「問い続ける学びの場」で生徒の自由な発想を育て、
多様性を大切にする

青山学院中等部

キリスト教に基づき、一人ひとりの人格を育む教育を行っている青山学院中等部。大学までの一貫教育であることを生かした、受験勉強にとらわれない幅広い学びが特徴だ。今後の学びの中心となっていくことが期待されるメディアセンターについて、図書館司書の森田久美子教諭、ICT図書委員長の篠原基教諭(国語科)、三好文子教諭(社会科)に話を聞いた。


今年オープンしたメディアセンター(以下MCと略)は、青山学院中等部のそれまでの図書室とは全く異なる2層構造の図書館だ。1階は本棚、新聞・雑誌架、グループ学習エリアなどで構成され、新聞や雑誌を読みながら、くつろぐためのスペースもある。2階には本棚に加え、新たに個人キャレルを設置。落ち着いた空間で自習ができるようになったと生徒に好評だ。さらに、2クラス分のタブレットPCを配備し、印刷資料だけでなくデジタル資料を活用できる環境も整えた。これらの設備は全て中等部生専用だ。

数ある蔵書の中から生徒が自力で資料を探せる工夫も施している。本はテーマごとにまとめて書架番号の振られた本棚に配置され、検索用のパソコンでは本のラベルや書架ナンバーも表示するようにした。自宅でスマートフォンやパソコンからも図書館の蔵書を検索できるシステムがあるので、時間や場所に関係なく本を探すことができる。

MCの本は各教科の授業でも多く利用されている。蔵書の選定において、司書の森田久美子教諭がこう話す。

「生徒用に年間約1000冊の本を購入していますが、なるべく教科の先生の協力を仰ぐことを心掛けています。学校図書館の専門団体が、中学校図書館向けとして選定した本をジャンルによって教科に分けています。8割程がそのようにして選書したものです。教科に使えるか、生徒にとって身近な本であるかどうかの判断は、各教科の専門家にゆだねています」

中等部では司書教諭と教科の教員の授業との連携も密に行われている。その具体例について、国語科の篠原基教諭は「授業で扱う題材について深く調べたいときに、あらかじめ森田先生に本を集めていただくよう依頼します。また、長期休暇の課題などで調べ学習を生徒に課す際にも、まずはMCで調べて判らなければ司書の先生に尋ねるよう指導しています」と話す。さらに、こう続ける。

「膨大なコンテンツがある中で、事前準備として学習の狙いに合った図書を選んで提供し、学びの質を高める手助けをしています」

また、MC独自の取り組みとして、探究学習プロセスの意識付けも行っている。テーマの選び方や情報の集め方といった、学習活動のプロセスで活用される様々なスキルを、生徒が自分で確認しながら進められるように指導。自分が知りたいことにたどり着けるよう、体系的にものごとを把握することについてのアドバイスも行う。

中等部では2017年2月に新しく本校舎が完成し、教科センター方式を採用した。教科ごとにフロアが分かれ、ホームルームの教室と兼用の専用教室で授業を行っている。教科の特徴を生かした専用空間では、教科に関連する資料や図書を展示したり、生徒の作品を掲示したりしている。メディアスペースと呼ばれるこの専用空間のおかげで、より興味を深めた学習が可能になった。MCと連携して展示図書やICT環境も整備し、学校全体が学びの場となるよう意図されている。MCが各教科の学びを有機的に結びつける役割を担っている。

「MCを施設としてとらえるのではなく、機能として活用していきたいと思っています」(森田教諭)

そのMC2階のICT教室には、移動式の長机やホワイトボード、赤・白・黒・灰色の4色の椅子を置き、授業に役立てている。間仕切りをすれば2部屋になり、1階部分と合わせて最大で3クラスが同時に授業を展開できる。ICT教室の活用について、社会科の三好文子教諭がこう話す。

「教科センター方式の新校舎ができてからは各専用教室にICT機器が導入されていますが、ICT教室の魅力は“空間の特別感”です。椅子やホワイトボードを移動してグループと個人の作業を切り替えることも容易にできますし、4色の椅子に意味を持たせて4つのテーマ毎に集まることもできます。様々なツールを用いて生徒の知的好奇心を刺激することで能動的な学びにつなげたいと考えています」

「授業を受けるために移動する」という教科センター方式は、主体的に学ぶことにつながる。生徒の行動範囲が広がるため、クラスや学年を超えた交流もできる。青山学院中等部の良さについて、三好教諭がこう話す。

「生徒は自由にのびやかに過ごしています。本校では競争より協力を重んじ、多様性を大切にしています。自分と違う他者との関わりを通じて成長し、それぞれの賜物(強み)を磨ける環境があります」

今後は教科センター方式の中で、ICT教室での活動をどのように発展させていくかを考えることが課題だという。篠原教諭が言う。

「どの授業、どの単元、どの方法をどこでやるかという点において、一番良いところを見極めるのが重要です。以前に比べて可能性が大きく広がりました。教員が柔軟な頭を持ってチャレンジし、トライアンドエラーを重ねてその姿を生徒に見せていきたいと思います」

新校舎のコンセプトは「問い続ける学びの場」だ。MCがその中心となり、生徒の多彩な能力に応えていくことが期待されよう。

取材日:2019.7.11