女子聖学院の理科教育を象徴する
理科見学旅行

女子聖学院中学校・高等学校

人と答えが違うことに不安ではなく、自信と喜びを感じる心を養う美術教育

来年、創立115周年を迎える女子聖学院では、中2〜高3の希望者を対象に、「理科」をテーマに日本各地を見学する理科見学旅行を実施している。毎年、理科や旅行が好きな生徒が集まって様々な体験をするこのイベントについて、担当の相澤義徳教諭に話を聞いた。


1970年から始まった女子聖学院の理科見学旅行は今年50回目を迎えた。理科見学旅行が長く続いた理由について、担当の相澤義徳教諭がこう推測する。「理科見学旅行は、当時の理科教師の一人が、自身の好奇心を原動力にはじめたものです。その情熱が参加した生徒や他の教員に伝わり、代々手渡しされてきました。参加する生徒、教師がそれぞれの好奇心を大切にしながら、この旅行を生き生きと楽しんでいる。それがこれまで続いてきた理由だと思います」

夏休みに3〜4泊の日程で行われる理科見学旅行の目的地は毎年変わる。過去には、知床半島や、白神山地、立山黒部、屋久島、西表島、小笠原諸島などを旅行。離島や世界遺産をめぐる年は、人気が集中するという。理科が好きな生徒だけでなく、旅行自体が好きな生徒も参加しており、理科に興味を持つきっかけにもなっているようだ。リピーターも多く、中には中2から高3まで、欠かさず参加している生徒もいる。

今年の理科見学旅行は北九州と阿蘇だ。日本近代化のシンボルとなった八幡製鉄所の見学や、九州最大のカルスト台地である平尾台での鍾乳洞ケイビング、環境先進都市・北九州市では再生可能エネルギー施設見学と市職員による講演、「星の文化館」天文台での天体観測、阿蘇では中岳火口付近での自然観察フィールドワークに加えてパラグライダー飛行体験など。

このように盛りだくさんな内容になるのは、「物理・化学・生物・地学の4分野の要素を必ず組み入れる」という、この旅行独自の「こだわり」による。現地での体験をより深めていくために、旅行前には事前学習を10回以上開催している。

今回見学した事前授業では、パラグライダー体験を踏まえ、飛行機が飛ぶ原理について、相澤教諭が授業を行った。

事前学習は、現地で見学や体験をする際の"着眼点"を提示することを目的として行います。今日はパラグライダー飛行体験に向けて、飛行機研究の歴史と、揚力発生の理論の変遷を学びました。この旅行では郷土料理や伝統工芸など、一見理科とは無関係に見える事柄も含めて、あらゆるものに"理科的な目"を向けるわけですが、その経験を通して、物事を複眼的に捉えることの面白さを知って欲しいと期待しています」(相澤教諭)

理科見学旅行には中2〜高3まで、幅広い学年が参加しているため、学習歴もそれぞれ異なる。どの学年にも分かるように実験などを交えながら授業を行っている。

現地でのプログラムはフィールドワークや施設見学などが中心だ。プログラムの後には、旅行中に見たものや聞いた話、体験したこと、食べたものなどをまとめた「しおり」を作成。また、理科見学旅行を経て、調べてみたいと思った事柄を各自が設定し、夏休み中に研究するMy研究を進めていく。相澤教諭がこう話す。

「理科見学旅行では直接的な理科の学習にとどまらず、食事はすべて地のものをいただくなど、土地の文化に触れる機会も大切にします。そのようなことも含めての“自分が知らなかった世界の広がり”との出会いが、“次なる未知”への好奇心へとつながり、生徒のその後の学びと、将来に向けた歩みの原動力となっていくことを願っています」

女子聖学院の理科教育

理科見学旅行は女子聖学院の理科教育を象徴するイベントでもあるという。女子聖学院では、地学についても古くから専任教員を置いており、4分野についてバランスよく学べるカリキュラムがある。その特色について、相澤教諭はこう話す。

「地学は大学入試ではあまり重視されていない実情があります。しかし本校では、物理・化学・生物各分野や、様々な地球規模の社会的課題とつながる総合的な科目として、永年にわたって地学を大切にしてきました。自然科学全分野を背景とした"総合知"をもって、現代の諸課題に正しく向き合える人物を育てたいという信念が、女子聖学院の理科教育には古くから息づいているのだと思います」

STUDENT VOICE|高3 橋本さん

理科見学旅行には中2のときから毎年参加しています。子どもの頃から自然科学が好きで、女子聖学院を志望したのも理科見学旅行に参加したいという思いがあったからです。陶芸にはどんな種類があるのか、うどんがどうして、もちもちになるのかなど、様々なことを科学的な視点で捉えていく、面白い旅行です。

昨年は屋久島に行き、班に分かれてトレッキングをしました。1日中歩き続ける体験は初めてでしたが、ゴールの太鼓岩からの景色やたどり着くまでにみたコケの森、屋久杉、澤の水の味など、すべての体験が宝物になりました。

理科見学旅行を通して、教科書に書いてあることを勉強するだけでなく、自分の目で見て体験すること大事だということが分かりました。こうした体験を生かして、将来は自然科学系に進みたいと考えています。

取材日:2019.6.25