新校長が目指す国を超え、時代の変化に対応する
ボーダーレスに活躍できる人材教育

文化学園大学杉並中学・高等学校

2015年に日本とカナダ両方の卒業資格を取得できるダブルディプロマ(DD)コースを日本で初めて開設し、独自のグローバルな教育プログラムを発展させてきた文化学園大学杉並中学・高等学校。校内にブリティッシュコロンビア(BC)州の海外校Bunka Suginami Canadian International School(BSCIS)を併設する教育環境を生かし、日本とカナダの「二言語教育」「二文化教育」を実現している。DDコース開設をはじめとする同校の教育改革を牽引し、2024年4月に校長に就任した青井静男先生に、掲げる教育目標や同校の強み、また目指すべきグローバル教育のあり方についてうかがった。


―学校教育において、先生が大切にしていることを教えてください。

本校の教育理念は「感動の教育」です。創立以来50年、変わりません。感動とは生徒の毎日の学校生活から生まれるもので、例えば、「できなかった問題が解けた!」や「友達と仲良くできた!」。そんな小さな成功体験を実感できる教育環境づくりに取り組んでいます。国際的な調査で、日本は先進国の中では子どもの自己肯定感が非常に低いという結果が出ていますが、私はこれをぜひ高めていきたいと思っています。本校が取り入れているカナダの教育は、まさにそうした生徒を認め、肯定し、後押しする自己肯定感を高める教育です。本校では折に触れて生徒にアンケートをとっているのですが、入学時に比べると卒業時には生徒の自己肯定感が軒並み上がっています。

また、本校のモットーは「燃えよ!価値あるものに!」です。私はこの言葉が大好きなんですが、生徒一人ひとりに、自分が本気で燃えられるものを見つけ、全力を賭けてほしいと願っています。授業やクラブ活動、委員会活動、海外研修等、夢中になれるものとの出会うためのプログラムもたくさん用意しています。まだ見つかっていない生徒も、本校での3年間もしくは6年間で、きっと見つけ、〝燃える”学校生活を送ることができるのではないでしょうか。

多様な生徒が集まる環境だから「ちがい」を認める文化が育つ

―先生から見た御校の強みはなんですか?

本校はDDコースの開設をはじめ、英検の成績上昇や海外大学への進学者数の増加などによって、グローバル教育に力を入れている学校として、知っていただけるようになりました。その結果、現在の本校は、帰国生や外国籍の入学者も増えていき、現在はさまざまなバックグラウンドを持った生徒たちがともに学ぶ場となっています。カナダのBC州から派遣されているネイティブ教員はもちろん、生徒にも多様な国籍、文化、価値観を持った人たちが集まっていることが、一つの強みです。

私はいつも生徒に「NO foreigners in this school( 本校に〝外国人”はいない)」というメッセージを伝えています。国籍も民族も宗教も超えて、私たちはみんな〝地球市民”なんだ、と。〝地球市民”として共に学校生活を送るなかで、話し合い、協力し合える関係をいかにして築いていくかを学ぶことは、かけがえのない経験になっていると思います。

従来の欧米、特にアメリカの教育といえば、ディベートに力を入れていました。ディベートでは対立する2つの意見を戦わせ、勝ち負けを決めます。対して、本校が推進するのはディスカッションです。これからの社会は、勝ち負けを競い合うのではなく、異なる考えや意見を持つ人たちが集まって、みんなでよいものをつくっていこうという方向に進んでいく必要があります。やや壮大な話になりますが、そうしたディスカッションができる人材が多く育つことで、世界の平和にも貢献できるのではないかと考えています。

青井 静男 校長

周囲に認められることで生徒は安心して成長できる

―入学時と卒業時で生徒さんはどのように成長されますか?

ディスカッションをくり返すことで、他者の意見を聞き、考え、自分の意見をはっきりと言えるようになります。最初にお話したように、生徒一人ひとりを認め、肯定し、後押しする教育を実践していますから、入学時には引っ込み思案だった生徒も、自信を持ち、保護者が驚くほど変化します。

また、本校ではさまざまな学校生活は生徒が主体となって取り組んでいます。たとえば、修学旅行は「i︲たび」という名称で、生徒が行き先を決め、旅行会社を選定し、旅程を調整しています。制服や校則の改定についても生徒からの意見で話し合いが進められます。ほかにも、環境教育がきっかけで、生徒の間でペットボトル削減の取り組みが始まり、マイボトルに使えるウォーターサーバー設置にまで至りました。自分たちのためだけでなく、社会のために考え、行動できる生徒たちを私はとても誇りに思っています。

変化の激しい社会に必要な“ボーダーレス”な人材

―今後、どのようなことに力を入れていきたいですか?

予測不能とも言われる変化の激しい社会で必要な力とは何かと考えたると、〝ボーダーレスに生きる力”の大切さを実感します。

私は、大学は経済学部で学び、その後、海外で仕事をするために最初は海外支店のあるホテルマンになり、次に海外展開をしていた外食産業に就き、さらには旅行会社の添乗員になりました。その後、大学の文学部で学び直し、企業研修などを行う教育会社を経て、本校の教員になりました。バブルが終わり、日本経済が停滞し始めた時で、海外で活躍できる人材を育てていかなければならないという強い思いで、DDコースを立ち上げました。

当時よりも、世の中はさらに複雑化し分断が進んでいます。だからこそ、国籍や民族、宗教と問わず、〝地球市民”としてボーダーレスに活躍できる人材を育てる本校の教育環境を、より一層発展させていきたいですね。

取材日:2024.8.30