テーマは「冒険・自立・国づくり」巣鴨学園が新たに立ち上げた
海外研修プログラム「Sugamo Beyond Borders」とは?
巣鴨中学校・高等学校
日本の学校で初めて世界の名門中等教育学校が参加する国際組織『WLSA(World Leading Schools Association)』に正式加盟を果たすなど、国際教育に注力する巣鴨中学校・高等学校。そんな同校で、この夏、新たに立ち上げられた独自の海外研修プログラム「Sugamo Beyond Borders(SBB)」が実施された。同プログラムの概要や目的、一回目を終えての手応えなどを、国際教育部部長の岡田英雅先生にうかがった。また、SBBに参加した生徒たち3名に集まってもらい、思い出を語ってもらった。
「Sugamo Beyond Borders(SBB)」立ち上げの背景について、国際教育部部長の岡田英雅先生は、こう語る。
「海外研修のプログラムをつくる際に『安全』は絶対条件ですが、安全で安定したプログラムを求めるあまり、現地での授業に終始したり、定番の観光名所を訪れたりするだけでは勿体無い。少なくとも本校の生徒であれば、もっと挑戦ができると考えました。そこで、『冒険・自立・国づくり』の3つをキーワードに、ゼロから自前でつくったのがSBBです」
「冒険」とは不確定要素を取り入れること。現地で不測の事態が起きても、前向きに臨機応変な態度で対応することが狙いだ。「自立」とは親元を離れ、身の回りのことを仲間や自分だけでできるようにすること。予算を決めて自分たちで飲食店を利用したり、自炊のための食品を買ったりもする。最後の「国づくり」では、現在イギリス領でありながら独自の歴史と文化を持ち独立の気運の高いスコットランドや移民の街ブリックレインなどを訪れ、多面的に「国とは何か」を考える。
「国際教育において英語力向上は必要ですが、それ以上に大切なのは、世界には多様な価値観や考え方を持つ人たちが住んでいると知ることです。その上で、異なる立場の人とどのようにうまくやっていくかを本気で模索していくことが、真の国際教育だと考えています。SBBでは生徒たちに、多様な国のあり方や国際社会について、自分たちの肌で感じてもらい、生徒に変容をもたらすことを大きな目的としています」
現地だからこそ得られる経験を人生の糧にしていくプログラムを
SBBの特徴は、イギリス北部のスコットランドから、北東部のヨークを経て、オックスフォードへと各地の大学の寮を拠点にして街や史跡を巡り、土地ごとの気候風土や歴史、文化、産業、住む人の様子を視察し、体感して学んでいく移動式プログラムであること。
また、すべての旅程を生徒は6人ずつのグループで行動し、各地での研修中は、グループに1名ずつ帯同するイギリスの大学生が、グループリーダーとして生徒の気づきや理解を助ける。そして、寮での振り返りを中心に、イートン校などイギリスの名門校で教鞭をとる3名の教員が各地の歴史や文化について講義を行い、生徒の気づきを掘り下げていく。イギリス各地を教室にし、また教材として学ぶ、まさに現地でしかできない研修プログラムとなっている。
この研修プログラムづくりには、岡田先生とともに、長年の知己であり元イートン校教員であるチャーリー先生が企画から携わり、「生徒がいかに多くの気づきを得られるか」にこだわって練り上げたという。
「生徒たちは、事前に『工業化』『移民』『統治』など8つのテーマから1つを選び、旅行中はそのテーマに基づいて、各地を視察しました。帰国後、その成果をプレゼンテーションしたビデオをチャーリー先生に送り、先生からもフィードバックがありました。生徒それぞれが現地から持ち帰ったものを、掘り下げていき、今後の学び、さらには人生に活かしていってくれることを願っています」
STUDENT VOICE
参加した生徒たちが語るSBBの魅力
Q 印象に残ったできごとは何ですか?
髙橋 生徒だけで食事を作ったり、お店で食事をしたり、試行錯誤をするのは刺激的でした。食事代があまりに高くて焦り、翌日分を節約してなんとかしのぐという失敗もありました。また、イギリスのいろいろな地方の街を訪れた際には、石やレンガを使った日本とは全く異なる建築物が印象的でしたし、街ごとに雰囲気が違いました。日本であっても知らない場所がたくさんあるので、色々な土地のことをもっと知りたいと思いました。
浜中 グループリーダーとしてプログラムに同行してくれた大学生が、真面目で勉強熱心でありつつ、フレンドリーに接してくれるすばらしい人で、イギリスの名門大学への憧れを持ちました。僕はハリーポッターが好きなので、映画のモデルになったと言われているヨークの商店街を訪れた際にはテンションが上がりました。また、移民の人が多く住む街では、何語で書かれているのかもわからない看板などがたくさんあり、独特の雰囲気を感じました。
櫛田 ダラム大聖堂を訪れた際に、いろいろな窓の形があり、それは異なる時代の建築様式が取り入れられているからだと知りました。自分が見て疑問に感じたことを、グループリーダーに質問したり、話し合ったりできたことはいい経験になりました。研修旅行のテーマに選んだ「産業化」の視点で街や史跡を見ると、産業革命はイギリスを大きく発展させる一方、環境汚染などの負の面も引き起こしたことを実感しました。
Q SBBで成長したことは?
髙橋 参加前は現地で自分の英語が通じるのか不安がありましたが、現地では英語でしかコミュニケーションができないので、必死で話していくうちに英語との距離が近くなったように思います。最後の方では、グループリーダーと身構えることなく自然に話したいことを話せるようになっていました。ほかに、ずっと自分でスケジュールに合わせて段取りを考えつつ、自分の身の回りのことをやっていたので、日本に帰ってからも先のことを考えて行動をできるようになりました。
浜中 初日のヒースロー空港で乗り継ぎの飛行機がなくなってしまったことには正直ショックを受けましたし、翌日の満員列車での長時間の移動ではものすごく疲れました。でも、それを楽しもうというメンタルを養うことができ、僕の参加の目的の一つであったトラブルへの対応力はしっかりと身についたのではないかと思います。研修中はグループリーダーを交えてディスカッションする機会が多くあり、自分の考えを伝える力が伸びました。
櫛田 親のサポートがない環境で、自立心が芽生えたことです。また、見聞きする歴史・文化や、人と接する中で価値観のちがいを肌で感じることができました。日本人とイギリス人は似ていると言われていて、以前は疑いもなくそうだなと思っていましたが、初日の空港のトラブルで、日本人は責任感があると改めて思いました。ただ、イギリス人が悪いというのではなく、責任の範囲を明確にする文化なのだと納得できました。
取材日:2024.9.16