最先端のICT教育と、一人ひとりに向き合う指導が
「グローバル・リーダー」を育成する
東京都市大学 等々力中学校・高等学校
東京都市大等々力中学校・高等学校は東急電鉄の創業者であり、実業家であった五島慶太が昭和14年に創設した学校を前身としている。数々の改革によって、急成長を遂げてきた学校だ。改革を指揮してきた原田豊校長の思いとは—。
ー教育目標を教えてください。
原田 2010年の共学化を皮切りに、さまざまな改革を行いましたが、「ノブレス・オブリージュ」の教育と、「グローバル・リーダー」の育成という創立者・五島慶太先生の意志を建学の精神として受け継ぎ、私たちが追い求める理想の教育像としています。
誇り高く高潔な人間性を陶冶し、責任と義務を果たす「ノブレス・オブリージュ」の精神を表現したのが、「高潔・共生・英知」の三つの校訓です。
「高潔」とは、五島先生がおっしゃっていた「熱誠」のこと。情熱を傾けて物事に対応し、多少の困難にもたじろがない、強い心を育てるということです。そういう生徒を育てるために、学業に部活動に、様々な角度から指導しています。
「共生」には、自分の意見を主張しながらも、相手の気持ちや考えを尊重する「アサーティブ」なコミュニケーションが求められます。中1・2の早くから、ホームルームや授業の中でそうした機会を数多く設け、コミュニケーション力を養っています。
「英知」に欠かせないのが知識です。知的好奇心のもと、多くの知識を養い、定着させるために、小テストなどを頻繁に行っています。そうして蓄えた知識をどのように活用するべきか。それには、自分の行動や考えを客観的に認識できる能力、メタ認知能力が大切です。知識とメタ認知能力、この二つを養うことを重視しています。
ーメタ認知能力を高めるために、どんな取り組みがありますか。
原田 メタ認知能力を高める、本校随一のものが「TQノート」です。TQノートは、各教科の次の週の授業計画のもと、自ら目標を設定して勉強計画をつくり、実行し、内省していくツールです。中1から高3まで、すべての生徒が毎日書き続け、保護者と教員も必ずコメントを書き加えます。中1の最初の頃はノートをつけられない生徒もいますが、教員があきらめずに生徒一人ひとりに対応していきます。そうした地道な作業により、生徒の意欲にスイッチが入り、自ら学ぶようになっていきます。
また、中1・2で取り入れている実験を重視した理科教育「SST」も、自ら思考し、探究できる姿勢を身に付ける機会になっています。
ーICT(情報通信技術)による最先端教育で知られています。TQノートはその対極にある取り組みですね。
原田 TQノートには、まさに教員の熱誠が表れています。本校はICT教育の先進校ですが、TQノートはあくまで自分の手で書くことを大切にしています。卒業までに6冊たまりますが、手に取れば生徒の成長がわかりますし、教員や保護者の生徒への思いが伝わります。卒業アルバムと同じように、大切な思い出になるはずです。それは、教育の根本にかかわる大事なものだと考えています。
ー21年春の進学実績と進路指導について教えてください。
原田 共学化以降、進学実績は飛躍的に上がり、ここ数年は安定して高い実績を実現しています。
本校の卒業生は例年、200人程度と多くはありませんが、今春の国公立大合格者数は計54人で、過去最高の合格者数になりました。また毎年、早慶上理に80〜100人、GMARCHに200人以上の合格者を輩出しています。医学部合格者も年々増えてきました。海外大学についても、東大より世界ランキングが高い、一流の海外大学に合格する生徒もいます。
現役進学率も際立っています。毎年91%前後で、今春は少し下がったものの87%が現役で進学しました。受験生と保護者との三者面談をきめ細かく行い、進学したい大学を受験するように指導していることが、現役進学率につながっています。
また、大学受験には長期的な計画が必要になります。高3はTQノートに加えて、1年間の勉強の流れを作るTQ戦略シートを書き、計画的に大学受験に臨んでいます。
ー今後の目標を教えてください。
原田 本校はこれまで、ICTを活用した教育を計画的に取り入れてきました。20年秋からは、一人ひとりの学力や目標にあった学習メニューを提供する「アダプティブ・ラーニング」がスタートしました。その最先端の学びをけん引しているのが、「システムZ(ゼータ)」です。これは、AIを活用した記憶定着アプリによる生徒の自学自習と、コーチングスタッフによる補習などを一体化したものです。記憶定着アプリに英検の目標取得級を登録すると、学習計画が自動的に作成されます。朝や休み時間、家での合間の時間にこのアプリに取り組んでいきます。今後、このシステムを数学にも応用していきたいと考えています。
このほか、本校ではスタディサプリも活用しています。ただ、講座数が多いので何を聴いたらいいかわからない場合もあります。そこで、つまずいているところをカルテに記入し、進路指導の拠点であるアナライズセンターに提出することで、最適な学習計画を作ってもらえるシステムを構築し、運用を始めました。
ー受験生に向けて、メッセージをください。
原田 どんな生徒も、最終的には自立することが大切ですが、いきなり自立するのは難しい。本校には、発達状況に応じて課題を与え、着実に成長させていく教育があります。また、中高時代にいろんなことにチャレンジしてほしいです。様々な経験を積み、多くの失敗をすることで、培われていく能力があるからです。失敗しても、学校でしっかり手を差し伸べますから、信頼して任せてほしいと思います。
TQ(Time Quest)ノートとは?
自学自習を確立するための時間管理用ノート。入学時に生徒全員に配布され、卒業までの間、毎日の学習計画や達成度などを書き込んでいく。TQノートによって、基本的な学習習慣を身につけるとともに、目標に合わせた計画を立て、実現に向けて努力する姿勢を養う。
取材日:2021.7.28