教職員が一丸となって進める
本郷のICT改革

本郷中学校・高等学校

すべての経験から学ぶ姿勢を身につける本郷の教育

現在の学校教育において、ICTの推進は避けては通れない道だ。文科省が2019年より、GIGAスクール構想を立ち上げたことも記憶に新しい。この構想では義務教育段階において、令和5年度までに全学年の児童生徒が一人一台端末を持ち、十分に活動できる環境を実現することを目指している。ただ、この構想以前からICT化に向けて改革を進めている私立校も数多い。その一つ、本郷学園の取り組みについてみていこう。


本郷では、数年前から校内のICT化について協議を重ねてきたという。施設のハード面やかかる費用など、教員だけでは難しい部分を担う事務職員も加わり、ICT運用委員会が発足。学園全体でICT環境の整備に注力していった。委員会メンバーの風間弘充さんがこう話す。

「4~5年前から、生徒一人ひとりが端末を所持し、それを活用できる環境づくりを実現するために話し合いをしていました。その一環として3年前、各クラスにプロジェクターを設置しました。その後、文科省のGIGAスクール構想が出たこと、コロナ禍になったことでネットワークの大切さが再認識されるようになり、全クラスにWiFiのアクセスポイントを設置するなど、インフラ整備が一気に進みました」

ICT運用委員会メンバー・企画管理部課長|風間 弘充さん

教員には3年前からGoogleのIDを配布。教員が使うノートパソコンも、軽く使いやすいものに変更したことで、授業中にも使いやすくなったという。また、校外にいてもメールなどが見られるようにシステムも変更。新システムに移行しやすいよう、ICT運用委員会がメールの設定やファイル共有の方法についてマニュアルをつくり、準備を進めていった。

一方、コロナ禍の休校期間に生徒とコミュニケーションを継続するため、生徒全員にGoogleのIDとパスワードを配布。グループで利用できるWorkspaceを積極的に活用するようになった。これを契機として急速に検討が進み今年1月から、一人一台Chromebookを持つようになり、異なる端末を使用する不安も解消された。委員会メンバーの山﨑博文さんがこう話す。

「ICTは道具なので、生徒の好奇心がないとなかなか学習に結びつかないかもしれませんが、それを支える一つの手立てにはなります。事実、デジタル化によって予習や復習はしやすくなったと思います。今後、さらに学びの選択肢を増やすことで、可能性が広がっていくと思います」

ICT運用委員会メンバー・企画管理部課長|山﨑 博文さん

これまでは紙で配布していたプリント類もデジタル化によって、過去のものを振り返りやすくなったほか、データ管理も簡単になった。

「過去の問題のデータを蓄積し、復習に活用している数学の教員もいます。英語科では反転授業ができるように課題を出し、それに対するレスポンスに沿って授業を行っています。音楽では作曲アプリを使った授業を実施するなど、今までには実現できなかった授業も展開されています」(風間さん)

では、実際の生徒の反応はどうなのだろうか。「自分のパソコンを持ててうれしい」という生徒の声がある一方で、委員長の久保一樹先生が言う。

「今までの荷物に加えて、PCも携帯するようになり、その『重さ』に苦労している生徒もいるようです。今後は生徒の荷物の軽量化が課題であり、紙の教科書を電子教科書に変えていく流れが必要です。国や教科書会社の動きにも目を配りたいと思います。また彼らは、生まれたときからデジタル機器に慣れ親しんでいるデジタルネイティブ世代です。今は、授業で調べものをしたり、コミュニケーションのツールとしてPCを使っていますが、今後、活用の範囲が広がるにしたがい、今使っているPCでは生徒がやりたいことに制約を設けてしまう可能性があります。そういったことも考えつつ、今後について検討を重ね、柔軟に対応していきたいですね」

ICT運用委員会委員長・技術科教諭|久保 一樹 先生

本郷では、生徒が主体的に活動するシーンも多い。例えば、文化祭で生徒が受験生向けに入試問題の解説を行う取り組みもそうだ。コロナ禍により、文化祭は来場制限が設けられたが、多くの人に視聴してもらえるよう、事前に過去問の解説動画を制作したという。また、体育祭では複数のカメラを設置し、中継を切り替えながら視聴できる仕組みの導入を検討している。生徒総会では選挙や投票をオンラインで実施できるようになった。このほか、高1の卒論発表会では、中2・3の生徒も中継で視聴できるようになり、そのアーカイブ配信もスタートした。このように、生徒たちの間でもICTを活用した自主的な取り組みが始まっている。

教員もまた、端末を使って何ができるのか研究を重ねている。各教員が持つ知識やスキルを共有することも、学園全体のICT化を進めていく上で必要なことだ。そこで、風間さんと山﨑さんがICTをわかりやすく伝えるエバンジェリストとなり、校内の事例を紹介するニュースレターを継続して発行している。山﨑さんが言う。

「生徒の学びの機会を逃さないように、全教員が共有すべき情報を集めて、配信しています。教員がつくったサイトを紹介したり、通信環境が整ったことでできるようになったことなど、様々な情報を盛り込んでいます。情報提供をきちんとすることで、新たなアイデアが生まれ、本校独自の本数検(本郷数学基礎学力検定試験)や卒業論文などの取り組みについても、ICTを利用して発展していく可能性を秘めています。今後も、教員と職員がスクラムを組んで、生徒のために何が必要かを考え、本郷のICT改革を進めていきます」

取材日:2021.8.25