多言語学習をきっかけに多面的に
世界に向き合うグローバル教育を展開
獨協中学・高等学校
1883(明治16)年に創立された獨逸学協会学校を前身とする獨協中学校・高等学校では、ドイツへの研修旅行や第二外国語としてドイツ語の授業を実施するなど、英語とともにドイツとの繋がりを通してグローバル教育を続けてきた。2024年からは高校での第二外国語学習を中学3年生からできるように前倒しするなど、新たな取り組みも始まっている。同校のグローバル教育について、上智大学外国語学部ドイツ語学科3年生の濱川遼太さん、高校3年生の狩野晋一朗さん、中学校3年生の三廻部誠さん、そして英語科の藤田麻友美先生に話を聞いた。
―まずは、英語・ドイツ語をふくむ、御校のグローバル教育について教えてください。
藤田 本校のグローバル教育の特徴は、多様なプログラムです。中学1、2年生は国内で英語でのコミュニケーション力をつけるため、国内ミニ留学や英語体験施設を利用しての英語学習を実施しています。また、今年からはこれまで高校1年生対象だった海外研修を中学3年生にも広げ、中3と高1の希望者によるイギリスのコッツウェルでのホームステイを実施しました。また、ニュージーランドで3週間、現地の学校に通う短期留学も始まりましたし、来年度からはターム留学も開始予定です。これらは主に英語の取り組みです。
一方、中3から高2の希望者を対象にしたドイツ研修旅行では、語学研修というよりも移民問題などヨーロッパ特有の課題を現地で見聞きしながら考えることや、環境先進国であるドイツの取り組みや自然と共生する生活などを体験することが大きな目的となっています。本校では屋上緑化やビオトープづくりといった環境教育を実施しているため、海外の経験によって学びを深めていきたいとも考えています。
さらに、ドイツの協力校の生徒を本校に迎えての交流やその際のホストファミリーの受け入れも開始しました。環境教育の一環としては、以前からアメリカのイエローストーンサイエンスツアーも実施しています。
研修や交流の経験を経て生徒それぞれが成長を実感
―本日参加いただいているOBと生徒のみなさんは、これまでどんなプログラムに参加されましたか?また、それらに興味を持ったきっかけも教えてください。
濱川 私は子どもの頃に海外に住んでいたため、もともと移民問題に関心があり、本校のドイツ研修旅行に参加してより深く課題に取り組みたいと思っていました。残念ながらコロナ禍のためにドイツ研修には参加できなかったのですが、その前年にアメリカのイエローストーン国立公園を訪れるサイエンスツアーに参加し、自然環境への関心を深めることができました。また、所属していた英語ディベート部でも、グローバルな社会課題をテーマにしていたため、普段から国際的な問題を考える機会が多くありました。
狩野 僕は入学して英語を学び始めたことをきっかけに、海外に関心を持つようになりました。高校1年からはドイツ語を選択し、ドイツ研修旅行にも参加しました。研修旅行では移民問題の学習の一環で、ウクライナの方に会って戦争の話を聞くなど非常に貴重な経験をすることができました。
三廻部 小さい頃に英会話教室に通っていて、英語を話せると日本人以外の人とも話ができるということに感動をし、外国の人と通じ合うためのツールとしての英語学習に興味を持ちました。入学後の英語の授業では、英語の文法などのメカニズムがわかるようになり、新たな魅力を感じるようになりました。
海外研修にはまだ参加していないのですが、ホストファミリーとしてドイツの高校生の受け入れを経験しました。1泊2日という短い期間でしたが、好きなゲームの話やドイツの朝食事情など、ドイツの生活文化を知る貴重な機会になりましたし、一日中英語でコミュニケーションをとることもいい勉強になりました。
―参加したことで、どのような成長や変化がありましたか?
濱川 参加したのはイエローストーンサイエンスツアーですが、現地で日本の原発についてのレクチャーを受けるなど、環境問題については国を超えた視座が必要だと認識することができました。私の場合はそこからさらに、ドイツの環境問題へも関心を広げていきました。
大学入学後は言語社会学への興味が深まったため、ドイツ語圏であるオーストリアのグラーツ大学にも留学しましたが、高校時代に現地で学ぶことの大切さを実感できたことも留学の後押しになりました。
狩野 ドイツ研修旅行ではホストファミリーが海外にルーツを持つ方でしたし、ほかにも移民の方が多く暮らす多様性にふれ、世界のさまざまな国のことを意識するようになりました。帰国後は、ゲーテ・インスティトゥートという世界各国でドイツが文化の相互理解のために活動するネットワークが行うPASCH(パッシュ)プログラムに参加し、ドイツ語やドイツ文化への理解に深めています。今年は、ドイツで行われた国際ドイツ語オリンピックに日本代表として参加しました。現地では62カ国の代表者と交流し、国による立場や考え方の違いを肌で感じることができました。
三廻部 ホームステイ受け入れ後は、自分の英語学習不足を反省し、継続して勉強するようになりました。しっかりと英語力を身につけて、高校からはぜひいろいろな海外研修旅行に参加したいと思っています。
獨協のグローバル教育を経て世界への興味関心の扉を開く
―将来の夢や今後やってみたいことがあれば教えてください。
三廻部 将来は国際線のパイロットになりたいと思っています。前に空港の近くに住んでいたので、飛行機に憧れがあったのですが、獨協での経験を通してさらに世界中の人と会う機会のある仕事に就きたいと思うようになりました。
狩野 大学ではドイツ語学科に進み、将来は外交官になりたいと思っています。ドイツ語オリン ピックでの経験などを経て、日本と世界の架け橋になりたいという思いが強くなったためです。
濱川 商社など自分の語学力や海外での経験を活かす仕事をしたいと思っています。日本企業の一員として国際的な課題の解決に貢献することが目標です。留学などを経て、日本人として海外で働くことの意義に気付いたため、ぜひ実現したいと思っています。
―グローバル教育として、今後どのような取り組みを進めていきたいですか?
藤田 今、日本でグローバル教育といった場合、英語教育が挙げられることが多いと思います。けれど、英語は万能ではありませんし、英語圏への研修だけでは一面的な学びになってしまいます。本校のドイツ語教育やドイツ研修旅行の一番の意味は、国際社会に対する多面的な視点や価値観を持つきっかけとしてもらうことです。今後は、より多様な国々と交流していきたいですね。
取材日:2024.9.17