俳句甲子園全国大会で準優勝。
17音を通して実感する言葉の持つ力
海城中学高等学校
海城中学校・高等学校には、各教科のカリキュラムを超えた生徒の主体的な学びの場「KSプロジェクト」という特別講座がある。「俳句甲子園への道」はそのひとつとして始まった。現在中3から高3までの23名が参加している。発足以来6年間で5度の全国大会出場を経て、今年見事準優勝を果たした。俳句を通して生徒にはどのような力が育まれるのか。担当の本間純一先生に話を聞いた。
俳句甲子園は毎年8月に愛媛県松山市で開催される。俳句の出来栄えが評価される「作品点」と、お互いの句をディベート形式で意見交換し、その内容を評価する「鑑賞点」で競われる。地方大会での優勝または投句審査での選出(地方大会で敗退した場合の敗者復活含む)が全国大会出場の条件だ。
3年ぶりに全校が対面形式で参加した今年、海城高校からは3チームがエントリーした。結果として東京大会では惜しくも敗れたが、その後の投句審査で選出されたA・Bの2チームが全国大会に駒を進めることになった。「東京大会は強豪校が多く、ディベートにおいて俳句の解釈を、即座に言語化する力に差を感じました。ただ、投句審査で評価されたということは、俳句を作る力が確実に育っている証拠だと思います」と本間先生は振り返る。
全国大会は予選を含めて計2日間で争われた。Aチームは順調に予選を勝ち進み決勝リーグに進出。Bチームは善戦したものの惜しくも決勝リーグ進出はならず。決勝リーグに進出したAチームは昨年の優勝校である開成高校と決勝戦で対戦し、敗れはしたものの、この活動が始まって以来最高の全国準優勝となった。Bチームも予選の活躍が評価され奨励賞(ベスト8相当)を獲得。この大会では個人の表彰もあり、海城高校からは3名が入選した。
KSプロジェクト「俳句甲子園への道」から得られるもの
「俳句甲子園への道」がKSプロジェクトの一環として発足して以来、5回の全国大会出場を誇る。回を重ねるごとに、メンバーは着実に成長してきた。句集を愛読し、日常的に俳句に接することで確固たる俳句観を養ったり、個人のコンクールで受賞したりする生徒も出てきている。
俳句そのものに興味を示す生徒が増えてきた中にあって、ひきつづき俳句甲子園を目指す理由について本間先生は次のように語る。「俳句甲子園には全国大会ともなれば様々なエリアから生徒が集まります。異なる背景を持つ生徒の句に触れることは、自身の感性を広げる上で、大切な経験となります。また、句を詠むだけでなく、ディベートを通して、相手の意見に耳を傾ける力を養うこともできます。団体で勝負に挑み、チームワークを養うことも、俳句甲子園という場だからこそ培えるものです」
大会が終了すると、新シーズンがスタートする。まずは、中学3年生の希望者を対象に、句作・句会・模擬試合を行う3日間の講習が開催される。俳句の楽しさを知ってもらうと同時に、次なるメンバー発掘の意味もある。講習にはOBも参加し、俳句の魅力を語ってもらう場面もあった。縦のつながりは卒業後も続いており、プロジェクトに厚みがでてきている。
普段の活動は週1回。句作・句の鑑賞・句会が主な活動内容だ。句会では、決められた兼題(季語)に基づき生徒が作成した句を、メンバー全員で鑑賞していく。最近はオンラインを活用するなどして、他校とも交流の場を広げている。また、生徒の希望により、プロの俳人である外部コーチを招いている。レベルアップの理由には、生徒一人ひとりの表現したい世界観を尊重し、教えすぎず生徒自身の「気づき」を大切にする外部コーチの力が大きいと本間先生は話す。
KSプロジェクトは「俳句甲子園への道」以外にもさまざまなプログラムが用意されている。総じて生徒の知的好奇心を育むのが目的だ。本間先生は最後に「海城中学・高等学校では、生徒の興味・関心を受け入れる土壌が整っています。ともに学び合い、未知なるものを面白がることが思いもよらぬ成長につながると思います」と語ってくれた。
「俳句甲子園への道」に参加した生徒の声
「書くことで何かを表現したい!」と思っていたとき、本間先生に誘われて参加しました。俳句甲子園に向けては、ディベートをする際に全体を見渡しながら、全員のスキルを最大限に生かすことを意識しました。全国大会終了後、ホテルでみんなと歓談したのが印象に残っています。寝食をともにすることで、普段は聞けない俳句に対する本音を聞くことができ、お互いの価値観を共有する場になりました。俳句を通して学んだことは、世界には見るべきものが想像以上にたくさんあるということです。ほかには、山岳部で部長をしています。登山体験は人生の疑似体験のようなもので、毎回学ぶことが多いです。海城は、一歩踏み出しさえすれば、やりたいことをやれる環境が存分に用意されています。
中学の授業の中で俳句に触れ、本間先生にスカウトされたのがきっかけです。最初は気軽な気持ちで大会に一度出るだけだと思っていましたが、俳句の魅力に取りつかれ、続けているうちに3年半が経過。今では自分の身の回りの出来事や季節の移ろいに敏感になりました。俳句甲子園では、句作に注力し、誰もが情景がすぐに浮かぶような句を目指しました。全国大会で後輩のチームと当たったのですが、どの対戦よりも白熱しました。ディベートで、言葉があふれ出て止まらない感覚を味わったのは初めてです。海城には、生徒の興味を掻き立てるようなさまざまな講座、やりたいことをサポートしてくれる環境が整っています。志をともにする仲間と、充実した6年間を過ごすことができたので、入学して本当によかったと思っています。
取材日:2022.9.6