「カリタスらしい探究学習とはなんだろう」
生徒とともに模索しながら作り上げる共創の教育

カリタス女子中学高等学校

「カリタスらしい探究学習とはなんだろう」生徒とともに模索しながら作り上げる共創の教育

カナダのカトリック教会にルーツを持ち、中学から英語とフランス語の複言語教育を行うなど、グローバルな教育で知られるカリタス女子中学高等学校。2022年度から東京外国語大学など複数の大学と高大連携協定を締結し、独自プログラムによる探究学習をはじめとする多様な教育の充実に力を入れている。具体的な探究学習のプログラムほか、あらゆる教育の場において、同校が大切にする「カリタスらしさ」について、副校長の鷲頭弘子先生と学習進路指導部主任の法土明子先生に話を聞いた。


―カリタス女子中学高等学校で取り組まれている、探究学習について教えてください。

鷲頭 本校の探究学習「i-Time」は2019年にスタートしました。授業名の「i」には、「inquiry(探究)」の学びを通し、「i(私)」が自己を見つめることで、「identity(自己同一性)」を確立し、「愛(ラテン語でカリタス)」をもって人に尽くす人間を目指す、という意味が込められています。探究学習は、学校ごとにさまざまな取り組みがあるかとは思いますが、本校の場合は、授業名に込めた通り「カリタスらしい探究学習」を大切にしたいと思っています。

―具体的にはどのような学習内容に取り組まれていますか?。

鷲頭 例えば、中学1年生は「福祉・人権」という大きなテーマのもと、各自が関心のあるテーマを深掘りするほか、フィリピンの子どもに手作りのポシェットを送る支援活動などを行なっています。中2までは、探究学習の大まかなテーマや活動は教員が指示しますが、中3からは生徒が探究学習の中心になります。中3の長崎への研修旅行では、生徒同士グループごとに長崎でのフィールドワークについて話し合い、事前に探究学習計画を設定。例えば、医師であり自身の被曝体験をもとにした多くの著作を記し、世界に平和を訴えた永井隆博士をテーマにするグループは、長崎にある記念館を訪れるだけでなく、お孫さんへのインタビューを申し込んでいます。また、ツシマヤマネコをテーマにするグループは事前に対馬野生生物保護センターのオンライン「ヤマネコ教室」を受講し、その後、長崎大学の先生に連絡して直接取材を依頼しています。テーマを決めるだけでなく、そのテーマを探究するためにどのようにアプローチするかということも、生徒たちが自分で考え、実現に向けて行動しています。私たち教員は、相談にのるなど、サポートに徹しています。

鷲頭 弘子 先生

学校外とのつながりで探究学習のフィールドを広げる

―高校では、昨年度から高大連携の探究学習も始まったそうですね。

法土 ちょうど中1で探究学習が始まった学年が高校生になったこともあり、さらに探究学習の幅を広げ、内容を深めていこうと考えていた時に、高大連携のお話があったんです。そこで、ぜひ高大連携の探究授業を作りたいと考え、協定大学の先生や学生の方にご協力をお願いしました。現在、東京外国語大学、東京農工大学、上智大学、北里大学、日本薬科大学と高大連携協定を締結しています。

―語学や理工学、医学、薬学など、協定大学の分野の幅は広いですが、どういった内容の探究学習を行なっているのですか?

鷲頭 どのような内容のプログラムを実施するかについては、やはり「カリタスらしさ」を念頭に、それぞれの大学の先生や担当職員の方と話し合いながら進めています。例えば、本校は英語とフランス語の複言語教育を行なっていますが、本校の生徒たちには、より多くの外国語に興味を持ち、学んでほしいと考えています。そこで、東京外国語大学でドイツ語やアラビア語、イタリア語を学んでいる学生の方々に先生役をお願いし、言語や各国の風土や文化について講義をしてもらいました。年の近い学生の方にお話しいただくことで、生徒たちも緊張せず親近感をもって楽しく学ぶことができました。学生の方にも、高校生に教えることは「とてもよい経験になった」と好評だったようで、今年も第二回目を企画中です。高校生はもちろん、大学生の方にも「言語と文化」について共に考え、お互いに学び合えるものがあればいいと思っています。

