます。ネットで手軽に大量の情報を収集できる時代だからこそ、自分の手で確かな情報を得る方法を、図書館の利用を通して学んでください」

英語科・鵜澤教諭

「英語の本を読むことは、英語の力を伸ばすだけでなく、多用な価値観を知り、異文化を理解するために大いに役立ちます。また、英語の本を読み慣れておくと、外国の通信社から配信される英文のニュースや、英語の論文も抵抗なく読めるようになります。英語の本をきっかけに、自分の世界を広げてください」

国語科・染谷教諭

「いわゆる文学作品には、時代や国ごとの文化や思想など、非常に密度の高い情報が詰まっています。作家が紡いだ物語世界に生きる様々な人物を通して、『他者を理解する心』を育ててください。また、そうした名作には、人生の支えになるような素敵な言葉がたくさん書かれています。ぜひ多くの名作にふれ、自分の心に響く言葉を見つけてください」

取材日:2020.7.14