デザインを通したリアルな問題解決の場
KAIJO DESIGN TEAM
海城中学高等学校
海城中高には、教科横断型の特別講座「KSプロジェクト」がある。自然保護と地域が抱える課題について学ぶ「みなかみスタディツアー」や、俳句の全国大会を目指す「俳句甲子園への道」など、授業の枠組みを超えた様々な講座が開設されている。技術科と美術科の合同企画「KAIJO DESIGN TEAM」もその一つだ。チーム設立から3年目を迎え、学内の様々なデザインを手がけている。その活動について、技術科の中村亮太先生と美術科の天野友景先生、4人の生徒に話を聞いた。
海城には、各教科のカリキュラムを超えて生徒の興味・関心に応える特別講座「KSプロジェクト」がある。その一つとして2022年に発足したのが、技術科と美術科の合同企画「KAIJO DESIGN TEAM」だ。「デザインを通した新たな価値創造」という理念のもと、中1から高2までの計31人が様々なデザイン制作に携わっている。チーム設立の経緯について、技術科の中村亮太先生がこう話す。
「技術と美術の共通する分野であるデザインを通して、実社会と関わるリアルな問題解決の場を作りたいと考え、開設しました。問題解決学習を授業内の疑似体験で終わらせずに、生徒のアイデアを実際に形にすることで、思い出にも残る活動になっていると思います」
発足後、最初に取り組んだのはKAIJO DESIGN TEAMを象徴するロゴづくりだ。それ以降、入試広報部をはじめとする様々な組織と連携し、オープンキャンパスに関連するポスターなどのデザインや海城オリジナルグッズの制作、音楽室のリノベーションといった数多くの案件を進めている。今年は生徒からの発案で、オープンキャンパスグッズの販売ブースのデザインも手がけた。チーム発足当初はコンペにより一つのデザインを決定していたが、現在はコンペ後にも生徒同士が活発な議論を重ねて、デザインを改良していく様子が見られる。生徒の活動について、美術科の天野友景先生がこう話す。
「本格的なデザイン制作にはチーム内でブラッシュアップする過程が大切です。最近は、それぞれの案件ごとにまとまって、生徒だけで話し合いができるようになってきました。デザインもよく練られたものばかりです。生徒が主体的に取り組んでいる様子に成長を感じます」
現在は、学校法人に新設された、これからの教育のあり方を調査する研究機関「海城教育研究所」のロゴ制作などが進行中だ。技術科と美術科の教科を超えたコラボもKAIJO DESIGN TEAMの魅力だ。空間デザインをサポートする中村先生は、デザインに対する客観的視点やプレゼン方法について指導。PRデザインをサポートする天野先生は、配色や形などの美術的視点でアドバイスしている。中村先生と天野先生がこう話す。
「お互いの教科の特性を生かして指導することで、生徒の視野を広げています。将来生徒たちがどのような分野に進んでも、活動で身につけた考え方や試行錯誤する力は大きな財産になるはずです」(天野先生)
「指導するうえで、デザインに対する感想を率直に伝えることを心掛けています。その一方で、業者との打ち合わせなどは生徒だけで進行させるなど、主体性を育むために指示を出しすぎないことも大切にしています」(中村先生)
昨年は、リノベーションや空間デザインに関する知見を広げるために、海城OBが建設に携わる東急歌舞伎町タワーの見学と講演会を実施した。担当者による丁寧な解説のもと、建物内のデザインの意味やこだわりを学ぶ機会になった。講演会では、OBから話を聞くだけでなく、生徒たちからも積極的に質問を投げかけていたという。卒業生の活躍を間近で感じ、生徒たちのデザインに対する意識も大きく変わったようだ。
この活動で学んだデザイン思考や問題解決能力を発揮して、生徒たちは将来様々な分野で活躍していくに違いない。
最後に受験生や保護者に向けて、中村先生と天野先生がこうメッセージを送る。
「本校ではKSプロジェクトや部活動など、多種多様な活動が展開されており、『やりたい』と感じたことにすぐに挑戦できる環境が整っています。ぜひチャンスを逃さず、いろいろなことにチャレンジしてもらいたいと思います」(中村先生)
「多彩な活動の場があることで、生徒たちは授業以外でもやりがいを見つけて、楽しい学校生活を送っています。自分と同じ興味・関心をもった仲間に出会い、ともに取り組むことで充実した学校生活を送ってほしいと思います」(天野先生)
STUDENT VOICE
東急歌舞伎町タワーの見学はとても実りのあるものでした。タワーには昔の歌舞伎座やボウリング場などを想起させる色合いやモチーフがあり、建物の歴史を大切にするこだわりにとても感動しました。OBによる講演会では、相手から共感を得られるようなプレゼン方法が大切だと学び、自分の活動でも意識するようになりました。チームで活動する中で、良いデザインを作るためには、積極的にお互いの意見を出し合うことが重要だと気付きました。クライアントへのヒアリングやチーム内での意見共有といった機会も多く、コミュニケーション能力が身につきました。海城は理系だけではなく、文系や芸術系においても幅広いことに挑戦できる学校です。入学前にやりたいことが決まっていなくても、自分が挑戦したいと思ったときに様々なことにチャレンジできるのが海城のいいところです。
オープンキャンパスのポスターの案件では、僕の案と他の人の案のどちらか一方が採用されることになりました。お互いが納得するまで話し合うことで、僕の案は別のグッズに取り入れることになり、良い雰囲気で取り組むことができました。自分一人では思いつかないアイデアを盛り込めることが、チームでデザインする良さなのだと実感しました。プレゼンをする機会も多く、自分の考えを自分の言葉で相手に伝える力がついてきたと思います。また、活動を通して、デザインにはシンプルな中にも些細な仕掛けがあると知り、身近なデザインに対してもどんな工夫が隠されているのか考えるようになりました。海城は自分と同じ興味・関心をもった人に出会いやすく、自分の居場所を見つけて充実した日々を送れる学校だと感じています。
チームメンバーは学年がバラバラですが、みんな同じデザイナーだという意識をもっており、思ったことを言い合える雰囲気があります。自分の頭に思い浮かんだデザインを言語化して説明する機会が多く、コミュニケーションの練習にもなっています。一方、お互いに意見を出し合う中で、何が最善なのかわからなくなってしまうことがあり、デザインの難しさを感じることもあります。東急歌舞伎町タワーの見学では、美術的なデザイン性だけではなく、客観的な視点で機能性や実用性を考えることの大切さも知りました。海城はやりたいことをのびのびとできる学校だと思います。僕がこのチームでやりたいことをかなえたように、同じ志を持った仲間と集まって様々なことに挑戦できます。自分が思い立ったときに自由に挑戦できる環境があるのは、とても大きなメリットです。
パソコンを使ったデザイン制作と、学校の広報に関わりたいという思いがあり、その両方をこのチームで実現できました。オープンキャンパスのパスポート制作では、どうしたら使いやすいデザインになるか、実際に使う人の立場になって考えるように心がけました。また、チームで活動していると、自分だけでは気づかなかった意見をもらうことがあり、段々と客観的な視点で考える力が身についてきました。現在は、海城教育研究所のロゴ制作プロジェクトでディレクターを担当しています。海城の伝統的な要素と革新的な要素を織り交ぜたデザインを制作中で、抽象的な概念を表現するのはとても難しいと感じています。クライアントの思いを組み込んだデザインになるように、日々試行錯誤しています。
取材日:2024.9.24