ジオラマ制作や、全国各地めぐる宿泊行事が魅力
好きなことに全力で取り組むクラブ活動
駒場東邦中学校・高等学校
学校生活の中で、興味・関心があることに全力で取り組めるのはクラブ活動の醍醐味だ。全国屈指の男子進学校である駒場東邦中学校・高等学校にも、スポーツ系、文化系の多彩なクラブ・同好会があり、生徒が主体的に活動している。その一つ、鉄道研究部の活動をみていこう。
同好会時代を含めると、50年以上の歴史がある駒場東邦の鉄道研究部。現在は中学生40人、高校生14人の計54人が活動している。最大の目標が、文化祭で展示する作品づくりだ。
文化祭は、各クラブ・同好会が自分たちの活動を紹介する一大イベントだ。鉄道研究部も、一年かけてさまざまな作品を企画・制作している。
実際に、文化祭の様子を見学させてもらった。鉄道研究部の展示室で、最初に目を引いたのが入口付近に置かれた運転シミュレーターだ。東急大井町線の九品仏駅から緑が丘駅の2区間をモデルに、T字型のハンドルを動かしながら運転体験ができるコーナーだ。運転シミュレーターの制作に関わった部長の冥賀大樹さんがこう話す。
「今年から映像も自分たちでつくりました。音響やモニターにこだわり、臨場感ある作品になりました。実際に自分たちで作ったものを運転してもらうのは初めての経験でしたが、参加者はみんな楽しそうに運転してくれ、ほっとしました」
運転シミュレーターのように、OBが制作したものを受け継ぎながら、新たな試みを加えていく作品も多い。首都圏で活躍しているE233系(中央線、東海道線、南武線、横浜線など)の前面をモチーフにした記念撮影ブースもそうだ。一昨年から、行先を表示する電光掲示板に好きな文字列を設定できるようにした。 また、"合格”と入力すると、桜が舞う仕組みを加えたところ、受験生に大人気となった。
また、路線紹介コーナーでは、中国地方の鉄道の魅力を紹介した。部員全員で原稿を執筆し、現地で部員が撮影した写真を展示。路線の雰囲気を伝え、楽しんでもらえるようにクイズも用意した。
展示室の中で、ひときわ存在感があるのが、中央に置かれた大きなジオラマだ。今年のテーマである中国地方の情景をイメージした作品だ。制作した本間正悟さんがこう話す。
「原爆ドームや厳島神社、廃線になった島根の三江線の宇都井駅など、中国地方のさまざまな場所を一つのボードに表現するところにこだわりました。また、広島と岡山で走行している路面電車も再現し、普通列車と路面電車を並走させました」
文化祭に向けて、大きなジオラマをつくる模型班と、その他のすべての展示物や校門横に設置する立て看板などを担当する装飾班に分かれて活動。今年は、ジオラマの形を変えたことで、部屋のレイアウトも変更した。装飾班は、部屋全体の雰囲気を考えながら展示品を制作・配置したという。装飾班を指揮した海老名豪さんがこう説明する。
装飾班は、鉄研の文化的側面を支える重要な仕事を担っています。最も目立つジオラマを制作する模型班より地味に感じられますが、下級生にもやりがいを感じてもらいたいと思い、今年から電車の被り物と小さなジオラマ制作の企画をスタートしました。来場者の反応も良く、装飾班のこれからの活動にいい影響を与えられたと思います」
今年の文化祭は4年ぶりに人数無制限での開催となった。鉄道研究部の展示室にも多くの来場者が集まり、大盛況で終えることができたようだ。
楽しみながら興味を深めていく校外活動
電車が好きな生徒はもちろん、旅行が好きな生徒も多い鉄道研究部では、校外活動も積極的に実施している。中でも、部員全員が楽しみにしているのが合宿や中旅行会だ。
合宿は年1回、夏に3泊4日で実施される。主な目的は文化祭の展示に向けての取材で、行先は北海道・四国・九州・東北・中国のいずれか。中1から高2まで5年間かけて日本の全地方を制覇できる。また、冬の中旅行会は2泊3日で実施される。行先は関西や信越・北陸などだ。
これらの宿泊行事では、電車を撮影するコースや観光中心のコースなど、数種類のコースを設定。部員は興味があるコースを選択できる。
「今年の合宿では、中1のときから念願だった小豆島に行くコースを設定しました。瀬戸大橋を渡り、高松からフェリーに乗って小豆島に渡るルートで、5年間かけてつくりあげたコースを実現できました」(本間さん)
ホテルの予約やスケジュールの調整など、準備を進めていくのは合宿担当の部員だ。当日は、電車が運転を見合わせるなどのトラブルが起こることもあるが、各コースの班長が臨機応変に対応し、部員を率いていく。
この他、日帰りの撮影会も年に数回実施している。さまざまな情報を集めて撮影会の計画をたてて、現地で撮影に臨む。あえて遠い場所を設定して、移動を楽しむこともあるという。
また、鉄道研究部では外部のコンテストにも挑戦している。今年、4年ぶりに出場した全国鉄道模型コンテストでは、「断崖絶壁を走る鉄道」をテーマにジオラマを制作。新潟県の親不知海岸と静岡県の大崩海岸の地形を参考にした作品が完成した。
「コンテストでは、さまざまな規定がある中で、独創性ある作品を制作します。今回の作品は、本物に近い岩肌を再現するために、何度も試行錯誤しました」(海老名さん)
写真から実際の場所を想像しながら作品を作り上げ、ベストクオリティ賞を受賞した。
最後に、駒場東邦の魅力について、部長の冥賀さんがこう話す。「進学校なので、勉強の進度は早めですが、勉強だけの学校ではなく、部活動にも全力で打ち込める学校です。また、自由な校風があるので、自分がやりたいことに挑戦しやすい学校だと思います」
「スポーツ系のクラブも活発に活動していますが、鉄道研究部のように自分の世界をもって活動している生徒もたくさんいます。いろんな生徒がお互いを認め合いながら学校生活を送っています。生徒からも自由な校風といわれますが、一定のルールはあるものの、決まっていない余白の部分も多いので、緩さもありつつ、自分たちで決めなければならない厳しさもあります。そこが本校の魅力だと思います」
取材日:2023.9.17