探究から研究へ
北里大学の系列校として進化する探究活動
北里大学附属順天中学校・高等学校

2026年4月より、医学・薬学・理学・未来工学など医療・生命科学系の9学部を擁する北里大学の系列校になった北里大学附属順天中学校・高等学校。「進学教育」「国際教育」「福祉教育」を教育の柱に、高水準の探究活動に取り組んでいる。今春から、北里大学と連携した新しいプログラム「北里探究」がスタート。さらに進化する同校の探究活動について、教育支援センター長の片倉敦先生と高校2年生の生徒6人に話を聞いた。
「英知をもって国際社会に貢献できる人間を育成する」ことを教育目標に掲げる北里大学附属順天中学校・高等学校。2026年4月より、医療・生命科学の総合大学である北里大学の系列校になった。大学の専門知識や施設・設備をこれまで以上に活用し、生徒の成長につながる教育プログラムを進めている。
同校は「創造的学力」「国際対話力」「人間関係力」の養成に寄与する探究活動に力を入れている。中学の「共生社会探究」では、障がい者やその支援者との交流や、環境問題・歴史探訪・平和教育を目的としたフィールドワークを実施。様々な立場の人と協働する姿勢を養っている。こうした取り組みは、高校の探究活動にもつながっている。
高校では「理数探究」「英語探究」「総合探究」の3系統に分かれ、社会貢献を重視した探究活動を行う。理数探究は化学・生物などの理数系、英語探究は国際・社会福祉・アントレプレナーの課題に取り組む。総合探究では文系・理系にかかわらず幅広いテーマを扱い、自分の進路を見極めていく。
どの系統も、自分で決めたテーマに沿って仮説を立て、実験・調査を行う。先行研究や実験方法を調べる中で、興味がある分野を知り、大学進学につなげていく。同校の探究活動について、教育支援センター長の片倉敦先生がこう話す。
「自ら社会課題を見つけて、実験計画を立てることで創造性を磨いています。ここで培われる力は社会で活躍するために必要な力です。時間をかけて根気強く実験に向き合う生徒の姿が見られますが、北里柴三郎先生が掲げた『終始一貫』の信念に通じるものがあります」
学外のコンテストにも積極的に参加している。昨年は、環境省と国立環境研究所が主催するエコチル調査全国フォーラムで最優秀賞を受賞。今年は、日本環境化学会主催の高校環境化学賞で優秀賞に輝いた。株式会社マイナビ主催のキャリア甲子園では、全国3000以上の学校の中でベスト12になった。また、学内でもビジネスコンテスト「究コン」を実施し、成果を発表している。
今年の3月から、放課後や土曜日に、北里大学と連携した希望制のワークショップ「北里探究」もスタートした。これまで、出張講座・実験や研究室訪問実習を9回以上実施。データサイエンスを用いた桜の開花予想や受精卵の凍結保存実験など、生徒の興味を引く様々な講座を用意している。6・8月には北里大学白金キャンパスで探究内容を発表する「北里順天探究ジュニアサミット」を開催。教授や大学院生から直接アドバイスを受けるよい機会になった。
「教授・大学院生からの親身なアドバイスが、生徒の探究内容を深めています」と片倉先生。
9月には、中3対象の「理系探究」も始まった。今後は、高校の理数探究の授業でも北里大学の博士や博士研究員の指導を受けられる体制を整えていく。片倉先生がこう語る。
「これまで実現困難だった高度な実験ができるようになったので、理数分野の探究はさらに充実していくと思います。北里探究では各学部の魅力も分かるので、内部進学制度を積極的に活用するなど、進路の幅を広げてほしいです。AI時代に必要不可欠な理系人材として、将来幅広い分野で活躍することを期待しています」
「北里順天探究ジュニアサミット」に参加した
生徒による探究活動の取り組み
埼玉県の特産品「クワイ」の葉や茎を有効活用したエタノールの精製
