語ることばを持ち、
発信する力を育てる「聞く・話す」授業
女子聖学院中学校・高等学校
今年、創立115周年を迎えた女子聖学院。歴史と伝統を受け継ぎながら、時代の流れを取り入れた柔軟な教育を展開している。20年以上前から実施している授業「聞く力・話す力」について、国語科の諏訪部美和教諭と、鈴木美穂教諭に話を聞いた。
女子聖学院では「語ることばをもつ人を育てます」という教育目標を掲げ、日々の教育で実践している。中でも、すべての教科のもととなる国語科については、中1・中2で、「聞く・話す」という独立した授業を、週1時間設けている。この授業は1998年に導入され、時代に合わせて改良しながら継続されてきた。他校に先駆けて能動的・発展的な授業を行ってきた理由について、諏訪部教諭がこう話す。
「本校では創立以来『聞く力』を大事にしているからだと思います。以前は、入試に『聞き取りテスト』が課されていました。毎日の礼拝などでも先生の話を聞いてインプットし、内面を育て、それを『話す』というアウトプットにつなげています」
中1の前期では「私ってこんな人」という、自己紹介を兼ねたスピーチを行う。原稿を書き、決められた時間内にスピーチする練習や、2人1組での練習などを経て、全員が順番に、クラスメイトの前でスピーチをする。後期は、「似て非なるもの」という調べ学習を行う。たとえば、「お中元とお歳暮」など、普段意識しない言葉の相違点と共通点について、事典類などを使って調べて、手書きのレジュメにまとめる。完成したレジュメは印刷して配付し、それを基に調べたことを発表する。そして、クラス全員がコメントを一言書く。諏訪部教諭はこう話す。
「スピーチでは、『安心して失敗できる教室を作ろう』ということを早い段階で話しており、きちんと聞く態勢ができているので、失敗を恐れずに発表ができます。『似て非なるもの』のレジュメ作成では、他の人の作品を見ることで、デザイン性の高さやコラージュの仕方などから刺激を受けることもねらいにしています。今まで知らなかった友達の、〝新たな賜物(たまもの)〟の発見にもつながっています。レジュメや発表に対してのコメントは、傷つけるためのものではなく、プラスのストロークを投げかけるコメントを書けるようになってほしいと思っています」
中1での個人作業を経て、中2になると、グループ活動へと発展させる。前期に行うのは、「新聞作り」。まず、新聞記事の構成について、「ひと」欄など人物紹介の記事を参考にして学ぶ。そしてグループを組んで取材班を作り、友達などに取材し、『他己紹介』の記事を作成する。後期では、「環境問題」をテーマにプレゼンテーションを行う。自分で決めたテーマについて、1人1台のiPadを使って調べ学習を行う。その後、自分には何ができるのか、問題を解決するためにどうすればよいかについて、パワーポイントを使って発表する。鈴木教諭がこう説明する。
「『新聞作り』では、興味を引く記事を書くためのインタビューや情報収集の方法を学びます。出来上がった新聞は掲示し、どういう取材を行ったかなどの質疑応答をします。後期のプレゼンテーションでは、グループで話し合いを経て、自分の興味のあるテーマを決めます。グループ活動でのディスカッションは、他者の興味を知る機会であると同時に、コミュニケーション能力の育成につながっています」
基礎的な力を身につけた後、中3でのディベートの授業、高Ⅰでのビブリオバトルなどへとつなげている。さらに、この学びは他教科でも生かされている。
施設面では、2019年にICT機器を活用できるフューチャールームが完成し、先進的な授業が行われている。ICT機器の活用は、今春のコロナ禍における休校期間中にも大いに役立った。昨年度よりICT委員会を立ち上げ、教員の間でもICT化を進めていたため、4月の中旬からオンライン授業をスムーズに行うことができた。
さまざまな場面で「聞く・話す」力を涵養
本文見出し以下のコンテンツをここにいれる。
「聞く・話す」の授業で身につけたコミュニケーション能力・プレゼンテーション能力は、授業だけで育成されるのではなく、日常のあらゆる活動から総合的に涵養されている。実践の場は、ホームルーム、行事の役職、修学旅行の準備学習のプレゼンテーションなど、多岐にわたる。特に、全員に順番が回る生徒礼拝は、中学では教会紹介など、高校では自分の思いをクラスメイトに語る。数多くの実践から、人前で話す力はもちろんのこと、相手の立場に立ち、きちんと伝わるように話す力も自然と身についていく。こうした成果は、生徒会役員の選挙や運動会の役職の選挙など、自己アピールが必要な場面で役立っている。
卒業生である鈴木教諭は、学校の魅力について、こう話す。
「在学中は自己を見つめる機会がたくさんありました。自分を知ることで他者に対して寛容になり、価値観が合わない人でも『自分とは違うものが与えられているのだ』と許容できます。先生と生徒も仲が良く、深い信頼関係と安心感のもとで自己の内面が豊かに育てられるところが、本校の魅力です」
諏訪部教諭が、こう続ける。
教員同士の風通しの良さが、生徒にも安心感を与えていると思います。学年スタッフ全員で1学年を見て、支えています。教員自身が、学校が好きで楽しんでいる、ということは生徒にも伝わっていると思います。卒業生は、困ったことや、落ち込むことがあると帰ってきます。まるで母港のような学校です」
取材日:2020.8.28