オープンキャンパスの取り組みから見えてくる
理科教育に本当に必要なこと
海城中学高等学校

進学希望者に向けた学校主催の説明会の代わりに、独自のオープンキャンパスを開催している海城中学高等学校。そこで目にすることができるのは、「受験勉強」から解放され、学問の真の面白さに気づき、自ら学びを深めようとする生徒たちの、実に生き生きとした姿だ。今回は、特に理科系の部活動(物理部、化学部、生物部、地学部)の展示を通して、生徒たちにどのように主体性や探究心が培われているのかを紹介する。また、理科主任の橘正之先生ならびに、理科副主任の髙橋秀士先生に、海城が伝統的に大切にしている、実体験を通した理科の学びについて、その特徴を伺った。
海城中学高等学校は、10年ほど前からオープンキャンパスを開催している。一方的になりがちな大型会場での学校説明会ではなく、学校の日常をもっと肌で感じてもらいたいという意図から、各教科の展示に加え、部活動の様子も来校者に公開。現在は、夏のオープンキャンパス(8月に2日間)、秋のミニオープンキャンパス(10月と11月に1日ずつ)を実施している。事前予約制で、秋は順路に沿った見学、夏は校舎内を自由に回って施設や展示を見学できるほか、海城生への質問コーナーも設置されている。
近年、夏のオープンキャンパスで注目度が高いのが、物理部、化学部、生物部、地学部の展示だ。
「理科系の部活動の公開は、オープンキャンパス開催当初から行っていましたが、2021年にScience Center(3号館)を新築して以降、展示内容がどんどん手の込んだものになってきています。今や海城祭(学園祭)と同規模です」と話すのは理科主任の橘正之先生だ。Science Centerは物理、化学、生物、地学の全9室の実験室と部室を備えた、理科の専用棟だ。
早速部活の展示を覗くと、物理部では手作りの来客数カウンターが入り口で迎えてくれた。ゲーム制作や自動走行ロボット、3Dプリンタによる模型づくりなど、生徒たちの「やりたい!」から始まった取り組みが目を惹く。数々の実験で小学生を虜にしていたのは化学部だ。イクラそっくりのピンク色の球をつくる「人工イクラ」、緑色の液体をふると黄色に変わる「信号反応」、「ヨウ素でんぷん反応」など、見た目にも華やかな実験に加え、自作した結晶や試薬などを展示。
一方、所狭しと生き物を並べているのは生物部だ。魚類を中心に爬虫類や昆虫が出迎えるとあって小学生に大人気。ほとんどは部員が採取してきたもので、丁寧に世話をしている様子が窺い知れる。そして地学部の目玉は、黄鉄鉱の採集体験。実験室に水と砂の入った容器を用意し、小学生に比重の差を利用した採集方法を指導。どの部活でも、一生懸命説明をする生徒たちの姿が印象的だった。
「理科の本質」に迫るには本物に触れる体験が肝心
橘先生は海城の理科教育について次のように語る。「中学受験はまだまだ暗記が中心です。しかし本来、自然科学は観察や実体験を通して現象を検証して理解を深めるものです。見て、触れて、感じる体験から学ぶ、これが本校の理科教育の基本的な考え方です。特に中学は実験数が多く、教科書にないオリジナル実験も工夫しています。高校でもこの方針は変わらず、例えば物理では実験装置を自作して水面波の干渉実験を行ったり、コンデンサーや抵抗、コイルを駆使して独自の交流実験をしたりしています」
実験を通して一度でも感動体験ができると、生徒は自主的に学びを深め始めると言う。また、「化学では高校3年生でも実験を行っている」と続けるのは髙橋先生だ。
「高2や高3になると大学受験の演習に取り組みますが、出題される実験をやったことがあるかどうかで、理解の深さが全く変わります。そこで、高3の2学期までの間で、大学受験で定番の化学実験を8回ほど実施します。受験前の生徒たちの気分転換にもなりますし、何より自分の五感で確認することで、知識の定着率が格段に上がります」
記憶に残る実体験の場はほかにもある。たとえば、教員が企画し、生徒の多様な興味・関心を掘り起こす「KSプロジェクト」という講座。「ボルネオ探究学習」「知床実習」「みなかみスタディツアー」などが企画されている。ほかに、希望者をつのった野外実習もある。
こうした体験を積むことで、生徒たちには着実に観察眼や探究心が芽生える。そして部活動は、こうした探究心を具体的に掘り下げていくのに最適な場なのだ。
「部活動は縦のつながりもできます。部員たちは、時にはOBを頼って知識を深めています」(橘先生)
オープンキャンパスや海城祭で先輩たちが楽しそうだったから、という理由で進学や入部を決めたという生徒たちも多い。こうした好循環が、連綿と続く海城中高の伝統を育んでいるのだ。
一度身についた自然科学に対峙する姿勢や考え方は一生ものとなり、卒業後の彼らを支える柱の一つにもなる。今後の海城の理科教育からも目が離せない。
理科系部活の生徒の声
中学2年 地学部|山田 吏一郎さん
古生物や恐竜などが好きで、入学前のオープンキャンパスで地学部の活動内容を知り、入部しました。部活は、地質、天文、水文、気象の専門分野に分かれて研究活動をしていて、僕は地質が専門です。今日の展示では、化石を年代順に並べて、見る人が分かりやすいように工夫し、丁寧に説明することを心がけました。地学は人気科目とはいえないですが、海城は地学の授業も面白く、Science Centerの設備も整っています。
高校1年 物理部|五十嵐 拓人さん
物理部は、電子工作からペットボトルロケット、3Dプリンタを使った模型作り、無線など、何でもできる部活です。僕は「ゲーム制作班」に所属して、10人ほどのチームを組んで音ゲーなどを自作しています。オープンキャンパスでは、来校された方の表情を見て、伝わるように説明をするよう心がけています。海城の理科の授業は、実験が多いです。特に中学の生物の実験で、イカやエビ、ブタの眼の解剖を行ったことが印象的でした。
高校2年 化学部部長|村越 航汰さん
中学入学前に学校を見学し、Science Centerの実験室の機能が充実している点や化学部の活動を魅力に感じ、進学しました。化学部は薬品の購入などもでき、やりたい実験ができるのが最大の特徴です。オープンキャンパスにはたくさんの方が来校するので、体験実験をできるだけ効率よく進められるように工夫をしました。全員で複数の実験を担当して、どの実験についても自分たちの言葉で説明できるように準備しました。
高校1年 生物部副部長|小島 健広さん
小さい頃から生き物が好きで、生物部の活動内容を比較して中学校を選びました。海城の生物部は、魚類や両生類・爬虫類、昆虫などの飼育数がとにかく多く、自分の好きな生き物に加え、ほかの生き物の知識も身につけることができます。今日の展示では、子どもたちに人気のトカゲやヘラクレスオオカブトなどで、見学者が立ち止まってもよいように生き物の配置を工夫して、スムーズに見ていただけるように意識しました。
取材日:2026.8.31
