「自律と共生」を目指す、
新たな学校教育を実践

広尾学園小石川中学校・高等学校

「自学創造」を実現するきめ細かな教育プログラムを実践

今年、新たなスタートを切った広尾学園小石川中学校・高等学校。2018年から教育連携をしている広尾学園の教育に準じたプログラムが特徴だ。その教育とはどのようなものなのか。松尾廣茂校長に話を聞いた。


ー教育方針や特色をお聞かせください。

松尾 本校では、「自律と共生」を教育理念としています。グローバル化が進む中では、問題解決能力を高めるための自律、他者を思いやりながら共生して物事に取り組む力が重要になってきます。行事や日々の教育活動などを通して自ら考え行動し、切磋琢磨しながらそうした力を養ってほしいと考えています。

その第一歩として、中1からプレゼンテーションの機会を豊富に用意しています。いちょう祭(文化祭)では自分たちが興味・関心を持ったテーマを発表します。プレゼンテーションが得意ではなくても、自分の成果を発表することで周りの友達から拍手をもらい、自分のことのように喜んでもらう。それによって自分も他者の成功を喜べるようになる。それが共生だと私たちは考えます。

また、自律するためにはレベルの高い自学自習ができるようになってほしいです。そこで、2学期から「夢一直線プロジェクト」がスタートしました。問題集を用意し、それを終わらせる時期を設定。ゴールを逆算して、自学自習を進めていきます。これまで親や教員が伴走して進めてきた勉強を、生徒主導に変えていくことを念頭に置いた取り組みです。自分を伸ばしてくれる環境を探すのではなく、それが自分の中にあることに気づく。そのことが自律につながっていきます。

施設の整備も進んでいます。現在、中庭に2階建ての校舎を増築しており、来年12月に完成予定です。多目的教室を備える充実した教育環境が実現します。

ー2つのコースの特色を教えてください。

松尾 インターナショナルコースは、世界的視野を持った次世代のリーダーを育てるコースです。世界各国での滞在経験を持つ生徒が英語で授業を受けるアドバンストグループ(AG)と、英語に高い関心を持ち、これから英語力を伸ばしたい生徒が集まるスタンダードグループ(SG)があります。彼らが混在するクラスを編成。互いに刺激を受けながら成長し、海外・国内の難関大進学を目指します。

本科コースは、日々の教育活動を通して、多彩な力を育てていくコースです。中1から本格的なキャリア教育プログラムを行い、視野を広げていきます。

コースは異なっていても、生徒同士の交流は活発に行われています。AGの生徒が英語で学んでいる姿を見て、SGと本科の生徒は刺激を受けています。一方、AGの生徒は日本のカリキュラムで学んできた生徒と比べると、数学などの理系科目に遅れがある場合があります。その部分を本科やSGの生徒に教わるなど、お互いのウィークポイントを埋めながらそれぞれの強みを生かしており、それが共生につながっています。

ーキャリア教育についてお聞かせください。

松尾 本校ではキャリア教育を、自律を促していく取り組みの一つとしてとらえています。本物に触れ合うことを重視しており、地域と連携した取り組みも多数です。連携協定を結んでいる東京・目白の歴史ある男子学生寮「和敬塾」の卒寮生の中には社会の第一線で活躍されている方々がいます。その方々の特別講演会で講演をしてもらう機会を設けています。また、約90年の歴史を持つ東洋学の専門図書館「東洋文庫」では、多彩な展示物についての講義も受けます。今後、地域の和をさらに広げていく予定です。

また、広学スーパーアカデミアは、広尾学園で行われてきたキャリア教育の一つですが、一緒に参加します。社会の第一線で活躍している方々や最前線で活躍している研究者を招き、興味のある分野の講義を受けられるプログラムです。

その一方で、夢の実現に向けて頑張っている大学生や大学院生など、身近な先輩に話を聞くこともとても刺激になります。そうしたことからチューター制度を導入し、放課後には和敬塾の寮生や広尾学園のOB・OGが生徒の質問や相談に応じます。クラブ活動でも、プロとして活躍している選手を招き、時には英語での指導もしてもらっています。

ー育てたい人物像を教えてください。

松尾 世界とともに生きていける感性があり、精神的に豊かな生徒を世に送り出したいと考えています。今の子どもたちは挑戦する力が弱まっていると感じます。それは、自分の弱みを他者にオープンにできない時代になってきたことも原因の一つではないでしょうか。でも、自分の弱みを他者に話すことは大切なことで、それは相手を信用しているシグナルでもあります。そういう姿勢が精神的な豊かさにもつながります。

また、生徒をほめて自己肯定感を高めていくのが本校のスタイルです。一人ひとりの良いところを語れるように、教員たちは常に意識しており、それを保護者にも伝えています。他の生徒の模範となる行動をした生徒に対して表彰することも大切にしながら、子どもたちの変化や成長を見逃さないようにしています。

その一方で、生徒が失敗したときに戻る場所があるという安心感は絶対に必要なものです。困ったときに自分の羽を休める場所の一つとして、学校も加えてほしい。ご家庭と本校の教育が両輪となって生徒の成長を支えていけるように、教育活動を進めていきたいと思います。

取材日:2021.8.20