普段は廃棄されているクワイの葉や茎を有効活用し、バイオエタノールを精製する探究活動を行っている。クワイの土に生息する菌類を使った生物学的な手法により、二酸化炭素の発生量を抑え、環境負荷の少ない実験に取り組んでいる。今後は、クワイの土と、クワイ以外の畑や校庭の土に棲む菌類を比較する実験も進めていく予定だ。
小野 私たちの出身地である、埼玉県の特産品であるクワイを探究テーマに選びました。3人で実験方法を話し合い、先輩や先生に助言をもらいながら、探究活動を進めています。答えのない問題にじっくり向き合っていくのが探究活動の面白いところです。自分で考えて行動することには責任も伴いますが、やりがいもあります。専門的な実験手法や器具を使って、高校生のうちから本格的な探究活動ができるのが北里順天の魅力です。
渡邊 不要な葉や茎を活用することで、資源を循環させ、環境に負荷をかけない新たなエネルギー源になると考えました。農家をはじめ誰かの役に立つ研究なので、やりがいがあります。北里大学の教授からのアドバイスで、新たな視点を得ることができ、迷っていた研究に生かすことができました。将来は薬に関わる仕事をしたいと思っています。探究活動で身につけた研究のプロセスは、将来役に立つと思います。
佐高 クワイの葉や茎を再利用することで、埼玉県の特産品として知名度を高めたいという思いがあります。実験は失敗することもありますが、試行錯誤を繰り返すことが楽しいです。先生はいつも親身に相談に乗ってくださり、夏休みには埼玉県までクワイの収穫にも連れていっていただけました。探究活動でとても小さな菌類を扱ったことで、目に見えない世界への視野が広がりました。将来は、海や森などの自然環境や生態系について調査したいと考えています。
日焼け止め成分「ベンゾフェノン」を分解する微生物はいるのか
日焼け止め製品に含まれる化学物質が環境問題を引き起こしている現状に着目。北里大学の機材を利用して不忍池の土壌を採取し、その中の微生物が化学物質「ベンゾフェノン」を分解するかを検証した。横浜薬科大学主催のハマヤクサイエンス研究会で特別賞、日本薬科大学主催の日薬ハイスクール科学・探究発表会で優秀賞を受賞した。
八重樫 ベンゾフェノンの先行研究ではあまり使われていない淡水域の土を使用することでオリジナリティを出しました。高度な実験内容を理解するのは大変でしたが、授業で習った知識を生かして結果を出すことができました。北里大学の高性能な機材を使うほか、教授から新たな実験方法を提案してもらうことで、ハイレベルな探究活動になりました。探究活動で学んだことを生かして、将来は海外の医療に携わりたいです。
遠藤 先輩が堂々と発表する姿に憧れて、この探究テーマを引き継ぎました。大学の教授と探究内容について議論することがとても楽しいです。「探究活動はうまくいかない経験があるからこそ面白い」という教授の言葉を胸に、実験では何度も試行錯誤しています。探究活動を通して、自然環境を守るためには科学技術だけでなく、人の行動を変えることも必要だと学びました。将来は留学し、海外で環境保全を学び、環境保護活動や環境教育にも携わりたいです。
キノコが発する電気シグナルと成長促進
キノコに電気刺激を与えることで発する電気シグナルと、成長速度の関係性を調査。キノコの種類や生息場所による電気シグナルの違いなどを明らかにする実験を行っている。東京大学の教授や大学院生が中高生の探究活動をサポートする「先端研ユースアカデミー」に合格し、アドバイス受けながら、探究内容をさらに深めている。
勝田 キノコ同士が電気シグナルを介して“喋る”ことを知り、この探究テーマを選びました。実験の工夫次第で期待通りの成果が得られることが面白いです。また、探究ジュニアサミットで教授から声をかけてもらったことがモチベーションになりました。先端研ユースアカデミーでは、研究者としての在り方を学び、教授や大学生と対等に議論できるのがうれしいです。限られたデータから自分で考えて答えを導き出す経験は、今後の自分の支えになると思います。
取材日:2026.9.9