―高校では、昨年度から高大連携の探究学習も始まったそうですね。

法土 北里大学とは、中3と高1を対象に生命倫理に関する講演を実施しました。昨年度は出生前診断をテーマとしました。妊娠や人工中絶については、生命尊重などのカトリック倫理を学ぶ本校の生徒たちにどのように伝え、向き合ってもらえばいいかを、事前に大学の先生方と本校の教員との間で入念に話し合いました。おかげさまで生徒だけでなく、教員にも学びの多いプログラムになりました。ほかにも、大学との高大連携プログラムに企業が加わって、『のど飴』の開発に取り組むプログラムなども進行中です(囲み記事参照)。

鷲頭 大学はもちろん、企業や地域社会といった学外との連携は、探究学習だけでなくボランティアなど、さまざまな活動を行っており、更に増やしていきたいと思っています。こうした活動は、生徒の視野を広げ、興味関心の扉を開くだけでなく、学内で見せる顔とはまた違った生徒のよさを私たち教員が発見するチャンスにもなっています。

大学や企業と連携し、
生徒たちが『のど飴』を開発中!

カリタス女子中学高等学校では、現在、日本薬科大学との高大連携探究学習として、植物成分配合ののど飴の開発に取り組んでいる。同校の高校生の有志17名が参加するこのプロジェクトには、植物由来の医薬品や化粧品、食品の原料を製造する常磐植物化学研究所と飴をはじめとする菓子を製造販売する榮太樓總本鋪が協賛。生徒たちは、薬科大の教員や企業の担当者から、薬や植物、飴などに関するさまざまな講義を受けながら、自分たちのアイデアを活かした商品を開発中だ。「生徒たちは、のど飴の開発に取り組むことで、飴の歴史や製造工程、薬や食品に関連する法令、ターゲット層をふまえた商品コンセプトの立て方やパッケージデザインなど、多くのことを学んでいます。生徒たちはグループごとに、誰に向けてどんな味や見た目ののど飴を作りたいかをプレゼンし、企業の方に評価をしてもらい、企画の改善を重ねています。中間発表をした文化祭では、多くのお客様からご意見もいただきました。まだまだ試行錯誤中ですが、来年度の完成を目指して生徒たちは非常に熱心に取り組んでいますよ」(法土先生)

法土 明子 先生

生徒の「やりたい」という意欲に教員も全力で応える

―学外との連携といえば、生徒さんが広告制作会社等と相談しながら制作しているパンフレットがあるそうですね。

鷲頭 本校には、保護者向けのガイドブックのほか受験生向けのパンフレットがあり、後者の企画制作を担当しているのがパンフレット委員を務める生徒たちです。毎年、表紙のデザインから内容まで生徒がアイデアを出し、業者さんと相談して、制作しています。生徒目線で作られているため、受験生からとても評判がいいんです。

―高校では、昨年度から高大連携の探究学習も始まったそうですね。

法土 実は今のカリタス手帳(生徒手帳)も、生徒たちがリニューアルしたものなんです。数名の生徒が「更に使いやすいカリタス手帳にしたい」と声をあげ、ほかの生徒にもアンケートを取って改善の提案を出してきたんです。結果生徒がチームになって、改善点を業者さんと話し合い新たな手帳を完成させました。試験の2週間前に時間割や試験範囲が書き込める赤いラインの入ったページがさし込まれていたり、方眼目の書き込みスペースが広くとってあったり、PDCAサイクルが回せる工夫が凝らされています。使いやすいようで、生徒の手帳利用率が一気に上がりました。

鷲頭 生徒たちの思いを実現できるよう、私たち教員は共に考え、最大限サポートするようにしています。達成感を味わった生徒は大きく成長し、また次のチャレンジに向かっていきます。

取材日:2023.9.9