深い学びを実現し、総合的な人間力を養う
「サイエンスリテラシー」

日本大学櫻丘高等学校

日本大学櫻丘高等学校では、「櫻イノベーション」をスローガンとする学校改革が進行中だ。昨年、セカンドステージに突入し、新たに「ルーブリック評価×PDCA」を導入した。また今年度からは理科教育「サイエンスリテラシー」がスタート。この取り組みについて化学科の髙森悠也先生と、生物科の石原裕介先生に話を聞いた。


2019年から始まった学校改革「櫻イノベーション」。昨年はセカンドステージに入り、これまでの4つの柱のうち「ダイバーシティ理解」と「サイエンスリテラシー教育」を強化した。さらに、5つめの柱として新たに「ルーブリック評価×PDCA」を加えた。ルーブリック評価とは、思考力、表現力、情熱、多様性など、テストでは測れない力を可視化する評価方法。基準が曖昧であった「価値観領域」「スキル領域」について可視化することで、指標を明確にし、生徒の自己肯定感を高めることを目的としている。

ルーブリック評価の導入にあたっては、日本大学の教育理念である「自主創造(自ら学び、自ら考え、自ら道をひらく)」を基に、理想の生徒像を設定。教員たちで話し合いを重ねて、身につけて欲しい力として独自の「SAKURAルーブリック」を定めた。学力(知識)だけではなく、それを活用する「価値観」「スキル」をバランス良く身につけた「真の学力」を持った人の育成をめざす。

生徒主体の深い学び「サイエンスリテラシー」

今年度からは、3年生の理系の生徒を対象に「サイエンスリテラシー」を導入した。最初から最後まで生徒が考えて行動する、PDCAサイクルの理科教育だ。石原先生は導入した経緯について、こう話す。

「櫻イノベーションに『ルーブリック評価×PDCA』が加わったことを機に、これをうまく理科教育に取り込んだものが『サイエンスリテラシー』です。アクティブラーニングの一歩先を行くようなサイエンス教育を展開し、理科の面白さに気づくだけではなく、〝終わってみたら人間的にも成長していた〟という相乗効果を期待しています」

サイエンスリテラシーは週1時間で、生物選択・化学選択の生徒合同で行う。身近なサイエンスから興味のあることをテーマにして、自由に研究する探究活動だ。2〜3人で1組のグループで研究し、その内容は、iPadで編集・作成した動画を発表する。

生徒が選んだ研究テーマは、「ニンニクの口臭の消し方」「大学施設を利用したMRI(NMR)の原理の探求」「日焼け止めサプリは効くのか」「昆虫食」などユニークだ。仮説を立てて、実験を行い、動画の構成・作成まで、すべて生徒たちが自ら考えて実行した。実験に必要な道具や材料、器具などは、学校でそろえてもらえるため、好きな実験に思う存分挑戦できた。さらに、本校は東京都内の日大付属校で唯一大学(日本大学文理学部)に隣接しており、化学科の協力によって、大学の先生のレクチャーを受けながら、高度な実験装置(核磁気共鳴装置:NMR)を使用させてもらうことも可能だった。ほかの高校ではできない貴重な体験だ。

第1回目の発表を終えて、髙森先生がこう話す。

「実験テーマの設定から発表まで、生徒たちが自分で構成するという経験は、おそらく初めてで、反省する部分も多かったと思います。中には、実験結果が思い通りにいかなかったグループや、ペニシリンを作ろうとして断念してしまったグループもありましたが、『実験に失敗はなく、その方法ではうまくいかないとわかったから成功だ』と教え、結果を考察させました。大学の研究の先取りのような、深い学びをすることができ、良かったと思います」

また、石原先生がこう振り返る。

「教員の想像以上に、生徒は興味を持って活発に考え、楽しみながら取り組みました。実験では屋外に出て昆虫を捕まえたり、畑でフィールドワークを行ったりと、面白い内容の研究がありました。サイエンスリテラシーはまだルーブリック評価の対象外ですが、役割分担をして協力し合ったり、構成を考えたりすることはルーブリック評価の『スキル領域』の『人間関係力』につながります。また、研究結果をまとめて動画で発表することは『表現力』です。理科の学びが深まっただけではなく、社会的な成長につながったり、将来就きたい職業観へとつながったりすると思います」

取材日:2022.9.6